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「髪を切ったのだね。」
「はい、動きにくいので切ってしまいました。」
診療所に行く事は、父様は賛成してくれた。
ただし、護衛をつけられた。
ブランシェール侯爵家には警備の為の私兵がいる。その中でも最も腕が立つと言われているフィリップが付けられた。
フィリップの事はあんまりよく知らない。
無口で話した事があまり無いから。
濃い茶色の髪に茶色の瞳、あまり目立った特徴はないけど、体つきは騎士らしく逞しい。
父様は診療所に多額の寄付をしてくださり、改装もされた。
「一個人の私が出来る事は限られているが、少しでも君たち母子のように困っていた人々の救いになれるよう、手助けさせてくれ。」
やっぱり父様はステキな人だ。
隣で微笑む母様も幸せそう。
一週間に一日、学園がお休みの日に診療所へ通う事にした。
兄様は髪を切ったあたしをチラチラ見て何か言いたそうにしては口をつぐむ。触れないことが逆にうるさい。
年末のパーティーではあたしのエスコートはフィリップにしてもらった。
パーティーは大盛況。招待状を出したほとんどの貴族が出席してくれている。
アルテモーゼ侯爵家のほうはどうなのかと後で知ったけど、どの家門も代理を立てたり息子を行かせたりなんかで一応顔を立たせるよう取り繕ったみたいだ。
あたしはよくは知らないんだけど、ブランシェール侯爵家は他の侯爵家とは少し違うみたいだ。なんせ国王陛下が来てくれたんだから。
陛下の顔を見てこっちのパーティーへ来ていて良かったと胸を撫で下ろした貴族も少なくはないだろう。
おまけに陛下は、
「サラ、どうか私と一曲踊ってはくれまいか?」
「へっ?」
思わずへんな声が出た。
「は、はい。光栄に存じます。」
招待客がざわつく中、陛下に手をとられ中央へ進み出る。
陛下はあたしが定期的に治癒しているのですこぶるお元気だ。
「いやぁ、まさかまた踊れるほど回復するとは思ってもいなかったよ。サラのおかげだ、ありがとう。」
「とんでもございません。」
陛下のリードはとてもお上手だ。
さすが大人。
「髪を切ったのだな。」
「はい、診療所で働くのに邪魔だったので。」
「…エドウィンがすまなかったね。」
うわぁ、陛下の耳にまで届いていたか。
「あー、それと髪は関係ないですよ?」
「そ、そうか。
貧民街の無料診療所へ行くそうだな。
私も、何か出来る事があれば言ってくれ。」
貧民街そのものをなんとかしてほしいけどね。
パーティーにはバネッサも来ていた。
さすがのエドウィン殿下でも婚約者の家のパーティーに恋人は連れて行けないよね。
「サラ、この前は、あの…。」
「で、殿下とはどうなってるの?」
「話し合ったわ。
それでね、サラの治癒能力についても話さなくちゃならなくて、ごめんなさい。」
「それはもういいわ。
秘密にするのはやめたの。あたし、診療所で治療することにしたから。」
「そうなんだ。
私に手伝える事があったらなんでも言ってね。
…髪、切っちゃったのね。」
「…まったく、どいつもこいつもあたしが髪切ったくらいで何だって言うの?
単なるイメチェンよ!」
「はい、動きにくいので切ってしまいました。」
診療所に行く事は、父様は賛成してくれた。
ただし、護衛をつけられた。
ブランシェール侯爵家には警備の為の私兵がいる。その中でも最も腕が立つと言われているフィリップが付けられた。
フィリップの事はあんまりよく知らない。
無口で話した事があまり無いから。
濃い茶色の髪に茶色の瞳、あまり目立った特徴はないけど、体つきは騎士らしく逞しい。
父様は診療所に多額の寄付をしてくださり、改装もされた。
「一個人の私が出来る事は限られているが、少しでも君たち母子のように困っていた人々の救いになれるよう、手助けさせてくれ。」
やっぱり父様はステキな人だ。
隣で微笑む母様も幸せそう。
一週間に一日、学園がお休みの日に診療所へ通う事にした。
兄様は髪を切ったあたしをチラチラ見て何か言いたそうにしては口をつぐむ。触れないことが逆にうるさい。
年末のパーティーではあたしのエスコートはフィリップにしてもらった。
パーティーは大盛況。招待状を出したほとんどの貴族が出席してくれている。
アルテモーゼ侯爵家のほうはどうなのかと後で知ったけど、どの家門も代理を立てたり息子を行かせたりなんかで一応顔を立たせるよう取り繕ったみたいだ。
あたしはよくは知らないんだけど、ブランシェール侯爵家は他の侯爵家とは少し違うみたいだ。なんせ国王陛下が来てくれたんだから。
陛下の顔を見てこっちのパーティーへ来ていて良かったと胸を撫で下ろした貴族も少なくはないだろう。
おまけに陛下は、
「サラ、どうか私と一曲踊ってはくれまいか?」
「へっ?」
思わずへんな声が出た。
「は、はい。光栄に存じます。」
招待客がざわつく中、陛下に手をとられ中央へ進み出る。
陛下はあたしが定期的に治癒しているのですこぶるお元気だ。
「いやぁ、まさかまた踊れるほど回復するとは思ってもいなかったよ。サラのおかげだ、ありがとう。」
「とんでもございません。」
陛下のリードはとてもお上手だ。
さすが大人。
「髪を切ったのだな。」
「はい、診療所で働くのに邪魔だったので。」
「…エドウィンがすまなかったね。」
うわぁ、陛下の耳にまで届いていたか。
「あー、それと髪は関係ないですよ?」
「そ、そうか。
貧民街の無料診療所へ行くそうだな。
私も、何か出来る事があれば言ってくれ。」
貧民街そのものをなんとかしてほしいけどね。
パーティーにはバネッサも来ていた。
さすがのエドウィン殿下でも婚約者の家のパーティーに恋人は連れて行けないよね。
「サラ、この前は、あの…。」
「で、殿下とはどうなってるの?」
「話し合ったわ。
それでね、サラの治癒能力についても話さなくちゃならなくて、ごめんなさい。」
「それはもういいわ。
秘密にするのはやめたの。あたし、診療所で治療することにしたから。」
「そうなんだ。
私に手伝える事があったらなんでも言ってね。
…髪、切っちゃったのね。」
「…まったく、どいつもこいつもあたしが髪切ったくらいで何だって言うの?
単なるイメチェンよ!」
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