お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

文字の大きさ
上 下
149 / 164

第五十九話②『魔法少女の失態』

しおりを挟む


 何故彼がその言葉を発せられているのか、意味が分からなかった。

 平尾が嶺歌れかの前から一時的にいなくなった事で魔法少女に関する記憶は完全に消去されるはずだ。その魔法が、本来であればどのような人類にもかけられる筈である。

 だと言うにも関わらず、数十分ほど離脱した筈の平尾の記憶はまるで先程の光景を覚えているかのような口ぶりだ。いや、そうでなければ今のような単語を口にする事は出来ないだろう。

 何が起こっているのか分からない嶺歌はただただ呆然と平尾を見つめ返した。

 それは魔法少女の記憶消去事情を知っている形南あれなも同じようで、彼女も声にならないのかその場で静止していた。

 するとその沈黙を破るかのように兜悟朗とうごろうが声を発する。

「嶺歌さん、平尾様は先程の記憶を一時たりともお忘れになられてはおりません。一度お屋敷の外まで移動しましたが、状況はお変わりないようです」

 兜悟朗は嶺歌に視線を向け、小さく一礼しながらそのような言葉を口にする。平尾本人も困惑しているのか、兜悟朗の言葉を聞いて自身の頬を終始掻いていた。

「ええっと……あたし一旦外出ます」

 嶺歌はそう言って形南の自室の扉を開け、迅速に広い廊下へ出た。そうして数分の時間を経てからもう一度形南の部屋へ戻る。

 ノック音を響かせてから扉を開けると一番初めに平尾と目が合う。彼は制服姿の嶺歌を見て再び声を発した。

「魔法少女……ってこと、お、覚えてるよ?」

「まじか……」

 異例だ。とんでもなく例外的な事故が起こってしまった。平尾はどうやら、記憶消去の介入を受け付けない人間らしい。

 一体何故そのような不可思議な現象が起きてしまうのか謎に包まれてはいるが、どうやっても彼が魔法少女の嶺歌を忘れられないという事は間違いようのない事実だった。

「なんで忘れないの? あたしの姿が見えなくなると、記憶が自動的に消去されるのに」

 嶺歌れかは怪訝な顔をして平尾にそう言うと、彼は困惑した表情で視線を逸らしながら「いやあ……な、なんでだろ」と声を出す。彼の様子からして本当に平尾にも事情は分からないようだ。

 平尾が魔法少女の関係者なのではないかという疑いは、今の反応で見当違いであると分かってしまった。

「何故せい様は嶺歌のお姿を覚えていらっしゃるのでしょう……」

 嶺歌達の様子を静観していた形南あれなはポツリと声を漏らす。口元に手を当てながら心底不思議そうにそう言葉を発する形南に平尾は顔を向けた。

「あ、あれちゃんはし、知ってたんだね」

「ええ、ごめんなさいですの。ですが、嶺歌の秘密を漏らす事はしたくありませんでしたの」

 そう言って形南は深く平尾に頭を下げると平尾は慌てた様子で「い、いや! 謝る必要な、ないから」と形南の両肩を優しく撫で始める。

 その二人の初々しい光景に微笑ましい思いを少なからず感じながらも嶺歌は思考を続けていた。平尾にバレてしまった以上、魔法協会からお達しがくるはずだ。

(あたしに記憶を消す能力はないし……)

 魔法少女は万能であるが、それでも不可能な事もあった。記憶の消去は例外であり、魔法協会にしか行う事は出来ない。

 だからこそ嶺歌がこの場で平尾の記憶を消すという行為は出来ないのだ。その力があれば、嶺歌は躊躇いなく彼の記憶を消していただろう。

 しかしそれが出来ない今は、平尾の記憶を維持させる他あるまい。彼に忘れて欲しいと言うのも無理な話だ。

「平尾、今見た事誰にも言わないで」

 嶺歌はそう言う事しか出来なかった。


next→第五十九話③
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

スイミングスクールは学校じゃないので勃起してもセーフ

九拾七
青春
今から20年前、性に目覚めた少年の体験記。 行為はありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...