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   ジュリアス第二王子視点

 参ったな。
 あんな姿を見てしまうなんて。
 何が悲しくて泣いていたのだろう。
 皆と行きたかったから?
 そんな単純な理由ではないだろう。
 もっと心の奥から悲しみがこみ上げてくるような悲痛な泣き声だった。
 いつからだろう。
 気がつけば彼女を目で追っていた。
 あの日も月がまるで彼女の髪の色のようだと、夜空を眺めて眠れぬ夜をすごしていた。
 月明かりに照らされて彼女が庭に下りているのが目に入った。
 まるで妖精達に誘われるように湖へ向かっている。
 やましい気持ちがあった訳じゃない。
 ただこんな夜中に何かあったらいけないと思い後を追った。
 美しい。
 妖精王に見初められ、このまま月の道を渡り、夜の国へ行ってしまうのではないかと思うくらい。
 おもわず声をかけてしまった。
 こんな誰もいない夜の庭で二人きりなど、不用意にもほどがある。
 取り繕うために父上の治療のお礼を言った。
 ドキドキした。
 夏の夜の部屋着は薄く、露出が多い。
 恭しくお辞儀をする胸元は露で…ああああああっ!
 どうかしている!
 どうかしている!
 どうかしている!
 落ち着くんだ!
 彼女は、サラは、兄上の事を想っている。
 それは決して叶わない想いだけれど。
 だけど他の人を想っている人を好きになるなんて。
 好き?
 本当に好きなのか?
 ただ欲情しただけでは?
 なんだ、そうか。
 思春期だからな。性的欲求が高まるのは仕方がない事だと本にも書いてあったではないか。
 そうだ、仕方がない事だ。
 だから…こんな…こんな…ああっ、こんなふうになってしまって。
「…うっ。」
 僕は最低なんじゃないか?
 好きでもない相手に欲情して自慰行為にふけるなんて。
 もうしない。
 そう決めたのに。
 泣いている姿を見て抱きしめたいと思った。
 慰めてあげたい。
 頬を伝う涙を唇で受け止めて、そして…ああああああっ!妄想が止まらない!
 ホント最低!
 なんとか落ち着きを取り戻し、父上と話ながらサラを待つ。
「ブランシェール侯爵令嬢がまいりました。」
 従者が告げる。
 涼やかな水色のドレスに着替えた彼女が来た。
 可憐だ。
 父上は挨拶もそこそこに、
「よく来てくれたね。
 まずはお礼を言おう。」
「もったいない事でございます。」
 恭しくお辞儀をする。
「そんなに畏まらないでくれ、君は私の命の恩人なのだから。」
 本当に父上のこんな晴れやかな笑顔は見た事がなかった。
 いつもどこか気だるく辛いのをがまんしている風だったから。
 サラには本当に感謝しなくては。
 サラの治癒能力は秘密にしてほしいということで、父上のまわりのごくわずかな者しか知らない。
 母上や兄上も知らない。
 僕はサラのクラスメイトだから、万が一急用があればすぐに城に連れてこれるようにという事で教えてもらえたのだった。
 
 
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