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子供時代
第8話 竜王様は番を愛でるのに忙しい
しおりを挟む「ーーー……以上が『勇者』と『聖女』の話です。
そして先程私がガイナス様に言った“自称勇者”というのは10年前に『勇者召喚の儀』がクェダットで行われた際に異世界から召喚されたとされる勇者の事で、“聖女様”というのは現在うちの国に滞在しているアウクシリアの聖女シカールカ様の事です」
「おぉー!この国にも聖女様って居るんですね!」
「ええ、そうです」
ここまで淡々と話してくれていたマッケンさんは、ガイナス様とコメディのような軽快な会話のやり取りをしていた際の陽気な面はなりを潜め、歴史を語る学者や先生のように至極真面目な表情で言葉を紡いでいる。
「過去の『聖女』が書いたとされる書物によると、救世主となる『勇者』が召喚される世界には、勇者の行動を阻もうとする『魔王』と呼ばれる悪しき者が存在します。彼らは光と闇、表裏一体の存在なのです。そして『魔王』が世界に干渉し過ぎると感じたら神が介入し、そこで神の代行者となる『聖女』が既にその世界に居る者を器として覚醒します」
そこまで語るとマッケンさんは一呼吸置くようにメイドが淹れてくれたお茶を飲み、口を潤わすとまた続きを語る為口を開いた。
「『聖女』は1つの国に必ず1人だけ現れ、覚醒時に神によって与えられた最高レベルの光魔法を用いて魔物を屠り、瘴気によって穢れた地を浄化する力を持ちます。また、『聖女』の一番の特徴は神から節目節目にお告げーー神託を授けられる事です。『勇者』も召喚時に神からお言葉を頂けるようですが、基本はその時一度きりです。ただ、ミッガルトのように国が滅びかけて聖女の器が居ないと判断された場合は聖女が覚醒しない事もあるようです。それとは別に、うちの国のように聖女様が高齢だった場合は、聖女としての役目を終える前に寿命を迎えてお亡くなりになる場合もあります」
マッケンさんの分かりやすい解説を聞きながらふむふむと頭の中でノートに書き込んでいる想像をする。
実際は何もメモを取っていないので強く印象に残っている部分以外は記憶から消えてしまうだろうが、大事な所を覚えていればきっと大丈夫……なはず。
「それで?俺が国境でちょっと時間食ってた時にガラハットから伝書鳥で《自称勇者というのがシカールカに会いに来たが居留守を使って追い返した》と知らせは来ていたが。……また来てたのか?」
隣に座っている俺を腕の中に抱き込みこちらに顔を向けて微笑みながら、ガイナス様は視線だけチラリとマッケンさんに向けた。
抱き込む腕を剥がそうとした事もあったが無駄だと今は分かっている。
俺みたいなひ弱な子供が竜人にかなうはずがない……諦めが肝心。
「そうだ、アンタがこの前威圧でぶっ倒した国境警備のヤツらに後で謝っといてくださいよ!アイツら一瞬の出来事で手も足も出なかったって相当凹んでますし……」
「何したんですか、ガイナス様……」
胡乱げな表情で見上げる俺に、ガイナス様は誤魔化すように頬をスリスリと擦り合わせた。
相変わらず頬っぺが冷たい。
「…………ハァ。あぁそうそう、勇者の話でしたね。その自称勇者が既に3回ほど聖女様に面会を申し出てるんですよ。城の門番しか勇者の姿を見てなくて本人なのか判断が付かないから“自称”って付けてるんですけど。聖女様的には「たぶん本物」らしいです」
「…………で?シルフィを愛でるのに忙しい俺に会いに来てまでそれを伝えた意図は?」
(愛でるのに忙しいとは……?)
何言っとんじゃコイツと半目になったがいまだに頬っぺを合わせているので顔が見えない。
最近ずっと嗅いでいるせいで嗅ぎ慣れてしまったフローラルなガイナス様の香りに気持ちが和らぐ。
「ファープニル様が自分じゃどうにも出来ないからガイナス様を連れ戻して来いってうるさいんですよ。ミーシャ様もガイナス様の後に番見つけてそのまま新婚旅行に行っちゃいましたし、ファープニル様はめんどくさいと思ったら誰でも関係なくいつも殺して解決しようとしますし……ガラハット様が止めてますけど」
「ファープニルに何かを考えろという方が無理だろう。アイツの頭の中はほぼ水しか詰まってない」
(水……?水しか詰まってないって何……?)
俺がガイナス様の暴言に反応している間にもガイナス様とマッケンさんの話は続く。
「分かってるなら一度戻ってきてくださいよ!」
「だが断る。シルフィと離れるくらいならファルに勇者だかなんだか殺らせればいいだろ」
「そうやって下手に手を出すと後々面倒になりそうだからこうやって悩んでるんでしょーが!どうしても離れたくないならシルフィリア様も連れていけばいいでしょう!?」
「なるほど、その手があったか」
(なるほどって……え?)
急に話がこっちに飛び火してきて思わずビクッとする。
マッケンさんが「しまった」という顔をしていた。
頬ずりしていた顔を上げて俺を見たガイナス様の目はそれはもうキラッキラと輝いていた。
だがよく見ると、輝いている黒目の中にあるさらに濃い黒色の瞳孔は爬虫類の目を思わせるような縦長に伸びている。
「ご両親に挨拶はしたし、次は俺の両親にシルフィを紹介する番だな!」
「……その理由今考えましたよね?」
ボソッと呟いた俺のツッコミを聞こえなかったかのようにスルーしたガイナス様は、善は急げと俺とマッケンさんをその場に置いて、父様の居る書斎に足早に向かった。
俺は無言でマッケンさんを見る。
「………………申し訳ございません、シルフィリア様」
元凶であるマッケンさんは俺に向かって深々と謝罪した。
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