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子供時代
第6話 最初の『勇者召喚の儀』
しおりを挟む「それがですね、また来たんですよ自称勇者が。うちに居る聖女様に会いに」
(勇者!?聖女!!??)
マッケンさんが話し出した内容の中に聞き捨てならない単語を見つけ密かにテンションが上がる。
前世で流行ったファンタジー系漫画・アニメ・小説・ゲーム等々の創作物に登場する人物の中でも重要な人物として描かれる事が多いのがこの『勇者』や『聖女』。
所謂オタクと呼ばれるほどそういった作品に詳しかった訳では無いが、チラッと見たそれ系のアニメや小説ではどちらも世界を救う人物として描かれる事が多かったと思う。
そんな創作の中の人物が自分が今を生きているこの世界にリアルで居ると聞けば、興味が湧くのも当然と言えよう。
「あ、あの!」
意を決して話に割り込んだ俺に、マッケンさんとガイナス様が同時に顔を向ける。
なんだという顔を向けられてちょっと引いてしまいそうになったが好奇心には勝てない!
「お話を中断させて申し訳ないですが出来れば勇者様と聖女様の事、詳しくお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか!?」
「もちろんだよ、シルフィ。マッケン、早く説明しろ」
「……ハイハイ、分かりましたよ」
マッケンさんが苦い顔をして語り出したのは、俺がシルフィリアとして生まれた年に起きた『勇者召喚の儀』と『聖女の覚醒』の話からだった。
──────────────
「ちょうどシルフィリア様がお生まれになった年、私たちが今いるアウクシリア王国からさらに南、砂漠の国と昔言われていたクェダット王国の一部の王族が禁忌とされていたはずの『勇者召喚の儀』を行ったのです」
遡ること云百年前、最初に勇者召喚を行ったのは今は亡きミッガルト大帝国という世界の大半を治めていた国だった。
ミッガルトの当時の皇帝であるノアロークが夢で神からお告げを受けた事が始まりとされる。
当時世界は突如現れた魔物によって生活を脅かされ、ノアローク皇帝の治世は混乱を極めた。
そんな中、ノアローク皇帝が受けた神託に人々はもちろん彼自身も藁にもすがる思いだった。
神託に従って力のある魔術師を各地から集め、異世界から世界を救う『勇者』の召喚を行った。
それが『勇者召喚の儀』である。
「今は亡きミッガルトが当時異世界から召喚した『勇者』はまだ幼さの残る少年だったと記録にあります。ですがその少年を鍛えてから戦地に送り出すなどの時間の猶予は既にありませんでした。世界の命運は異世界から勝手に連れてこられたばかりのその少年に託されてしまったのです」
その少年は勝手に連れてこられて、勝手に『勇者』に祭り上げられてどう思っただろうか。
喜ぶ、という事はきっとないだろう。
……なら、
怒ったのだろうか。
悲しんだのだろうか。
嘆いたのだろうか。
それとも、
ーー憎んだのだろうか。
「だから焦っていて自分たちの事しか考えられなかった彼らは何故か信じて疑わなかったのでしょうね。無理矢理人攫いのように異世界から連れてこられた子供が、何の恩もないその世界で命懸けで魔物と戦ってこいと戦地に放り出す身勝手な人々の願いを無碍にする事など無い、と」
その少年は身勝手な彼らの事をどう思っていたのだろうか。
「いくら召喚される際に神から特別な力を授かっていようとも、少年は人を殺したことも無ければ魔物と戦ったことも無い普通の少年でした。それを「この世界が大変なことになっているから早くどうにかしてきてくれ」と言われてろくな準備も無いままに魔物が蔓延る戦地に放り出されて無事で済むはずがありません。
…………そう、無事で済むはずが無かったんです」
その少年はこの世界のことをどう思ったのだろうか。
「『勇者』の持つ驚異的な回復能力で死にかけていた体の傷は癒えても、少年の心はどんどん磨り減って疲弊し、遂には心が壊れてしまいました。そして『勇者』が使えなくなったことで世界はまた魔物の脅威にさらされる事になりました。ここまでが最初の『勇者召喚の儀』に関する昔話です」
「マッケンさん」
自分の足元を見ながら聞いた話を思い出すように淡々と言葉を紡いでいたマッケンさんの名を呼ぶと、ハッとしたように俺の方を向いた。
「その、壊れてしまった少年はその後どうなったのでしょうか」
「………殺されたようです。錯乱して暴れ回っていたらしく、最期は召喚の元凶であるミッガルトの者の手によって葬られました。最後まで身勝手で酷い話です」
「ほんとに……酷いですね」
でもこれが最初の『勇者召喚の儀』という事は、
「その後も勇者召喚はされるんですね……」
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