イクメン召喚士の手記

まぽわぽん

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40『闇を視る人形』の書

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皇帝と呼ばれ世界に君臨する女を腕に抱く。白磁のような肌は瑞々しい。弄り壊したくなるほどの美しさだ。

しかし

この女の瞳は、虚無を映す。
この女の体内は、心を排除する。

まるで『人形』

耳を喰み、首筋に沿って舌を這わせ胸に顔を埋めるが嬌声すらあげない。何も感じないのだ…この人形は。

俺の"宮廷騎士・騎士団長"という地位は女の飾り。この女を跨ぎ抱く時だけは世界を抱いた気分になれる。
他者を虐げ、自身の強さを誇示するのは快楽だ。それは今も昔も何ら変わらない。

女は俺の耳朶に触れた。紅水晶が室内の仄かな灯りにいやらしく溶け込む。

* * *

俺は"転生者"だ。
前世は次から次へと襲い来る脆弱な人間の血肉を吸い悦に浸る『魔物』であった。
俺の真髄は、未だそこに在るのだろう。

召喚した召喚士は喰い殺した。
飢えは止まらず、俺を咎めようとした調査士も判断士も管理士も屍にした。

俺をどう捌くのか。

世界の判断は追いつかず、地下牢に幽閉の身となったが、俺を求めに訪れたのが世界皇帝になったばかりのこの女だった。
付き人を一人も連れずに地下牢の鍵を迷わず開けた。

「貴方は人の形をした魔王候補ですか。それとも魔物を秘めた勇者候補ですか?」
「どちらに見える」
「どちらでも結構です。…わたくしの臣下になる気持ちはありませんか?」
「ハッ。俺は脆弱な者の配下になど興味はない」

跳ね除けた言葉の先で、女の腰に下げた剣に目が釘付けとなった。

「その剣を、何故持っている!?」

剣は、俺の前世の世界『ユグドラシル』に存在したものだった。
憎き人間が手にしていた武器だ。
他者を遥かに超える力に心酔し、苦しいほどに恋焦がれた"魔王"が、剣を振り翳す人間に討たれたその日その時の…。

忘れもしない。
当時の苛立ちすら鮮明に思い出す。

気高い魔力を操り、常軌を逸する強さを誇る我らが"魔王"。
魔物を従わせ人間を踏み躙る筈のその者は、何故か…人間を草花の様に眺めては慈しみ、殺戮を好まなかった。
魔物が持つ気質や本能が欠けていたのだ。
故に、殺された。
勿体無い。
俺に有り余る力を委ね、傀儡になればよかったものを。魔王を自在に操り、手中に閉じ込めたいと思っていたのに…!その矢先で!!

チッと舌打ちした音に被せるように、眼前の世界皇帝は剣を静かに抜いた。

「この剣は、魔物が忌み嫌う力を宿しています。また、魔力に長けた者を惹き寄せる引力もあります。貴方も惹き寄せられましたね?」

女は俺を誘った。

「剣が誘うのが"勇者"なら、わたくしの世界には不要。殺さければなりません。
"魔王"であったのなら、わたくしは何としても手に入れたい。
そのどちらでもなく"魔物の皮を被った道化師"ならば、役に立つか立たぬのか天秤に掛けましょう」

抜き身の剣身が喉元に当てられる。
女の眼は俺を擦り抜け、闇を映し続けた。

「先の問いです。わたくしの臣下になる気持ちはありませんか?」
「あぁ…なるほど。"勇者を殺す"役目をくれるというのか。貴様は世界皇帝なのに」

肌から血が滲んだ。
ゾクッ。自身が心酔した"魔王"の血肉と混ざり合うような感触に、鼓動が速る。

「貴方には特別に教えて差し上げましょうか。わたくしは『これから壊す世界』の皇帝です。破壊する為の魔王道具を必要としているのです」

…笑いが止まらない。
内面に"魔王"を有している女が此処に居る。
外見を欲するのは道理か。

* * *

紫苑シオン

名を呼ばれ、太腿から秘部に向かう手を止めた。

「わたくしの剣に誘われた者がいましたよ。貴方に続いて2人目です。その者は、貴方と同じく耳朶にピアスをしています。黒曜石の…」

黒曜石のピアス。
記憶の隅に引っ掛かる…黒の景色。
確かあれは、数年前の"勇者"選抜最終試験での爆発事故。生き残った"召喚士"と"勇者候補"がいた筈だ。
その"勇者候補"は、耳朶に黒曜石を付けてはいなかったか?

「捕らえてみるか」

ベッドサイドから服を手繰り寄せ、身に纏うと濃紺の外套を羽織る。
道化師の天秤が揺れるのを、人形は無表情に見つめた。


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