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27 グロリア・ロズウェル侯爵令嬢 グロリア視点

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 なんという事かしら?
 私はゲームの世界に転生してしまったみたい。
 産まれた時から前世の記憶があった。
 前世での私は「田中 愛美」政治家の父をもち、祖父は日本屈指の企業の会長。なに不自由無い生活でしたが周りは私に学歴や立ち居振舞いなどの完璧を求めた。
 そんな生活に多少息苦しさを感じていたのだろう、恋愛ゲームでつかの間の現実逃避を楽しんでいた。
 この世界はその中の一つ、「ルミナス学園の聖なる乙女達」というゲームの世界観とそっくり。
 ゲームの内容は五人の乙女達が聖女に認定されるため競いあい、その過程で攻略対象と出会い引かれあうというもの。プレイヤーはまず五人の内の一人を選び、スタートする。
 その中でも、もっとも難しいキャラが私、グロリア・ロズウェル侯爵令嬢。
 グロリアは派手なローズレッドの髪を縦ロールにし前髪はパッツン。勝ち気な赤茶色のつり目。性格は負けず嫌いでわがまま。高級志向で格下のものは見下すという一番聖女からほど遠いキャラ。悪役令嬢という役なのだ。
 しかし私は幸いなことに、このゲームの攻略方法を知っている。
 現在8歳の私だが、もうすでに起動修正にとりかかり、順調に聖女に近づいている。この王都ではすでに私のことを聖女と呼ぶ者もいるくらいだ。
 髪はサラサラストレートにし、ドレスも慎ましやかな物を好む。礼儀作法は完璧。貧しい人には炊き出しを施し、孤児院には多額の寄付を。
 更には婚約者である生まれつきお体の丈夫ではない王様には負担を減らすために車椅子をプレゼントし、方々手を尽くし虚弱体質を改善する漢方薬を入手した。
 と、いうのもポーションは元の状態に戻すことは出来ても生まれつきの虚弱は治せないから。
 このように小さな頃から王様に尽くし、お体が改善されればきっと私に感謝していただけるはず。
 しかし、不安なのはゲームとまったく同じではないということ。
 あの弱々しい王様が本当にゲームのキャラのように成長するの?
 髪と瞳の色は同じだけれど、ゲームの王様はプラチナの髪をオールバックにきちっとセットし、長身だけれど線が細い、見るからに神経質そうなタイプ。性格は狡猾で腹黒、執着強め…そう、彼もまた悪役。
 今現在、私が確認できる攻略対象はもう一人。
 レオンハルト・サザール・タッナーカ公爵。
 この人がおかしい。「田中」って何?明らかに転生者でしょう。私も田中だったけど、田中転生しすぎじゃない?ゲームでは違う名前だったわ。年齢もおかしいでしょう?現在38ってどういう事?推しだったのに…30歳差は無理。
 他の攻略対象はまだ確認できてないけど、ライバルは一人見つけたわ。一番楽にゲームを進められて一番おいしいキャラ。レティシア・リノス男爵令嬢。ゲームでは平民だったけど男爵令嬢になっているのよね。
 今日は王城に様子を見に来た。
 王様はおかげんが悪いと聞いておりましたのに、最近では城の中をレティシアと手を繋いで歩いているというではありませんか。手を繋いで!
 私が差し上げた車椅子は処分させられ、薬は飲ませるなですって?
 どういう事かしら?私の好意を遠ざけて自分が優位に立とうというの?
 先ずは王太后様にご挨拶をしなくては。お庭にいらっしゃるということですのでそちらにむかう。
 回廊を歩いていると子供の笑い声が。あれは、王様?まさか走ってらっしゃるの?あんなに楽しそうに笑いながら。
 あんな王様見たこと無い。しかも女の子と手を繋いで!あれがレティシア?まるで甘いハチミツのような髪色に若葉色の瞳、とても愛らしい少女だわ。そんな彼女にとても似合う淡いピンクのドレスは最近話題のリノス領特産のシルク。フリルをたっぷり使ったスカートの裾を軽やかにひるがえしふわふわと走る姿は天使のよう。
 でも、子供だからといって身分差のある男女が手を繋ぐなどあってはならないこと。
 王太后様の方に駆けて来ましたが、イゾルテ伯母様が立ちはだかりレティシアの頬を打った。厳格な伯母様には高貴な王様のお手に下級貴族が触れるなど許せない事。
 何か言い争っているようだけどここからは聞こえないわ。もう少し近づいてみましょう。
 すると信じられない光景が…。
 レティシアが甘えた声で、
「ねぇ~王様ぁ。この国で一番偉いのは誰?」
「…僕だと思う。」
「じゃあ~その次は?」
「?母上か叔父上?」
「そうよね。で、その次くらいに偉いのはこの私よ。
 この女は王様の大事なものを傷つけたのよ?罰を受けるべきじゃない?
 この城の賓客である私を打ったのよ?王様として威厳を見せなきゃ!捕らえる?百叩き?それとも首をはねる?」
 この娘は本当にヒロインなの?
 これではまるで傾国の悪女ではないの?
 気分がすぐれないと侍女に言い、その場を立ち去ることにした。対策を立てなくては。あの歳であのように王様を手玉にとるとは、敵はかなりの強者のようだわ。
 屋敷に帰って侍女にはしばらく一人にしてほしいと言い部屋に入る。
 王様をお救いしなければ。
 あのような悪女に好きにさせてはならないわ。
 あのように王様と手を繋ぎ、楽しそうに…あのように王様にしなだれかかって甘えて…あのように…あのように…。
「あああぁぁぁぁぁぁ!ムカつくムカつくムカつくっ!なんなのなんなのあの女わぁぁぁぁぁ!」
 力任せにテーブルの上の物を叩き壊した。花瓶の花さえあの女を思い出させてイラつく!叩き壊してくれるわっ!ヒラヒラふわふわしやがって、これでもかってほど可愛さ全開に盛りやがって!
私はこんなに質素に慎ましく我慢してるっていうのに!王様も王様よ、私という婚約者がいながらデレデレデレデレしやがって!
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
 あのシルク。どうやって量産したのかしら?
 シルクといえば異世界転生では定番の収入源。もちろん私も真っ先に考えた。でも、父上に相談した所、蚕はモンスターだから飼育は危険で出来ないと聞いたのに。でも、シルクに着目するあたり彼女もきっと転生者だわ。問題はゲームの流れを知っているかどうか。
 ふぅ…怒りに任せてちょっと散らかしすぎましたわ。
「誰かお願い、ちょっとうっかり手が滑っちゃった。」
 にっこり笑って侍女に片付けをお願いします。
 淑女はいかなる時も人前でとりみだしてはなりませんから。
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