恋降る物語

まぽわぽん

文字の大きさ
上 下
2 / 8

噂以上、噂未満の。

しおりを挟む
「お前、この程度も覚えられないのか?クソか?」
「いい加減にしろ。ミスを多発する才能には脱帽だ。女だからって甘えるな、甘やかせるつもりもねぇよ」

バイト先の先輩はパワハラ予備軍だろうか?常々思っていた…。
クソと呼ぶなら先輩の性格も上等なクソだ!
今日こそ、バイトを辞める決心とともに先輩の鼻っ面にパンチを見舞ってやる。
今までの、蓄積された“我慢”と“忍耐”をまとめてぶつけてやらぁ!
鼻息も荒く、バイト先のコンビニに到着した。

「ほらよ、箒と塵取り。掃除行ってこい」

始業の挨拶もそこそこに、先輩は冷ややかに掃除道具を差し出す。チッ。今日の舌打ちは私からだ。
ガツッ!と掃除道具を弾き飛ばし、私の手はそのまま先輩の顔へと向かうつもりだった。
そう、つもりだった…。

「わ!わぁーっ!」

あろう事か、ワックス塗り立ての床に足が滑ったのだ。同時に手の行き先も滑る。
あろう事か、向かうべき嫌味な顔に…ではなく、身体の勢いは先輩を押し倒し、私の手は先輩の股間を鷲掴みにしていた。

「あ…」
「う…」

どっちが「あ」でどっちが「う」だなんて、もはやどうでもいい呻き。
顔が赤面なのか蒼白なのか、互いに逸れて汗がドッと吹き出していた。

「手、退かしますね…」
「あ、いや、待ってくれ。振動はまずい…。俺、過度な敏感肌なんだ。その、出ちゃ…いや、何でもない」
「出…?」

かぁぁぁ
意味を察して頭から湯気が出る。
よもやの事態だ。
先輩もいつもの冷静さはどこへやら、顔を真っ赤にして恥辱に震える乙女のよう。

手で触れる股間の勢いに、日頃の怒りはスーッと鎮火した。“我慢”と“忍耐”は、確実に先輩を襲っている。もう十分だろう。

「ゆっくり外しますから」
「あ、ああ…」

振動を最小限に手を退かすと、どちらともなく安堵の息が漏れた。
そして、場の気まずさを打ち消すように来客を告げる軽快なリズムが店内に流れる。
落ちた箒と塵取りを拾った。

「…掃除、行ってきますね」
「あぁ」

レジに向かう先輩は口元に手を当て、ふと立ち止まる。
振り返らずに「秘密にしてくれよ」と言うものだから、言葉のパンチを見舞うことにした。

「私が先輩に“ギャップ萌え”したことも秘密にしてくれるなら、良いですよ?」
「…恥ずかしい奴」
「お互い様ですぅ」


掃き掃除が終わり店前のゴミ箱の袋を交換していると、「いつもありがとね」のんびりとした風体で店長が話し掛けて来た。

「君といつもシフト一緒の梶君ね、噂では“意地悪”とか“冷たい”とか散々言われてて辞めちゃう子も多いのだけど、仕事もよくやってくれるし接客も丁寧で良い子なんだ。誤解しないであげてくれると良いなぁ」

大量のゴミが入った袋を縛りながら頷く。
噂は真相を得てから判断するべし!

「大丈夫です。お気に入りですから」

不敵に笑う私に、店長はニコニコしながら店内に入って行った。

-fin-
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

【R18】かわいいペットの躾け方。

春宮ともみ
恋愛
ドS ‪✕ ‬ドM・主従関係カップルの夜事情。 彼氏兼ご主人様の命令を破った彼女がお仕置きに玩具で弄ばれ、ご褒美を貰うまでのお話。  *** ※タグを必ずご確認ください ※作者が読みたいだけの性癖を詰め込んだ書きなぐり短編です ※表紙はpixabay様よりお借りしました

膝上の彼女

B
恋愛
極限状態で可愛い女の子に膝の上で…

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

処理中です...