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   サミュエル視点

「サミュエル、くれぐれも間違いはおこすなよ。」
 出発前に父上が釘を刺す。
「馬鹿な心配はなさらないで下さい。
 サラは妹ですよ。
 下手な事をして嫌われたくないですからね。」
「ならいいのだが。」
 そうだ妹だ。
 妹でいる限り、一生僕の身体を撫で回してくれるのだ。
 サラが喜ぶのならばエドウィン殿下と会えるきっかけくらい、いくらでも作ってあげるよ。
 この旅行でエドウィン殿下との関係を深める予定だったのに。
 なぜヴァイオレットが旅行に参加すると言い出したのだろう?
 その理由はすぐにわかった。
 もうすぐ王妃となる側妃クローディア様と親交を深めるためだ。
 夏の避暑地への旅行には以前は陛下と王妃、そしてエドウィン殿下の三名だった。
 五年前、王妃が亡くなるまでは。
 今回からはクローディア様とその息子の第二皇子ジュリアス殿下が参加なさる事になった。
 現在後宮を統べるクローディア様に取り入るためだろう。
 最初にエドウィン殿下の馬車に乗ったのはアーサー兄妹だったが、車内の空気は重かったそうだ。
 エドウィン殿下もヴァイオレットも全く話さないらしい。
 休憩の為、馬車を降りてお茶にする。
 ヴァイオレットは陛下とクローディア様のテーブルに行ってその後は陛下とクローディア様の馬車に移動した。
 内心皆ほっとした。
 そして私達兄グループは殿下の馬車へ、妹達は女の子だけで同じ馬車に乗ることになった。
 次の休憩場所ではすっかり仲良くなったようで楽しそうに話していた。
 良かった。
 アーサーとミハイルはいい奴だ。彼らの妹ならばきっといい娘だろうと、連れて来てもらって良かった。
 サラは自分が平民だった事に引け目を感じている。
 クラスでも上位貴族ばかりで馴染めないようだ。おまけにヴァイオレットまでいる。彼女が先導してサラを孤立させているのではないかと心配だ。
 成績優秀で淑女としてもどこに出しても恥ずかしくない娘なのに。
 そして誰より優しくて美しい。
 少し前まではかわいかったのに、すっかり大人っぽくなってしまって。
 すらりと伸びた手足にくびれたウェスト、そして豊満な…。はあっ…どこまでお兄ちゃんを悩ませるんだ。
 本当はエドウィン殿下となど仲良くなって欲しくはない。
 殿下だけではない。他の誰にも触らせなくない。
 だけどサラが幸せならば。
 そしてもし傷つけられたなら…。
 傷つけられて、何処にも居場所がなくなってしまったら、ずっと僕の側にいればいい。
 僕はずっと君の優しい兄でいるから。
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