上 下
63 / 71

63

しおりを挟む
 季節はすっかり暖かくなって、今日は春祭りだ。
 町のあちらこちらには白・ピンク・赤の三色の色紙で作られた紙の花が飾られる。
 広場の中央には祭りの中心になるやぐらが建てられる。
 祭りの日は皆、浮き足だって事故で怪我なんかしやすくなっちゃうからあたしは今日は無料診療所で待機している。
 でも診療所は広場のすぐ前だからやぐらも見えるし、屋台もすぐ近くにあるから十分楽しめる。
 そういえば前の人生ではエディとこっそり祭りに来て楽しかったな。なんて思い出したらちょっと切なくなってしまった。ダメだな、切り替えなくっちゃ。
 そんな事を考えていた時だった。
 表ですごい音がした。
 ガラガラドーン!って。
 この音はきっとやぐらが崩れたんだ。
 大変!怪我人がいなきゃいいんだけど。
 診療所を出てやぐらのあった方をみると、
「ミハイル!早くこの木を持ち上げるんだ!」 
「はっ、しかし殿下は下がって下さい!」
「何を言ってるんだ、一人では無理だ僕も持ち上げる!」
 聞いた事のある声に見覚えある人影。
「大変!クリフトフ、フィリップ、手伝って!」
 あわててあたしの護衛の二人をよんだ。
 目の前にはやぐらを組み立てていたと思われる人達が数人倒れていた。
 そして倒れたやぐらの木を持ち上げようとしているエドウィン殿下とミハイル様の姿が。
 木の下からは子供の声が、
「痛いよぉ…痛いよぉ…。」
 エドウィン殿下が力強い声で、
「大丈夫だ!すぐに助けてやるから、がんばれ!」
 まわりの大人達も集まって、皆で木を持ち上げるとエドウィン殿下が下敷きになっていた子供を引きずり出した。
 泣き叫ぶ子供、そしてもう一人いた子供は意識がないのかぐったりしている。
「早く、こちらへ!」
 クリフトフのマントを剥ぎ取って地面に敷いた。その上にフィリップが意識の無い子供を寝かせた。
 お願い、間に合って!
 最大限の神聖力をぶつける。
 まわりの人達も同じように祈った。
 子供の体がピクリと動く、そして、
「あれ?僕…あれ?たしかやぐらが倒れて…倒れ…うわぁぁぁ!」
「もう大丈夫、大丈夫よ。」
 子供を抱きよせて背中をポンポンする。
 まわりから歓声があがる。
 群衆をかき分け一人の女性が泣きながら駆け寄ってきた。
「あああああっ!ベノン!良かった、ベノン、ベノン。」
 おそらく母親なんだろう。かなりテンパってる。
「ありがとうございます!ありがとうございます!何をお礼にしたらいいの?どうしたらいいの?一生お仕えいたします!天使様!」
「いや、天使じゃないし。
 無料診療所の者だから無料だよ。」
 良かった、助かって。
「他の方も治療いたしますから並んで下さい。」
 先ほどの泣き叫んでいた子供はエドウィン殿下に抱かれてなだめられていた。
「サラ、頼む。」
「はい。」
 良かった、こちらは軽症みたいだ。
「よく頑張ったね。」
「ご…ごべんなざいっ…おで…おでたぢふざけて走ってたら…ぶつかって…。」
「そうだったの。今度からは気をつけようね?」
「うん!お姉ちゃん、ベノン助けてくれてありがとう。お兄ちゃんも助けてくれてありがとう。」
 と、エドウィン殿下にもお礼を言った。
「ああ、気をつけるのだぞ。」
 嬉しそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魅了が解けたあと。

恋愛
国を魔物から救った英雄。 元平民だった彼は、聖女の王女とその仲間と共に国を、民を守った。 その後、苦楽を共にした英雄と聖女は共に惹かれあい真実の愛を紡ぐ。 あれから何十年___。 仲睦まじくおしどり夫婦と言われていたが、 とうとう聖女が病で倒れてしまう。 そんな彼女をいつまも隣で支え最後まで手を握り続けた英雄。 彼女が永遠の眠りへとついた時、彼は叫声と共に表情を無くした。 それは彼女を亡くした虚しさからだったのか、それとも・・・・・ ※すべての物語が都合よく魅了が暴かれるとは限らない。そんなお話。 ______________________ 少し回りくどいかも。 でも私には必要な回りくどさなので最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

処理中です...