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子供時代
第12話 シルフィ、初めての旅行編④
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短い間だがお世話になったワイマールさんたちに別れを告げ、惜しみつつもミンク村を出た俺たち一行は、少し予定より時間をオーバーしつつも国境の近くにあるツヴェッタという町に到着した。
ミンク村と比べるとやはりこちらの方が規模が大きく、町の入口には立派な木製の門と、その両側に帯剣した警備兵がそれぞれ立っていた。
「町に入りたいのですが」
左側に立っていた警備兵の男性に声を掛けたマッケンさんは俺たちの名前と身分を簡単に説明すると、何やら腰に付けたポシェットのような小さなカバンから紙を取り出しその兵士に見せていた。
「ト、トライア・ドラグーンの竜王陛下!?ど、どうぞお通りください!」
マッケンさんに声を掛けられていた兵士が慌てたように門に手を掛けて外側に押し開き、俺たちを中に入れてくれた。
そうして中に入って少し進んだ先で立ち止まり後ろを振り返ると、門を開けてくれた兵士がもう1人の兵士に何やら興奮した様子で話しかけていた。
「………ガイナス様って本当に偉い方なんですね」
「ブフォッ」
俺のしみじみと言った言葉にマッケンさんが堪えきれず吹き出した。
横を歩いていたロッゾは「何を当たり前な事を言ってるんだ」というような目でこちらを見てきた。
「俺の肩書きだけは立派だけど、シルフィにはこの肩書きもいまいち響いてないみたいだしなぁ」
そう言ってガイナス様は苦笑している。
それにマッケンさんが反応した。
「ガイナス様の肩書きに興味のある奴らはガイナス様本人に淘汰されますからねぇ」
「当たり前だ。あんな塵よりも価値の無い奴らにまとわりつかれても迷惑以外の何物でもない」
心底嫌そうな顔をしてそう言ったガイナス様は、斜め後ろでロッゾと並んで歩いている俺の方に体を向けると避ける間もなく素早く俺に腕を伸ばし、人目も気にせず俺をお姫様抱っこすると頬っぺを合わせてスリスリと頬ずりした。
「ちょ、ガイナス様!恥ずかしいから下ろして!」
「可愛いね、シルフィ。俺にはシルフィさえ居れば他に何も要らないんだけどなぁ」
噛み合わない会話をしながら俺は足をバタバタさせて抵抗を試みるが、もちろんガイナス様にはそんなもの何の抵抗にもならない。
頬ずりした後上げた顔は俺を見て嬉しそうに微笑んでいる。
「ガイナス様、番が大好きなのは分かるが国の事もちょっとは気にしてくださいよ」
マッケンさんの言葉にガイナス様は言葉では無く鼻で笑って返事をした。
………王様がそんな反応で良いのだろうか。
──────────────
「時間も時間だし、今日はこの町で泊まろう。明日の朝出発すれば夕刻までには城のある首都ユグドラシアに着くだろう」
そう言ってガイナス様は俺たちを引き連れて町の中で一番大きな宿屋へと向かった。
しばらく歩くと目の前に3階建ての大きな建物が現れた。
ミンク村でお世話になったワイマールさんのお屋敷より断然こっちの方が大きい。
「すみませーん!4人泊まりたいんですけどー」
マッケンさんが無人の受付に声を掛けると、奥から丸い眼鏡をかけた三つ編みおさげの若い女性が出てきた。
「はいは~い!あらやだ、イケメン揃い!……あ、すみません。イケメン見ると持病の発作が……ご宿泊のお客様ですね!」
俺たちを見ていきなり興奮した後に真顔になって最後の方モゴモゴと何かを呟いていた受付の女性は、部屋の希望や食事の有無を確認した後、3階にある客室の鍵を渡してくれた。
ちなみに支払いは前払い制らしく、またもやマッケンさんが腰に付けたポシェットみたいなカバンから見慣れない銀色のコインのような貨幣?を出していた。
