70 / 71
70
しおりを挟む
エドウィン視点
バネッサは趣味の話だけではなく、僕の悩みや相談にも乗ってくれる。
差別問題の事も意見を聞いてみた。
すると翌日、何冊かの書物を持ってきてくれた。
どれも見たことの無い著者のものだった。
ハロルド・トスカリナ?
「このトスカリナとは君の血縁者なのか?」
「はい、亡くなった私の父です。」
確か10年ほど前に火事で亡くなったと聞いている。
「あまり人気のある本ではなかったのか、父が亡くなった後は見かける事がなくなってしまいました。
けれど今の殿下のお悩みのヒントにはなるかと思いましてお持ちいたしました。」
内容は貴族の義務や責任についてだ。
他国のノブレスオブリージュを参考にしたものもある。
『位高ければ徳高きを要す』
この国の貴族にはこの『徳』というのが足りない気がする。
けど『徳』ってなんだ?
具体的にはよくわからない。
けどなんとなく、なんとなくだがブランシェール侯爵のような人にはあるような気がする。
もちろん父上にもあるだろうけど。
また別の本には『人権』についても書かれていた。
亡くなられたトスカリナ伯は法のもとの平等も訴えていたようだな。現在も建前上は平等となっているが貴族は優遇されて庶民には厳しいのが当たり前だ。
「バネッサ、僕には君の父君の書物はとても優れているように思える。なぜ、世間から消えてしまったのだろう?」
「それは…おそらく一部の貴族には都合が悪いからでございましょう。」
確かに。
庶民を虐げ、搾取する事ばかり優先する貴族にとっては耳の痛い忠告ばかりの本だ。
後で調べてみたらトスカリナ伯が亡くなられた後にこれらの本は悪書として廃棄されたらしい。
バネッサが持ってきたのは彼女が現在世話になっている叔父の家に保管されていたものだという。
そして書きかけの原稿も。
「私は父の意思を継いでこれを書き上げてみたいと思っておりますの。」
「それはいいね。」
明確な目標のあるバネッサは素敵だと感じた。
また議会が再開されたが宰相は相変わらず奴隷制度の廃止だけを訴える。
「僕も僕なりに考えてみたが奴隷制度の廃止だけでは根本的な事は何も変わらない。皆の意識を変えないと駄目だと思うのだ。」
「ハッ、お若い殿下に何がわかるのです?意見なさる前にこの国の伝統やしきたりを学んでいただきたく存じます。」
こんなふうに頭から否定されてしまう。
トスカリナ伯の残した本を再販してみるのはどうだろうか。
こんな僕でもこれまでの常識を改めようと思えた本だ。頑なな貴族達の気持ちにも何らかの影響を与えてくれるのではないだろうか。
思ったとおり本は貴族達の意識に少しずつ変化を与えた。
いや、少し違うな。
善良な貴族達の多くは基から『徳』を備えていたのだろう。
バネッサは趣味の話だけではなく、僕の悩みや相談にも乗ってくれる。
差別問題の事も意見を聞いてみた。
すると翌日、何冊かの書物を持ってきてくれた。
どれも見たことの無い著者のものだった。
ハロルド・トスカリナ?
「このトスカリナとは君の血縁者なのか?」
「はい、亡くなった私の父です。」
確か10年ほど前に火事で亡くなったと聞いている。
「あまり人気のある本ではなかったのか、父が亡くなった後は見かける事がなくなってしまいました。
けれど今の殿下のお悩みのヒントにはなるかと思いましてお持ちいたしました。」
内容は貴族の義務や責任についてだ。
他国のノブレスオブリージュを参考にしたものもある。
『位高ければ徳高きを要す』
この国の貴族にはこの『徳』というのが足りない気がする。
けど『徳』ってなんだ?
