イクメン召喚士の手記

まぽわぽん

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6 『"君"と君』の書

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意識が混濁する。
暗転した行き先は郷里か…?

* * *

私は声が出せなかった。
喉元に紋様の浮かぶ剣が深々と刺さっていたからだ。

目の前で話し掛ける金髪の"君"の言葉を一部始終、聞き続ける。

「お前は"魔王"に不向きなんだよ!ひとりぼっちが似合わない。優し過ぎるんだ、魔物の癖に…人間も殺せやしないのに。なんで殺さなきゃならない対象になるんだよっ馬鹿」

優しい?それは違うよ、人が好きなだけだ。
笑ったり泣いたり怒ったり、そういうものが羨ましい。触れたいだけだよ。

「お前を助けたいな。でもボクは**だから…それは絶対に許されない。ここでお前を殺すのは殺すためじゃない。生かすために…殺すんだ」

金髪の"君"は更に深々と剣に力を込めた。あと少しで首は胴体と別れるだろう。

「どうか転生者になって異世界に行ってよ!見知らぬ場所で会おう。ボクもその先で待っている…ううん、きっとお前に会いに行くから」

ダメだ、守れない約束をしてはいけない。
簡単な約束じゃないだろう?

"君"の話をもっと聞きたい。
望みと現実は困難だな。

ゴロン…
首が地面に転がり落ちた。
「お前を独りにさせないから。優しいお前に孤独は似合わない。お前は幸せになるべきなんだから…」
最期に聞こえた"君"の声が、遠ざかる。

私の視界は水に堕ちて行く。
心地良い空間だけが広がる苦痛も喜びもない虚無の空間へ。

ゴポ、ゴポ…ッ!?
苦しい?
いや、そんな筈は。だが息が出来ない…!

「が…ハッ!」

ガバッと身体を起こそうとすると「あ、あ~」聴き慣れた声。胸に張り付くように未来が乗っていた。伸ばした小さな手が、私の鼻から離れる。鼻を摘んで息を止めていたのか。

「ちーっす。加護様、気分は如何っすか?未来、加護様から離そうとすると泣くんで乗っけたままにしてましたけど」
「あ…あぁ、すまない。大丈夫だ」

君にも心配掛けたな…
私は未来の頬に口付ける。
"君"にも…
金髪の輝きを想う。

"君の望み"は叶っているか?私は独りでは居られなくなっている。そう言ったら、話の続きは如何なるものになるだろうか。

未来の腕にアルコール綿が貼ってあるのを見て、予防接種の後だったことを思い出す。思い出し、魔物の痕跡にも目を疾らせた。
空間の澱みは誤魔化せない。

「千手様は調査でこちらへ?」
「プライベートと半々っすね。加護様に会いたいなーと会場に来たのが大きいっす」
「魔物の気配がある。勇者候補の集まる場に、あってはならない澱みがある」

一瞬だけ、千手の目が鋭さを増す。すぐにヘラヘラ笑って何事もないように「さすが優等生の召喚士様っす」頷き返すが。

「あってはならないから極秘なんす、加護様。まぁ内密に。証拠が上がらないと戦闘院の兵士に依頼もできない有様でねぇ…」

ふいに空気の揺らぎ。
千手の目線と私の魔法が同時に壁の隅に行き着いた。ポトンポトンッと目玉が二つ転がり落ちる。

「お、すっげぇ。加護様ナイスぅ~!魔物の証拠みーつけた♪」

千手は戯けながらそれを拾った。
けれど目は笑ってはいない。

『勇者候補から"正真正銘の勇者"が現れる時、"魔王の覚醒"及び世界の脅威も再来す』

まるでお伽話のように風化している言い伝えが、この世界には存在する。
世界の有り様、各機関や専門士の動き、そして魔物達の暗躍…
あながち、お伽話はお伽話で終わるようなハッピーエンドは見せてくれないのかもしれない。


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