イクメン召喚士の手記

まぽわぽん

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2 『起死』の書

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召喚後は二時間間隔で食事投与と排泄処理…
書物にも講義でも同様の見解。

どういう事だ?
経験を積まないと得られない理解があるとでもいうのだろうか。

未来が意図的に口から溢れ出す白い液体は白糖乳と呼ばれる。転生したばかりの者『乳児』の食事であり、成長に必要な栄養素が全て備わる唯一の液体だった。

その液体を、君は拒否する。
寝台は甘い匂いを吸い込み、湿った居心地悪さを醸し出していた。

「うぎゃああああ!」

言葉が通じずとも、君が苦情を告げているのだと私は理解する。
だが
何をどうしていいのかが理解できない。

私が異世界から召喚した"転生者"未来は"勇者"の素質を持つ者。召喚術を施した召喚士の保護と育成ひとつで、光をもたらす勇者にも、闇をもたらす魔王にもなり得るという素質を持つ可能性がある。

それなのに…!

私は額に手を当てる。
育成に携わる書物を読み漁り、経験者からの授業にも足繁く通った。
だが、知識は現実を前に崩壊している。

召喚して半月も経つが
未来は白糖乳を摂ろうとしない。

君は"勇者"となる生き方を拒否しているのか?
それとも、私が嫌いなのか?
不慣れな動作が君を怖がらせているのだろうか。
得体の知れない召喚士に気を許すことを恐れているのだろうか。

眩暈がする。
大声を上げる君に、食事を拒み、眠ろうともしない君に、召喚したことを心の何処かで後悔する自分を見つける。

苛立ちばかりが募る。
勇者を育てたいと望んだのは、他でもない私自身なのに。

思えば半月、私も食事や睡眠を忘れるような暮らしだった。

良くない…
良くない傾向だ。

私は葡萄酒とグラスを棚から出した。
何をしようとも大声をあげるなら未来を少し放置しよう。
少しだけ眠り、心身を回復してから穏やかに育成に向き合おう。

グラスに注いだ葡萄酒に、僅かな程度に睡眠導入魔法を加えた。
一口に飲み干す。
本来なら甘く瑞々しい香りの葡萄酒が、この時ばかりは、渋みが強く鼻に嫌味を残すような香りがした。

君の大声が響く中で吸い込まれるように眠りに落ちていった…。

数時間後なのか、それともたったの数分後なのか、私は気怠い身体と気持ちを感じながら目を覚ます。

…っ!?

寝台に目を向けると、君はうつ伏せになり声すら出せる状態ではなかった。
倒れていたのだ。


勇者レベル : 0
ステータス「ちから」 : +1
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