具体的にはよくわからない。
けどなんとなく、なんとなくだがブランシェール侯爵のような人にはあるような気がする。
もちろん父上にもあるだろうけど。
また別の本には『人権』についても書かれていた。
亡くなられたトスカリナ伯は法のもとの平等も訴えていたようだな。現在も建前上は平等となっているが貴族は優遇されて庶民には厳しいのが当たり前だ。
「バネッサ、僕には君の父君の書物はとても優れているように思える。なぜ、世間から消えてしまったのだろう?」
「それは…おそらく一部の貴族には都合が悪いからでございましょう。」
確かに。
庶民を虐げ、搾取する事ばかり優先する貴族にとっては耳の痛い忠告ばかりの本だ。
後で調べてみたらトスカリナ伯が亡くなられた後にこれらの本は悪書として廃棄されたらしい。
バネッサが持ってきたのは彼女が現在世話になっている叔父の家に保管されていたものだという。
そして書きかけの原稿も。
「私は父の意思を継いでこれを書き上げてみたいと思っておりますの。」
「それはいいね。」
明確な目標のあるバネッサは素敵だと感じた。
また議会が再開されたが宰相は相変わらず奴隷制度の廃止だけを訴える。
「僕も僕なりに考えてみたが奴隷制度の廃止だけでは根本的な事は何も変わらない。皆の意識を変えないと駄目だと思うのだ。」
「ハッ、お若い殿下に何がわかるのです?意見なさる前にこの国の伝統やしきたりを学んでいただきたく存じます。」
こんなふうに頭から否定されてしまう。
トスカリナ伯の残した本を再販してみるのはどうだろうか。
こんな僕でもこれまでの常識を改めようと思えた本だ。頑なな貴族達の気持ちにも何らかの影響を与えてくれるのではないだろうか。
思ったとおり本は貴族達の意識に少しずつ変化を与えた。
いや、少し違うな。
善良な貴族達の多くは基から『徳』を備えていたのだろう。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話
下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。
主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。
小説家になろう様でも投稿しています。
家路を飾るは竜胆の花
石河 翠
恋愛
フランシスカの夫は、幼馴染の女性と愛人関係にある。しかも姑もまたふたりの関係を公認しているありさまだ。
夫は浮気をやめるどころか、たびたびフランシスカに暴力を振るう。愛人である幼馴染もまた、それを楽しんでいるようだ。
ある日夜会に出かけたフランシスカは、ひとけのない道でひとり置き去りにされてしまう。仕方なく徒歩で屋敷に帰ろうとしたフランシスカは、送り犬と呼ばれる怪異に出会って……。
作者的にはハッピーエンドです。
表紙絵は写真ACよりchoco❁⃘*.゚さまの作品(写真のID:22301734)をお借りしております。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
(小説家になろうではホラージャンルに投稿しておりますが、アルファポリスではカテゴリーエラーを避けるために恋愛ジャンルでの投稿となっております。ご了承ください)
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。
拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。
一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。
残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。
聖女じゃないからと婚約破棄されましたが計画通りです。これからあなたの領地をいただきにいきますね。
和泉 凪紗
恋愛
「リリアーナ、君との結婚は無かったことにしてもらう。君の力が発現しない以上、君とは結婚できない。君の妹であるマリーベルと結婚することにするよ」
「……私も正直、ずっと心苦しかったのです。これで肩の荷が下りました。昔から二人はお似合いだと思っていたのです。マリーベルとお幸せになさってください」
「ありがとう。マリーベルと幸せになるよ」
円満な婚約解消。これが私の目指したゴール。
この人とは結婚したくない……。私はその一心で今日まで頑張ってきた。努力がようやく報われる。これで私は自由だ。
土地を癒やす力を持つ聖女のリリアーナは一度目の人生で領主であるジルベルト・カレンベルクと結婚した。だが、聖女の仕事として領地を癒やすために家を離れていると自分の妹であるマリーベルと浮気されてしまう。しかも、子供ができたとお払い箱になってしまった。
聖女の仕事を放り出すわけにはいかず、離婚後もジルベルトの領地を癒やし続けるが、リリアーナは失意の中で死んでしまう。人生もこれで終わりと思ったところで、これまでに土地を癒した見返りとしてそれまでに癒してきた土地に時間を戻してもらうことになる。
そして、二度目の人生でもジルベルトとマリーベルは浮気をしてリリアーナは婚約破棄された。だが、この婚約破棄は計画通りだ。
わたしは今は二度目の人生。ジルベルトとは婚約中だけれどこの男は領主としてふさわしくないし、浮気男との結婚なんてお断り。婚約破棄も計画通りです。でも、精霊と約束したのであなたの領地はいただきますね。安心してください、あなたの領地はわたしが幸せにしますから。
*過去に短編として投稿したものを長編に書き直したものになります。
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。
完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる