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   ジュリアス視点

 僕は思いきってサラが通っている診療所へ行ってみることにした。
 ポートマン子爵家からのボランティアとして。
「ポートマン子爵家から参りました、ジュリーです。」
「カザンです。」
 服装もばっちり庶民のようにして。
 カザンは従者でポートマン子爵令息だが、僕に合わせて使用人のふりをしてもらった。申し訳ない。
 サラは怪訝な顔をしたが、素知らぬふりをしてくれた。サラも身分を隠しているからだろう。
 それにしても…。
 ここはなんて忙しいんだ?
 朝から昼の休憩までずっと水を運んでばかりだ。
 手が痛い。
 ?なんだこれ?ぷよぷよになっている。
「あー、水ぶくれになっちゃいましたね。」
 サラ?
「痛いのだが?」
「?こういうの出来た事ないんですね。」
「ああ…ここは皆ずっと動いているのだな。」
「そうですね、人手が足りないので。
 今日は男手が増えて皆喜んでましたよ。プククッ。」
「ふん、わかっている。あまり役にはたっていないのだろう。」
 我ながら情けなく恥ずかしい。
「そんな事ないですよ。
 ほら、貸してください。」
 僕の手をとり治癒魔法をかけてくれた。
「内緒ですよ。1日5人までしか治癒しちゃいけない事になってるんです。」
「また負担になってしまうのではないか?」
「これくらいの怪我なら大丈夫です。
 ふふふっ、頑張ったジュリーへのご褒美ですよ。」
「あ、ありがとう。」
 なんだ?今日は優しい。
 やっと僕に心を開いてくれたのだろうか?
「ねえ殿下。
 私と仲良くしたいのでしたら無駄ですからもう諦めて下さい。」
 え?
「殿下が嫌いな訳じゃないんです。
 だけど仲良くしちゃいけないんです。
 綺麗な世界で育った殿下にはわからないでしょうけど、この世の中には見えない悪意がたくさんあるんですよ。」
「それは君の事を皆が誤解しているからだろう?
 身分だって正式に侯爵令嬢だし、素行だって悪くはない。
 僕も協力するから、これから皆に理解してもらえるよう説明するなり友好を深めるなりして…。」
「無駄ですよ。
 殿下には見えていないんです。
 今日、ここへ来て患者さん達を見てどう思いました?」
「…気の毒?」
「なぜ気の毒なんでしょう?」
「…言いにくいが…。」
「痩せほそってみすぼらしく、汚い?」
「そうだな。」
「なぜそうなったんだと思いますか?」
「貴族ではないから。」
 サラは淋しく微笑んで、
「ふふふっ、そうですね、正解です。
 貴族ではないから食べる物もなく、汚い服を着ているんです。」
「いや、違う!」
 何が違うかは判らないが、そう言ってはいけないような気がする。
「ね、殿下には見えていないんです。
 奉仕精神は素晴らしいですが、もうここには来ないで下さい。
 大事なお体にもしもの事があったら大変です。」
 僕は何か間違っている。
 いや、世の中が間違っている?
 何か心の中がもやもやする。
 僕が知っているガルシアン王国に闇はなかったはずだ。
 正しいと信じていた世界が崩れていく音が聞こえる。
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