俺がそれを物珍しそうに見ているのに気付いたのか、隣に居たガイナス様が俺の顔をのぞき込むようにして見てくる。
「シルフィは共通通貨を見た事ないのかな?」
「共通通貨?」
ガイナス様曰く、各々国の中だけで使える貨幣と大陸全土で共通して使える貨幣があり、先程マッケンさんが出したのは大陸全土で使える『共通通貨』と呼ばれる物なのだとか。
通貨レートやら相場やらと小難しい事もついでに教えてくれたが、その辺は今のところ覚える気が無いので右から左に抜けていった。てへぺろ。
「夕食は1階の併設の酒場でバイキングだそうだ」
この世界にもバイキング料理の概念はあるらしく、好きな物を好きなだけ取ってきて食べるセルフ式の提供方法は、平民層の店に特に受け入れられていた。
「どんな料理が出るんだろ。楽しみですね、ガイナス様」
「この町は海に近いから魚などの海産物が特に美味くて有名だ。シルフィは山に囲まれて育ったから海の食べ物はあまり食べた事が無いんじゃないか?」
……確かに“今世”ではまだ海産物はほぼ食べた事がない。
前世はししゃもフライが好物だった俺としては、似たような物が食べれたらとっても嬉しいんだけどな。
「私は以前ここに泊まった事があるんですけど、その時昼に出された『冥土渡り蟹のグラタン』がとても美味しくて、今でもあの味が忘れられないんですよねぇ」
そうやってしみじみと語るマッケンさんには悪いが、一つツッコミたい。
“冥土渡り蟹”って何?
海じゃなくてあの世でも渡るの??
「俺はやはり『爆弾持ちししゃものフライ』だな。あれは酒にも合う」
ガイナス様もにこやかに語っているが、ちょっと待って。
“爆弾持ちししゃも”も何なの!?
子持ちししゃもなら前世で食べた事あるし知ってるけど、爆弾持ちって……腹に爆弾でも抱えてるの!?(ほぼ正解)
「私は食べた事はありませんが、前に侍従仲間から教えてもらったところ、この町の宿屋で夕飯に出た『包丁鰹のたたき』がとても美味しかったそうです」
包丁……鰹………?
頭に包丁でも刺さってる鰹なの……?
それとも体の一部が包丁っぽくなってたり?
考えれば考えるほど恐ろしすぎる。
って言うかさ!
この世界の海産物の名前、どれも物騒すぎない!?
ミンク村と比べるとやはりこちらの方が規模が大きく、町の入口には立派な木製の門と、その両側に帯剣した警備兵がそれぞれ立っていた。
「町に入りたいのですが」
左側に立っていた警備兵の男性に声を掛けたマッケンさんは俺たちの名前と身分を簡単に説明すると、何やら腰に付けたポシェットのような小さなカバンから紙を取り出しその兵士に見せていた。
「ト、トライア・ドラグーンの竜王陛下!?ど、どうぞお通りください!」
マッケンさんに声を掛けられていた兵士が慌てたように門に手を掛けて外側に押し開き、俺たちを中に入れてくれた。
そうして中に入って少し進んだ先で立ち止まり後ろを振り返ると、門を開けてくれた兵士がもう1人の兵士に何やら興奮した様子で話しかけていた。
「………ガイナス様って本当に偉い方なんですね」
「ブフォッ」
俺のしみじみと言った言葉にマッケンさんが堪えきれず吹き出した。
横を歩いていたロッゾは「何を当たり前な事を言ってるんだ」というような目でこちらを見てきた。
「俺の肩書きだけは立派だけど、シルフィにはこの肩書きもいまいち響いてないみたいだしなぁ」
そう言ってガイナス様は苦笑している。
それにマッケンさんが反応した。
「ガイナス様の肩書きに興味のある奴らはガイナス様本人に淘汰されますからねぇ」
「当たり前だ。あんな塵よりも価値の無い奴らにまとわりつかれても迷惑以外の何物でもない」
心底嫌そうな顔をしてそう言ったガイナス様は、斜め後ろでロッゾと並んで歩いている俺の方に体を向けると避ける間もなく素早く俺に腕を伸ばし、人目も気にせず俺をお姫様抱っこすると頬っぺを合わせてスリスリと頬ずりした。
