上 下
11 / 32
子供時代

他視点 アウクシリアの聖女①

しおりを挟む

「……は?またアイツ脱走したの?」

いけ好かない宰相の側近である男の報告を聞いた私はうんざりとそう返した。

「脱走と言いますか……今回はつがいの方をお迎えに行かれたようでして」
「脱走じゃん。てゆーか番の子ってまだ子供って言ってなかった?」
「はい。シルフィリア様と申しまして、確か御年10歳だったかと……」
「うわ、ロッリ!いや男の子だっけ?ならショタじゃん!アイツマジ変態じゃん、ウッケる~」

私のあんまりな言いように側近の男の顔色が青くなったり赤くなったりして面白い。
あんまり気にしすぎるとただでさえ頭の髪の毛少ないのに無くなっちゃうよ?
まぁあのクソムカつく腹黒宰相の傍に居るんだから遅かれ早かれストレスで無くなるか。

「つ、つきましては聖女シカールカ様にはガイナス様の代わりに本日の南との会談に出ていただくようにと宰相閣下から申しつかりまして」
「えぇ~めんどーい!」
「そ、そこをなんとか!」
「えぇ~……」
「お願い致します、聖女様!」
「えぇ~でもな~」
「この通りです!」
「ん~いやぁ~えぇ~」

嫌そうにしている私にあの腹黒宰相の側近は死にそうな顔で懇願する。
必死すぎていっそ哀れに思えてくる。
なるほどあの腹黒、これが狙いか。


「ルカ、まだ渋っているのか」

声の方を向くとライオンのオスのようなたてがみに似た赤い髪をなびかせた筋骨隆々の男が私に近付いてくる。
ただし着ている服は裾部分に金色の刺繍がされた黒いローブで、筋骨隆々だと分かるのはローブがノースリーブで丸太のように太い腕が出ているからである。
今日も三角筋や上腕二頭筋がとっても立派ですねぇ……ケッ。

「宰相閣下!お疲れ様です!」
「あぁ、お前はもう下がって良い」

宰相閣下と呼ばれたどう見ても戦闘職のような見た目の赤い髪の男は、側近にそう言うと片手をヒラヒラと振った。
すると先程まで私に食い下がっていた男は一礼した後そそくさと部屋から出て行った。

「いつ見ても宰相には見えないんだけど。もはやギャグなん?」
「……何を言っている?」

行儀悪くソファに片肘をつきながら胡乱げに目の前の男を見る。
眉根を寄せたその表情は不快を表しているように見えてその実ただキョトンとしているだけだと気づいたのはいつからだろうか。





──────────────





自分に与えられた部屋から宰相の執務室に場所を移し、勝手に持ち込んで部屋の隅に置いておいた魔法で動くポットで湯を沸かして2個のカップに茶を入れる。
そのカップの取っ手を掴みそのままテーブルまで持ってきて置くとソファにどかっと座って勝手に茶を飲み始める。
私のその様子を扉の前で黙って見ていた男は私がソファに座った後、その横に当然のように座った。
如何せん男の体が大きい為、体が密着して窮屈だが今はもう抵抗しても無駄だと諦めた。

「……ルカ。先程もあの男から話があったと思うが今から1時間後にクェダットとの会談がある。お前も来い」
「へーへー。どうせ引き摺ってでも連れてくんでしょ」
「分かっているならアイツを困らすな」

この自由人が多い竜人の国で宰相をしているこの男は大柄な見た目に反して策略を得意としている。
もちろんこの男自身竜人なので見た目に合った強さもあるが、基本脳筋が多い竜人の中では頭脳戦が得意な彼のようなタイプは珍しかった。
決して竜人自体地頭は悪くないのだが、頭で考えるより先に体が動くのが彼らなのだ。

そう言えば脱走して番を捕まえに行ったガイナスも規格外な力もあるがはかりごとも得意だった。


「今更自分たちが追い出した・・・・・『勇者』を探してるなんてホント馬鹿って馬鹿だよね~」
「普通の頭があればまず『勇者召喚の儀』など行わん」
「いやほんとソレ」

自分の横に座った男が会話の最中いつものように腰に腕を回したのを黙殺しつつ、男から渡された私的にはどうでもいい会談用の資料に目を通した。

「ブハッ!うちアウクシリアから『聖女』を派遣しろって本気で言ってんの?アイツら」
「そのようだな」
「絶対仕事浄化が終わっても帰す気ないじゃ~ん!」
「だろうな」

淡々とした返しに隣の男の顔を見上げる。


「……それで?旦那様・・・は私を向こうにくれてやるわけ?」

私の言葉に目線をこちらに向けると片方の口角を僅かに上げてクッと笑う。


「まさか。お前をやるくらいなら滅ぼしてやる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

処理中です...