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3 天使な治癒師 カシム先生視点

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 信じられんことが目の前で起こっておる。
 まだ3歳になったばかりだという領主様の孫であるレティシア様が治癒魔法を使われた。
 それも見よう見まねで。
 そんなことは私の知る限り聞いた事がない。
 まず、平民は魔力が乏しい。失礼かもしれないがレティシア様のお宅は準貴族、貴族ではない。 ごく稀に平民にも魔力持ちの子供がいるらしいが教育を受ける財力が無いため魔法の発動は難しいはず。
 魔法は、魔力や属性、発動のきっかけなどに個人差があるためそれぞれの家門で幼少期に家庭教師を付け訓練を受ける。それがだいたい10歳から15歳の間だ。魔法に特化した家門ではそれより早くより訓練を始めるらしいがそんな貴族はかなりの名門だ。
 そして16歳からは高等学校に入り、各自のレベルに合わせて専門分野を学ぶ。
 私は伯爵家の三男に生まれ爵位が継げないことが決まっていた。しかし、王都で生きていくなら私の治癒能力は申し分なかった。貴族達を相手に高額な治癒費を受けとれば、楽な暮らしが出来たはず。
 だが、私はロマンを求めてしまった。
 冒険者達といっしょにまだ見ぬ世界を求めてしまった。
 彼ら達との旅は楽しかった。まあ、楽しいばっかりでもなかったが、今となってはそれすらも愛しい思い出だ。
 引退した後もギルド勤めの治癒士として働き、今はもう体力と共に魔力も衰えてしまったが、ここにはまだ私を必要とする人々がいる。力の続く限り私が助けにならねば、そう思ってはいても毎日人が死んでいく。
 そんな最悪な環境で今日天使を見た。
 天使は自分がどれだけすごいことをやってのけたのかわかってはいないのだろう。
 周りがざわつく中、出来たことを素直に喜んでいる。
「ああ、皆ちょっといいかね。」
 皆の視線を集める。
「レティシア様はすごい。だが、まだ魔法に慣れていらっしゃらない。あまり無理をなさると魔力切れで倒れられるかもしれん。騒がず、このことは救済院の中だけの秘密にしようじゃないか。」
 まあ、いずれは知れわたるだろうがしばらくは小さなこの子に過度の負担がかかるのは避けられるだろう。
 皆うなずいた。
 魔法など使えなくてもこの子は天使だった。
 誰もがこの子の事は守りたいはずじゃ。
 ここに訪れるたびに患者一人一人の顔を覗きこみ声をかけ微笑む。
 一年前の魔物の暴走でご両親と兄姉とお身内を四人も亡くされたことを受け止められず、未だに探しておられるのではないかと心が痛む。
「いいですかなレティシア様、治癒は必ず私がいる時に行うこと、まずは簡単な傷を1日1人だけにする事、慣れてきたら少しずつ増やしてみましょうね。」
「どうして?治して欲しい人いっぱいいるよ?」
「誰もいない時に魔力切れしたら大変だからじゃよ、魔力切れしたら意識がなくなる…うーん、解らんか、すっごく眠くて起きれないんじゃ。レティシア様はかわいいからの、寝てる間に悪い人さらいに連れて行かれてしまうぞ。」
「そっか、あたしかわいいから危ないね。」
 …素直な良い子じゃ。
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