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子供時代
第9話 シルフィ、初めての旅行編①
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「(こんなに早く)シルフィを連れて帰国できるなんて思わなかったから嬉しいよ」
何か含みを持った言い方が気になったが、目の前のガイナス様は満面の笑みでそう言った。
どうやってガイナス様に言いくるめられたのか、父様が疲れたような顔で俺に「竜王陛下やアンガー殿が居るなら大丈夫だとは思うが、くれぐれも気を付けるんだよ」と声をかけてくれた。
母様は「道中、お腹が空いたらこれを食べなさい」と温めたミルクに浸してもなおカッチカチの硬さを誇る手作りクッキーの入った袋を渡してくれたが、「荷物をこれ以上増やしたくないので」と残念そうな顔をしつつも頑なにお断りした。
そんな俺の横でそのやり取りを見ていたガイナス様が「袋ごと叩きつければ鈍器になるな」と小声で呟いていたが俺は何も聞こえてなんていない。
「一応、我が家からシルフィの護衛兼世話係としてロッゾを付けます。ロッゾ、シルフィを頼んだよ」
「大役仰せつかりました。坊っちゃま、竜王陛下、アンガー様、よろしくお願い致します」
俺より6つ上で、年齢としては我が家の侍従の中で1番近いアンガーがトライア・ドラグーンまで付いてきてくれると聞き、馴染みの者が居るという安心感で幾分か緊張が解れた。
逆に俺の事を全て世話する気でいたらしいガイナス様はちょっと不服そうにしていたが。
どうやら竜人というのは自分が番の世話をすることに幸福を感じる種族らしい。
出来ればご飯だけでなく着替えやお風呂、トイレにも付き添ってお世話したいと言われた時はドン引きした。
ただでさえ(強制的に座らされた)膝の上で給餌されるのにも慣れなかったのに、婚約者になったとは言え竜王様に出先までお世話してもらうなんて畏れ多い。
それにロッゾは食事の時に見て知ってるとは言え、マッケンさんにまで給餌されているところを見られたら俺は恥ずか死ぬ。
「兄様にもご挨拶したかったのですが……」
「クラウスに言ったら絶対ブチ切れ…止められてただろうから、居なくて良かったと思うよ」
父様は乾いた笑いと共に力なくそう言った。
──────────────
両親と侍従たちに見送られ、俺たちはまず国境の近くにあるツヴェッタという町を目指した。
移動方法は人型から竜型に変態したガイナス様とマッケンさんにそれぞれ俺とロッゾが乗せてもらい、空を飛んで移動するというものだ。
竜型となったガイナス様は真っ黒い竜でマッケンさんは茶色い竜だ。
どうやら人型の時の髪色がそのまま竜の肌の色となるらしい。
どちらも見上げるほど大きくて、前世のファンタジー映画で見た恐竜っぽい翼の生えたドラゴンそっくりだった。
俺は特に乗り物酔いなどもなく、ガイナス様が魔法で空気抵抗を減らしてくれたおかげかわりと快適であったが、ロッゾは実は高所恐怖症だったらしくガタガタ震えながら終始目を瞑っていた。
「ロッゾ、大丈夫?」
「お、お手間を取らせてしまい大変申し訳…ご、ございません……」
青い顔で持参の水筒から水を飲むロッゾの背中を摩っている俺の後ろで、人型に変わり服を着たガイナス様とマッケンさんが地図を広げた。
父様が領主として治めているワーマイア領はアウクシリア王国の最北端に位置し、四方を山に囲まれている僻地だ。
冬になると山や周囲は雪に覆われ、外部から訪れる人は少ない。
それに近くには魔物の群れが不定期で発生する森も存在している。
今、俺たちが居るのはそんなワーマイア領から北東にそこそこ進んだ場所にあるミンクという小さな村の手前だ。
さすがに竜の姿で村に入ったら村人を混乱させてしまうので、その手前の森で人型に戻ってから向かおうという事になった。
ガイナス様たちだけならそのまま夜通し飛べば明け方にはトライア・ドラグーン王国に着くらしいが、俺やロッゾという体力の少ない人族を連れている為俺たちの身を案じて夜はこの村で休む事にした。
ロッゾもあまり気分が良くなかったみたいなのでそういった配慮は有難い。
「さて、ロッゾ殿が回復したら完全に暗くなる前に村に入ろうか。ここらは魔物が出ると聞くからね」
「はい」
一同頷き、ロッゾは立ち上がると「もう大丈夫です」と言った。
──────────────
小さい村のせいか、村の入口には警備の兵士など特には立っていないようで、誰にも止められることなくそのまま村の中にすんなりと入れた。
周囲を見渡すが人通りはほとんど無く、たまに見かける人は目が合うとこちらを物珍しそうな目で見ていた。
そのまま4人で村の中を歩き、宿らしき建物を探す。
「おや、お客さんかね?」
その声にそちらの方を向くと、初老の男性がにこやかな顔で俺たちを見ていた。
マッケンさんが一歩踏み出し、その男性に声をかける。
「ちょうど良かった。私たちは旅の者なのですが、4人泊まれる宿があれば紹介して頂けませんか?」
「おぉ、旅のお人だったとは!こんな小さい村に訪れる人間なんてなかなか居なくてねぇ。良かったら儂の家に来なされ。宿では無いが4人泊まれるだけの部屋はあるし、飯も妻に用意させよう」
「とても有難いお言葉ですが、本当によろしいのですか?」
「あぁ、子供たちも巣立って夫婦二人で住むにはちぃとばかり大きい家でね。遠慮せんと、4人とも儂に付いて来なされ」
