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第一章、魔王を粛清するまで 

第1話・ゾンビ!?

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 目を開けて辺りを見渡す。

 ここはレンガ作りの廊下?のようだ。その廊下の明かりは松明なのだが薄暗くて気味が悪い、さらには床や壁に緑色や茶色、黒色をした汚れが至る所に見受けられ不衛生な事も分かる。と、大変よろしくない場所だと分かってはいるのだが、不思議と居心地がいい。

 俺はどうしてこんな場所にいるのか分からず、さらに名前や年齢、出自にいたるまで何一つ思い出せない。これが記憶喪失というやつなのかと思い出すことを諦めて、周りに誰かいないかを探すことにする。

 左手を床について起き上がろうとした時にベチャという音がした。
 うわぁ、この場所に相応しい汚いなにかを手で触ってしまったのか?勘弁してくれよと思いつつ、意を決して左手を見てみる。

 「あ”ぁ”ぁ”」

 うわ!と叫んだはずなのにくぐもった声しかでない・・・いや、とりあえずその事はどうでもいいのだ。俺は記憶喪失どころか、身体的にも問題ができてしまっていたのだ。

 みんな、聞いてくれ!手が腐っているんだ!

 薄目でもう一度左手を見てみると変な汁もでてるぅぅぅ・・・と、一瞬はものすごく焦ったが、痛みもなにも感じないことですぐに落ち着きを取り戻した。ここまでひどい状況なのに一瞬の動揺だけで落ち着けたということは、記憶喪失前から俺の手は腐っていたということか?・・・なにがあったんだと頭を抱える。

 そして、ここからさらに追い打ちをかけてくるのが非情な現実。
 俺、全身腐ってました。
 まず左手が腐っていたから他の部位もどうかな?と見てみると、あらぁ腐ってます。鏡がないから顔は確認できてないけど、顔以外腐った人間はゾンビより怖いと思う。

 結論・・・俺ってゾンビでは?
 しっくりきたぞぉ、俺はゾンビだったのか。
 はぁ、人間だと思ってたんだけどなぁ。人間じゃないのかぁ、ゾンビかぁ。
 ちなみに俺は全裸というわけではなく悪臭を放ってそうなボロ切れを着ている、悪臭を放ってそうと表現したのは匂いが分からないからだ。声についても第一声と同じく、くぐもった声で「あ”ぁ”」程度しか出ない。
 ゾンビとして生きていくしかないんだなと、色々あきらめた。

 それにしても俺の知っているゾンビは本能のままに人間の肉を食べる化け物だった気がするが、俺は考えることもできるし人間を食べたいという欲求も今のところはない。生身の人間に遭遇したら本能が目覚めてしまうなんてこともありえそうだけど。

 とりあえず移動しよう、俺のことを知っている人がいるかもしれない。
 座った状態から起き上がろうとするも動きが鈍く時間がかかる、あらためてゾンビって嫌だなと思った。
 そこへさらなる絶望が襲い掛かる。この身体、右足を引きずらないと歩けないらしい。

 「あ”あぁぁ」

 思わず漏れるゾンビの溜息。ゾンビって全てに絶望しているからあんな声が出てしまうのかもな・・・
 気を取り直して片足を引きずりながらゆっくりと廊下を進んでいくと、左手に通路が見える。その通路を覗くと、見た目は青色をしたボーリング玉のようなモンスターがいる。
 
 あれはスライム?アニメやゲームにでてくるまんまの見た目だ。スライムらしきものは俺を見ているような気がするが動こうとしない。



 さて、考える時間だ。
 ここの通路を左に曲がらずに真っすぐ行けばスライムを回避することができるが、スライムとゾンビはモンスター同士意思疎通ができるかもしれない。それにスライムは弱いというのが定石だから、襲われても倒せるんじゃないか?等を塾考した結果、近寄ってみる事にする。

 ゾンビらしくノロノロと歩き、スライムのすぐそばまで近づいて声を掛けてみたが全く反応なし。スライムの目は常にこちらを見ているので気づいていないということはないと思うのだが、触ってみようと手を伸ばす。
 あ、そういえばスライムは体内で物を溶かすという攻撃方法を持っていた気がするなと今更に思い出して焦ったが、触った手に伝わるのは弾力があるというだけでスライムは無反応。

 ど、どうする、無反応は想定外だぞ。
 俺に敵意を持ってないようだし無視して先に進むこともできるけど、戦ってみたほうがいいのでは?
 スライムのようなモンスターがいるってことは、この先でもっと強い敵と遭遇する可能性もあるだろう。それらと戦うためにはモンスターを倒して強くならねば!・・・倒したら強くなったりするよね?

 「あ”あ”ぁ”!」

 俺は叫びながらスライムに向けて両腕を振り下ろす。スライムは両腕に押しつぶされてボヨンと弾みながら後退した。
 スライムは攻撃されたことで俺を敵だと認識したのか、目つきを変えてボヨンボヨンと跳ねながら近づいてくる。
 もう一度攻撃したいが飛び跳ねるスライムに両腕は当てられないと判断して、タイミングよく片腕をスライムに向けて振り下ろした。

 片腕がスライムを押しつぶした瞬間、パーンッという音と共に床に染みを付けながら弾けた。
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