「ちょ、ガイナス様!恥ずかしいから下ろして!」
「可愛いね、シルフィ。俺にはシルフィさえ居れば他に何も要らないんだけどなぁ」
噛み合わない会話をしながら俺は足をバタバタさせて抵抗を試みるが、もちろんガイナス様にはそんなもの何の抵抗にもならない。
頬ずりした後上げた顔は俺を見て嬉しそうに微笑んでいる。
「ガイナス様、番が大好きなのは分かるが国の事もちょっとは気にしてくださいよ」
マッケンさんの言葉にガイナス様は言葉では無く鼻で笑って返事をした。
………王様がそんな反応で良いのだろうか。
──────────────
「時間も時間だし、今日はこの町で泊まろう。明日の朝出発すれば夕刻までには城のある首都ユグドラシアに着くだろう」
そう言ってガイナス様は俺たちを引き連れて町の中で一番大きな宿屋へと向かった。
しばらく歩くと目の前に3階建ての大きな建物が現れた。
ミンク村でお世話になったワイマールさんのお屋敷より断然こっちの方が大きい。
「すみませーん!4人泊まりたいんですけどー」
マッケンさんが無人の受付に声を掛けると、奥から丸い眼鏡をかけた三つ編みおさげの若い女性が出てきた。
「はいは~い!あらやだ、イケメン揃い!……あ、すみません。イケメン見ると持病の発作が……ご宿泊のお客様ですね!」
俺たちを見ていきなり興奮した後に真顔になって最後の方モゴモゴと何かを呟いていた受付の女性は、部屋の希望や食事の有無を確認した後、3階にある客室の鍵を渡してくれた。
ちなみに支払いは前払い制らしく、またもやマッケンさんが腰に付けたポシェットみたいなカバンから見慣れない銀色のコインのような貨幣?を出していた。
俺がそれを物珍しそうに見ているのに気付いたのか、隣に居たガイナス様が俺の顔をのぞき込むようにして見てくる。
「シルフィは共通通貨を見た事ないのかな?」
「共通通貨?」
ガイナス様曰く、各々国の中だけで使える貨幣と大陸全土で共通して使える貨幣があり、先程マッケンさんが出したのは大陸全土で使える『共通通貨』と呼ばれる物なのだとか。
通貨レートやら相場やらと小難しい事もついでに教えてくれたが、その辺は今のところ覚える気が無いので右から左に抜けていった。てへぺろ。
「夕食は1階の併設の酒場でバイキングだそうだ」
この世界にもバイキング料理の概念はあるらしく、好きな物を好きなだけ取ってきて食べるセルフ式の提供方法は、平民層の店に特に受け入れられていた。
「どんな料理が出るんだろ。楽しみですね、ガイナス様」
「この町は海に近いから魚などの海産物が特に美味くて有名だ。シルフィは山に囲まれて育ったから海の食べ物はあまり食べた事が無いんじゃないか?」
……確かに“今世”ではまだ海産物はほぼ食べた事がない。
前世はししゃもフライが好物だった俺としては、似たような物が食べれたらとっても嬉しいんだけどな。
「私は以前ここに泊まった事があるんですけど、その時昼に出された『冥土渡り蟹のグラタン』がとても美味しくて、今でもあの味が忘れられないんですよねぇ」
そうやってしみじみと語るマッケンさんには悪いが、一つツッコミたい。
“冥土渡り蟹”って何?
海じゃなくてあの世でも渡るの??
「俺はやはり『爆弾持ちししゃものフライ』だな。あれは酒にも合う」
ガイナス様もにこやかに語っているが、ちょっと待って。
“爆弾持ちししゃも”も何なの!?
子持ちししゃもなら前世で食べた事あるし知ってるけど、爆弾持ちって……腹に爆弾でも抱えてるの!?(ほぼ正解)
「私は食べた事はありませんが、前に侍従仲間から教えてもらったところ、この町の宿屋で夕飯に出た『包丁鰹のたたき』がとても美味しかったそうです」
包丁……鰹………?
頭に包丁でも刺さってる鰹なの……?
それとも体の一部が包丁っぽくなってたり?
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