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子供時代
他視点 アウクシリアの聖女①
しおりを挟む「……は?またアイツ脱走したの?」
いけ好かない宰相の側近である男の報告を聞いた私はうんざりとそう返した。
「脱走と言いますか……今回は番の方をお迎えに行かれたようでして」
「脱走じゃん。てゆーか番の子ってまだ子供って言ってなかった?」
「はい。シルフィリア様と申しまして、確か御年10歳だったかと……」
「うわ、ロッリ!いや男の子だっけ?ならショタじゃん!アイツマジ変態じゃん、ウッケる~」
私のあんまりな言いように側近の男の顔色が青くなったり赤くなったりして面白い。
あんまり気にしすぎるとただでさえ頭の髪の毛少ないのに無くなっちゃうよ?
まぁあのクソムカつく腹黒宰相の傍に居るんだから遅かれ早かれストレスで無くなるか。
「つ、つきましては聖女シカールカ様にはガイナス様の代わりに本日の南との会談に出ていただくようにと宰相閣下から申しつかりまして」
「えぇ~めんどーい!」
「そ、そこをなんとか!」
「えぇ~……」
「お願い致します、聖女様!」
「えぇ~でもな~」
「この通りです!」
「ん~いやぁ~えぇ~」
嫌そうにしている私にあの腹黒宰相の側近は死にそうな顔で懇願する。
必死すぎていっそ哀れに思えてくる。
なるほどあの腹黒、これが狙いか。
「ルカ、まだ渋っているのか」
声の方を向くとライオンのオスのような鬣に似た赤い髪をなびかせた筋骨隆々の男が私に近付いてくる。
ただし着ている服は裾部分に金色の刺繍がされた黒いローブで、筋骨隆々だと分かるのはローブがノースリーブで丸太のように太い腕が出ているからである。
今日も三角筋や上腕二頭筋がとっても立派ですねぇ……ケッ。
「宰相閣下!お疲れ様です!」
「あぁ、お前はもう下がって良い」
宰相閣下と呼ばれたどう見ても戦闘職のような見た目の赤い髪の男は、側近にそう言うと片手をヒラヒラと振った。
すると先程まで私に食い下がっていた男は一礼した後そそくさと部屋から出て行った。
「いつ見ても宰相には見えないんだけど。もはやギャグなん?」
「……何を言っている?」
行儀悪くソファに片肘をつきながら胡乱げに目の前の男を見る。
眉根を寄せたその表情は不快を表しているように見えてその実ただキョトンとしているだけだと気づいたのはいつからだろうか。
──────────────
自分に与えられた部屋から宰相の執務室に場所を移し、勝手に持ち込んで部屋の隅に置いておいた魔法で動くポットで湯を沸かして2個のカップに茶を入れる。
そのカップの取っ手を掴みそのままテーブルまで持ってきて置くとソファにどかっと座って勝手に茶を飲み始める。
私のその様子を扉の前で黙って見ていた男は私がソファに座った後、その横に当然のように座った。
如何せん男の体が大きい為、体が密着して窮屈だが今はもう抵抗しても無駄だと諦めた。
「……ルカ。先程もあの男から話があったと思うが今から1時間後にクェダットとの会談がある。お前も来い」
「へーへー。どうせ引き摺ってでも連れてくんでしょ」
「分かっているならアイツを困らすな」
この自由人が多い竜人の国で宰相をしているこの男は大柄な見た目に反して策略を得意としている。
もちろんこの男自身竜人なので見た目に合った強さもあるが、基本脳筋が多い竜人の中では頭脳戦が得意な彼のようなタイプは珍しかった。
決して竜人自体地頭は悪くないのだが、頭で考えるより先に体が動くのが彼らなのだ。
そう言えば脱走して番を捕まえに行ったガイナスも規格外な力もあるがはかりごとも得意だった。
「今更自分たちが追い出した『勇者』を探してるなんてホント馬鹿って馬鹿だよね~」
「普通の頭があればまず『勇者召喚の儀』など行わん」
「いやほんとソレ」
自分の横に座った男が会話の最中いつものように腰に腕を回したのを黙殺しつつ、男から渡された私的にはどうでもいい会談用の資料に目を通した。
「ブハッ!うちから『聖女』を派遣しろって本気で言ってんの?アイツら」
「そのようだな」
「絶対仕事が終わっても帰す気ないじゃ~ん!」
「だろうな」
淡々とした返しに隣の男の顔を見上げる。
「……それで?旦那様は私を向こうにくれてやるわけ?」
私の言葉に目線をこちらに向けると片方の口角を僅かに上げてクッと笑う。
「まさか。番をやるくらいなら滅ぼしてやる」
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