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    バネッサ視点

 この夏。
 私の世界は一変した。
 王族の方々に混じり、鉱山の視察に同行させていただいた。
 意外にもエドウィン殿下も鉱石がお好きで、身の程もわきまえずにすっかり夢中になって話し込んでしまった。
 あんなに知識があって私の話しに付き合ってくれた人なんて今までいなかった。女の子達は綺麗に加工されたアクセサリーは好きだけど、石そのものには興味が無いから。
 それは殿下も同じだったようで二人で地面に這いつくばって地質について話したりなんかして、その姿のおかしさに気がついて、顔を見合わせて笑った。
 その顔もぼんやりしていたけど、キラキラとした金髪が綺麗だと思った。
 その後、サラが倒れたと聞いてお見舞いにいくと、両手で目を覆われ次に目を開けたときに、奇跡が起こった。
 長きに渡ってぼんやりとしか見えなかった視界が鮮明になったのだ。
 サラのその力は秘密だからと、見返りは何も求めなかった。求められたとしても、何をもって返しても返しきれない。まさに奇跡としかいいようの無い力だ。
 その目で見たエドウィン殿下は輝く金髪に澄んだサファイアの瞳。
 なんてステキ。
 見えなかった時は平気だったのに、今はお会いする度にドキドキする。
 そのドキドキは緊張だけでは無い事に、すぐに気がついた。
 私、エドウィン殿下に恋している。
 もちろん殿下には婚約者がいることは知っている。
 そんなのは王族だから、政略の為には仕方がない。
 そして王族だから、幾人も恋人がいたって咎められる事もない。
 ただ殿下のお側にいられるだけでいい。
 それだけで私の世界は輝く。
 ああ、世界はなんて美しいんだろう。
 サラには感謝してもしきれない。
 学園では昼食を共にし、休憩時間も一緒に過ごすようになった。
 護衛にお兄様がいるのがちょっと気まずい。
 だけど気を利かせてくれているのか、皆、少し距離をとってくれている。
 天気の良い日は中庭の一角で二人で趣味の鉱石についても話したりできる。
 殿下はふと、庭の隅を見て、
「今日もいないな。
 もう来ないのかな?」
「なんですの?」
「いや、サミュエルの妹がよくあの木の陰からサミュエルを見に来ていたんだ。
 あのクリーム色のふわふわの髪が見え隠れして、まるで小動物が隠れているようで可愛らしかったんだ。」
「サラが?」
「そう。」
 サミュエル様は近ごろはルイスといることが多い。
 今日も私達とは少し離れたベンチにいる。
「大好きな兄を取られたなんて思っていなければいいのだが。」
 …。
 違う。
 私…私、なんて事を。
 どうして気が付かなかったの。
 旅行中もサラは楽しくおしゃべりしていたかと思うと急に黙りこんでうつむき頬を染めていた。決まってエドウィン殿下が来られた時じゃなかった?
 あの時は私にはまだ見えてなかったけれど、もしかしたらずっとエドウィン殿下を見ていたのではないの?
 それなのに私ったらずっと夢中になって殿下を独占していたわ。
 サラはずっと何も言わないで私達の話を聞いていた。
 時には微笑んだりして。
「あ…あの、私、少し用を思い出したので失礼させていただいてもよろしいでしょうか?」
 その場を逃げるように立ち去った。
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