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子供時代
他視点 黒き竜王の守り人②
しおりを挟む「土人形に命を吹き込む魔法だなんて見た事も聞いた事もない」
目の前の自分の主ーーガイナスの言葉に俺は同意するように頷いた。
「あの黄色っぽい光は恐らく光魔法だろうが、たぶんそれだけじゃないだろうな。………ったく、お前といいお前のあの番の子供といい、どいつもこいつもどうなってんだよ」
「……俺はまだ竜人族の枠からは出てないぞ」
「おめーだって時間の問題だろうが。そもそもあのレシュテルヘルの生まれ変わりだって言われてる時点でおめーはもう傍から見りゃ竜人族からは外れてんだよ」
俺の言葉にガイナスは無表情ながらも不服そうにフンと鼻を鳴らした。
つくづく番とその他の前では態度の違う男である。
(この顔をあのシルフィリアってガキに見せてやりてぇ。ぜってぇ驚くだろうな。むしろ別人かと思うかもしれねぇな)
「そういやあの子供、年のわりにはなんだか大人みたく落ち着いてるし、なんかチグハグっつーか違和感感じてたんだよな。さっきのアレを見るとなんか他にもあんじゃねーか?」
「……まぁ、そうだろうな」
死角になる木の陰から自分の番を見つめる表情は、先程の無表情とは似ているもののどこか熱の籠った……それでいてどこか寂しげな雰囲気を纏わせていた。
この男もこんな表情が出来たのかと僅かに驚く。
(本人はすっげぇ嫌がってるけど3人の中じゃコイツが一番竜王の器っつーか、竜人の中でも格がちげぇんだよな)
──────────────
地底竜の巣に落とされたマッケンたち3人が成人の儀を無事やり終えて60年ほど経った頃。
それまでただ1人の君主として国を導いてきたガイナスの叔父でもあるウェルヘルベス竜王陛下が崩御した。
見た目は人間で言えば40代くらいであったが、実際の年齢は竜人の平均寿命である400歳をとうに超えた500歳を過ぎていた為老衰と判断された。
この突然の訃報に国内は一時騒然としたが、元来竜人は国に頼らずとも各々で生きていける力と行動力がある。
それでも国のトップが居ないままとなればいかに一強として名高いこの国でも、他国から見れば国が不安定な今が攻め時と見て何かしら行動を起こされる可能性があった。
なので一時的措置ではあるが、次の王を決めるまではウェルヘルベス竜王陛下の側近であり親友でもあったバルティモワ宰相が代理を務めることになった。
彼は息子であるガラハットに後を継がせる為に、竜人には珍しく語学や世界の歴史など息子の教育にも力を入れていた。
それまで他国で商家の補佐兼護衛として働いていたガラハットは以前から父親には言われていたのか、急に国に連れ戻されても怒る事はなかった。
さらには勉強も嫌がる事なく真面目に父親や父親の雇った他国の家庭教師から学んでいると聞く。
(あんないかにも騎士みてぇなごっついナリして次期宰相候補とかおもしれぇな)
マッケンは今までガラハットとは特に接点も接触も無かったのだが、元々面白い物や人物に興味津々な男である。
そんな彼はガラハットという人物について少しだけ興味が湧いたのだった。
・
・
・
・
・
「お前たちの中から次代の竜王を選出する」
集められた王宮の豪奢な一室。
そこには俺たち3人の他に同年代らしき若者が数名居た。
どいつも国のお偉いさんの息子や娘として一度は見た事がある顔だ。
基本的に竜人は自由で縛られる事が嫌いなタチなのだが、人族同様に昔から権力にものを言わせて美味い汁を吸ってきた奴らは違うらしい。
今も自分以外の顔を見渡しながら蹴落とす算段をしているに違いない。
「あら、そこに居るのはガイナス様じゃありませんの!」
耳障りな甲高い女の声に顔を顰めながらそちらの方を見ると、成人前からやたらとガイナスに付き纏っていた国のお偉いさん(役職は忘れた)の令嬢が嬉々としてガイナスに近づいてきた。
「何度もガイナス様宛にお手紙を送っておりますのに、ガイナス様ったらちっともお返事をくださらないんですもの。わたくし待ちくたびれてしまいましたわ!」
「……そのまま俺の事なんぞ忘れてしまえば良かったのに」
令嬢の言葉に普段より数段低い声でボソリとガイナスが呟いでいるが、令嬢はそれが聞こえないのかはたまた聞こえないフリをしているのか。
ある意味強い女であるその令嬢はいつも通り無表情の彼を気にした素振りもなく、なおも彼にしつこく話しかけていた。
「かの有名な古代竜の子孫であるガイナス様ならきっとこの国のトップに選ばれますわ!……あぁでも、その時は新しい王を傍らで支える者も必要になる事でしょう?どうかしら、わたくしは身分も申し分ないし見た目や能力だって他の者には劣っていないと自負しております。なにより……ずっと前から貴方様だけをお慕いしている、この国には珍しい一途な女ですのよ」
そう言ってその令嬢はガイナスの右腕に抱きつくと、ご自慢の豊満な胸を彼の腕に押し付けてそのまましなだれ掛かった。
ガイナスは無表情のまま、眉を少し不愉快げにピクリと動かしたくらいで微動だにしない。
彼がその女に全く興味が無い事は、令嬢本人を除いて周りの目にも明らかだった。
そもそもだ。
あの令嬢は自分の事を“一途な女”だと主張しているが、実際彼女は既に結婚もしていて夫がいる身なのである。
今も心から慕っているのはガイナスだけなのかもしれないが、堂々と公の場で浮気宣言するような女は信用ならないし元より本命からはゴミを見るような目で見られているのを本人はいまだに気付いていない。
「ガイナスってばほ~んと表情筋死んでるよねぇ。こんな能面男に番が出来たらどうなるんだろ。考えただけでおもしろそ~」
そう言ってケラケラ笑うファープニルに俺は苦笑しながらも心の中で同意した。
だがその約30年後。
実際に番が出来て暴走するガイナスに苦労させられる事になろうとは、この時のマッケンは予想すらしていないのであった。
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