お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

文字の大きさ
上 下
141 / 164

第五十六話②『デート準備のお買い物』

しおりを挟む


 目星の服を見つけ、試着を繰り返す。

 嶺歌れかだけではなく、一緒に来た三人の友人らも皆それぞれの好みを見つけては試着を繰り返していた。

 しかし開店したばかりというのもあり、それなりに混み合っている店内では試着をするのにも時間を要していた。


 あっという間に数時間が経ち、嶺歌は時間をかけて悩んだ末に先ほど試着した自分好みのワンピースを一着購入する事に決めていた。

(この服、兜悟朗とうごろうさん好みだといいな)

 ワンピースに目を落としながら嶺歌はそんな事を考える。

 本当であれば、兜悟朗本人に直接尋ねて彼好みの服でデートに挑むのが理想だ。

 しかしデートに浮かれすぎていたせいか、そのような考えはここに来るまですっかり抜け落ちており、今電話やレインで尋ねるのも彼の生活スタイルを考えると気が引けていた。そして理由はもう一つある。

 正直改まって好みを尋ねるのは恥ずかしい気持ちが多分にあったのだ。気が引けていたもう一つの理由はこれだった。

 そのような理由から嶺歌は、最終的に把握しきれていない兜悟朗の好みを予想して洋服を選ぶよりは、自分の好きな服で挑むのが一番無難だろうとそう判断していた。

 ゆえに今回は自分好みの服でデートに向かおうという結論に至っていたが、今後の事を考えると兜悟朗の好みはきちんと把握しておきたいのも本望だ。

 恥ずかしい思いはきっと消えないだろうが、このままずっと彼の好みを知らない状態でいる事は嶺歌の望むところではない。

(恥ずかしいけど……今度、好きな服装聞いてみようかな)

「レカちゃんそれ買うの? めっちゃ似合ってたもんね~!!」

 そう思いながら試着したワンピースを手に持ち行列のレジに並んでいると、心乃ここのも二着の服を手に持って、嶺歌の後ろに並んできた。

「うん、ありがと。心乃は二着?」

「そうそう! ほんとはもう一着迷ってたけど、お小遣いピンチだから我慢だよ~ねっ! 次はおそろ買おうね!!」

 そう言って心乃は無邪気な笑顔で嶺歌に笑い掛ける。心乃を見ていると嶺璃を思い出すのは、お揃いを作りたがるところが同じだからかもしれない。

 そう思い、嶺歌は笑いながら彼女と会話を続けていると、心乃はふいにこのような言葉を口にしてきた。

「ねえレカちゃんが好きな人って、どういう人なの? 聞いてもいい?」

 心乃ここの嶺歌れかに好きな人が出来た事を知っていたが、兜悟朗とうごろうに関しての詳しい話をした事はまだなかった。

 嶺歌は心乃の問い掛けに頷くと同時に嬉しさが込み上げる。兜悟朗の事を誰かに話せる事がこんなにワクワクするものだとは思わなかった。

「友達の執事って話はしたよね。身長が高くて歳も十一歳上。めっちゃ大人な人だよ」

 嶺歌がそう言うと心乃はええ~! と顔を僅かに上気させ新鮮そうに表情を動かす。そして「告白はしないの?」と言葉を続けてきた。

「……したいけど今は待機。確信持てないから動けないんだよね」

「レカちゃんが恋する乙女だ~! いいないいな!! 応援してる!!!」

 そう言って心乃は心底楽しそうに嶺歌の話を聞いてくれた。

 あっという間に会計は嶺歌の番を迎え、それまで心乃に兜悟朗の格好いいところや好きなところをたくさん話す事が出来ていた。

 嶺歌はそれに満足しながら会計を済ませ、兜悟朗への思いの強さを改めて実感するのであった。



 一日かけてのショッピングは終わり、嶺歌れかたちは最寄りの駅で解散をする。

 嶺歌は大量の手荷物を両手に持ちながら浮き足だった様子でマンションへと向かう。

 今日はとても気分が上がっている。休みの予定だった魔法少女活動もこのまま行ってしまおうか。

 そんな事を思いながら足を動かしていると、突然着信が鳴った。誰だろうと嶺歌は通行人の邪魔にならないよう歩道の隅に動いてからスマホを確認する。相手は形南あれなからだった。