そう言って男性が歩き始めたので俺たちは顔を見合せて頷くとその後に続く事にした。
何か含みを持った言い方が気になったが、目の前のガイナス様は満面の笑みでそう言った。
どうやってガイナス様に言いくるめられたのか、父様が疲れたような顔で俺に「竜王陛下やアンガー殿が居るなら大丈夫だとは思うが、くれぐれも気を付けるんだよ」と声をかけてくれた。
母様は「道中、お腹が空いたらこれを食べなさい」と温めたミルクに浸してもなおカッチカチの硬さを誇る手作りクッキーの入った袋を渡してくれたが、「荷物をこれ以上増やしたくないので」と残念そうな顔をしつつも頑なにお断りした。
そんな俺の横でそのやり取りを見ていたガイナス様が「袋ごと叩きつければ鈍器になるな」と小声で呟いていたが俺は何も聞こえてなんていない。
「一応、我が家からシルフィの護衛兼世話係としてロッゾを付けます。ロッゾ、シルフィを頼んだよ」
「大役仰せつかりました。坊っちゃま、竜王陛下、アンガー様、よろしくお願い致します」
俺より6つ上で、年齢としては我が家の侍従の中で1番近いアンガーがトライア・ドラグーンまで付いてきてくれると聞き、馴染みの者が居るという安心感で幾分か緊張が解れた。
逆に俺の事を全て世話する気でいたらしいガイナス様はちょっと不服そうにしていたが。
どうやら竜人というのは自分が番の世話をすることに幸福を感じる種族らしい。
出来ればご飯だけでなく着替えやお風呂、トイレにも付き添ってお世話したいと言われた時はドン引きした。
ただでさえ(強制的に座らされた)膝の上で給餌されるのにも慣れなかったのに、婚約者になったとは言え竜王様に出先までお世話してもらうなんて畏れ多い。
それにロッゾは食事の時に見て知ってるとは言え、マッケンさんにまで給餌されているところを見られたら俺は恥ずか死ぬ。
「兄様にもご挨拶したかったのですが……」
「クラウスに言ったら絶対ブチ切れ…止められてただろうから、居なくて良かったと思うよ」
父様は乾いた笑いと共に力なくそう言った。
──────────────
両親と侍従たちに見送られ、俺たちはまず国境の近くにあるツヴェッタという町を目指した。
移動方法は人型から竜型に変態したガイナス様とマッケンさんにそれぞれ俺とロッゾが乗せてもらい、空を飛んで移動するというものだ。
竜型となったガイナス様は真っ黒い竜でマッケンさんは茶色い竜だ。
どうやら人型の時の髪色がそのまま竜の肌の色となるらしい。
どちらも見上げるほど大きくて、前世のファンタジー映画で見た恐竜っぽい翼の生えたドラゴンそっくりだった。
俺は特に乗り物酔いなどもなく、ガイナス様が魔法で空気抵抗を減らしてくれたおかげかわりと快適であったが、ロッゾは実は高所恐怖症だったらしくガタガタ震えながら終始目を瞑っていた。
「ロッゾ、大丈夫?」
「お、お手間を取らせてしまい大変申し訳…ご、ございません……」
青い顔で持参の水筒から水を飲むロッゾの背中を摩っている俺の後ろで、人型に変わり服を着たガイナス様とマッケンさんが地図を広げた。
父様が領主として治めているワーマイア領はアウクシリア王国の最北端に位置し、四方を山に囲まれている僻地だ。
冬になると山や周囲は雪に覆われ、外部から訪れる人は少ない。
それに近くには魔物の群れが不定期で発生する森も存在している。
今、俺たちが居るのはそんなワーマイア領から北東にそこそこ進んだ場所にあるミンクという小さな村の手前だ。
さすがに竜の姿で村に入ったら村人を混乱させてしまうので、その手前の森で人型に戻ってから向かおうという事になった。
ガイナス様たちだけならそのまま夜通し飛べば明け方にはトライア・ドラグーン王国に着くらしいが、俺やロッゾという体力の少ない人族を連れている為俺たちの身を案じて夜はこの村で休む事にした。
ロッゾもあまり気分が良くなかったみたいなのでそういった配慮は有難い。
「さて、ロッゾ殿が回復したら完全に暗くなる前に村に入ろうか。ここらは魔物が出ると聞くからね」
「はい」
一同頷き、ロッゾは立ち上がると「もう大丈夫です」と言った。
──────────────
小さい村のせいか、村の入口には警備の兵士など特には立っていないようで、誰にも止められることなくそのまま村の中にすんなりと入れた。
周囲を見渡すが人通りはほとんど無く、たまに見かける人は目が合うとこちらを物珍しそうな目で見ていた。
そのまま4人で村の中を歩き、宿らしき建物を探す。
「おや、お客さんかね?」
その声にそちらの方を向くと、初老の男性がにこやかな顔で俺たちを見ていた。
マッケンさんが一歩踏み出し、その男性に声をかける。
「ちょうど良かった。私たちは旅の者なのですが、4人泊まれる宿があれば紹介して頂けませんか?」
「おぉ、旅のお人だったとは!こんな小さい村に訪れる人間なんてなかなか居なくてねぇ。良かったら儂の家に来なされ。宿では無いが4人泊まれるだけの部屋はあるし、飯も妻に用意させよう」
「とても有難いお言葉ですが、本当によろしいのですか?」
「あぁ、子供たちも巣立って夫婦二人で住むにはちぃとばかり大きい家でね。遠慮せんと、4人とも儂に付いて来なされ」
そう言って男性が歩き始めたので俺たちは顔を見合せて頷くとその後に続く事にした。
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