「もしもし? どうしたの?」

 試験勉強をしているであろう形南にそう言葉を発すると形南からは『嶺歌! どうしましょう!!』という予想外の声が返ってきた。彼女はいつもより狼狽した様子で何やらあった様子だ。

 嶺歌は「落ち着いて」と声を掛けてからもう一度言葉を発する。

「何かあった?」

 嶺歌が形南を宥めながらそう尋ねると、形南は一呼吸置いてから『実はですね……』と言葉を繰り出す。

『先程まで休息も兼ねてせい様とお電話をしていたのですが……何とわたくしの事を『形南ちゃん』とお呼びされましたのっ!!! ねえどうしましょう嶺歌!!! このような興奮、中々収められないわっっ!!!』

 形南はきっと電話の先で顔を赤く染めながら嬉しそうに首を振っているのだろう。

 そんな光景が瞬時に浮かび上がり、嶺歌は口元が緩んだ。微笑ましいその内容に嶺歌は自然と笑い声を出す。

「めっちゃラブラブじゃん! なんで急に呼び方変える事になったの?」

 嶺歌れかがそう尋ねると形南あれなは嬉しそうな声色で照れ隠しをしながら質問に答え始める。

『ふふっラブラブだなんて……ふふふ。それが何の突拍子もなく突然でしたの! せい様はわたくしの名前を変えて呼ばれた事を特に言及されませんでしたのよ! それがまた嬉しくって……けれどね、最後はまた呼び方が『あれちゃん』に戻っておりましたの。両方を使い分けなさるおつもりなのかしら。ふふっそちらもそちらで嬉しいですわっ!!!』

 形南は終始興奮気味にそのような話を繰り出し続ける。

 嶺歌も嶺歌でその話を聞く事が楽しく、形南の喜んでいる様子がまた嬉しかった。平尾との関係もとても順調そうで何よりだ。

 形南はようやく興奮が収まってきたのか落ち着いた様子に戻ると『そろそろ学習のお時間ですわ。嶺歌、お付き合い下さって有難う御座いますの』と言葉を発して電話を切る。

 形南はあと一日試験が残っているためこの後も勉強に励むのだろう。

 嶺歌は形南の嬉しい報告が聞けた事に満足しながらマンションのエントランスに入り、エレベーターを待っているとそこでふと、兜悟朗とうごろうの事を頭に思い浮かべた。

――――――『嶺歌』

(うわ、めちゃいい……)

 呼称変更という話題のせいで無意識に兜悟朗が自分の名を呼び捨てにする妄想を浮かべてしまう。

 兜悟朗が嶺歌をそのように呼ぶ事は彼の性格からしてないであろうが、それでも想像するだけで胸がときめいてしまっていた。

(兜悟朗さん、会いたい)

 嶺歌は紳士的な彼の姿を目に浮かべる。そうしてそのまま彼に思いを馳せるのであった。エレベーターの到着に気付いたのはそれから数分後の事だった。


第五十六話『デート準備のお買い物』終

            next→第五十七話
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

不人気プリンスの奮闘 〜唯一の皇位継承者は傍系宮家出身で、ハードモードの無理ゲー人生ですが、頑張って幸せを掴みます〜

田吾作
青春
21世紀「礼和」の日本。皇室に残された次世代の皇位継承資格者は当代の天皇から血縁の遠い傍系宮家の「王」唯一人。  彼はマスコミやネットの逆風にさらされながらも、仲間や家族と力を合わせ、次々と立ちはだかる試練に立ち向かっていく。その中で一人の女性と想いを通わせていく。やがて訪れる最大の試練。そして迫られる重大な決断。  公と私の間で彼は何を思うのか?

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

スカートなんて履きたくない

もちっぱち
青春
齋藤咲夜(さいとうさや)は、坂本翼(さかもとつばさ)と一緒に 高校の文化祭を楽しんでいた。 イケメン男子っぽい女子の同級生の悠(はるか)との関係が友達よりさらにどんどん近づくハラハラドキドキのストーリーになっています。 女友達との関係が主として描いてます。 百合小説です ガールズラブが苦手な方は ご遠慮ください 表紙イラスト:ノノメ様

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...