お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

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第五十六話①『デート準備のお買い物』

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 兜悟朗とうごろうの言葉を何度も思い起こす。

―――――『どうか、今度嶺歌れかさんに手料理を振る舞わせていただけないでしょうか』

 あれは一体どのような意味が含まれているのだろう。彼がむやみやたらと誰かに手料理を振る舞うような性格には見えない。では嶺歌を特別に思ってくれているのか。特別とは何だろうか。

―――――『どうか、今度嶺歌さんに手料理を振る舞わせていただけないでしょうか』

 嶺歌だから振る舞いたいのだろうか。特別な嶺歌だからこそ、自分の腕を奮った料理を口にして欲しいのだろうか。だから特別とはなんだ。

―――――『どうか、今度嶺歌さんに手料理を振る舞わせていただけないでしょうか』

 なぜ、懇願するような目で、あのような言葉を告げたのだろうか。兜悟朗は嶺歌の事を…………

「自惚れ乙じゃんっ!!」

 頭の中がパンクしそうになった嶺歌れかは自分が恐れている展開を思い浮かべ、それらを払い除けるように思わず声に出した。流石に兜悟朗とうごろうが自分を好きだというのは早計な気がする。

 彼の好意はここ数ヶ月でたくさん感じ取ってはいるが、それでも兜悟朗自身に恋心がなければそれはもうアウトなのだ。嶺歌的にはアウトだ。

 誰が何と言おうと、好きな相手に恋という感情で返してもらえない事は嶺歌の中でもはや諦める要因になってしまう。けれど兜悟朗の事を諦めたいとは思えない。

 時間がかかってもゆっくり彼の特別になりたい。そう、一人の女として。

「とりあえずまだ動くわけにはいかないでしょ……うん」

 そう自身に言い聞かせるように言葉を出すと、そのまま起き上がり魔法少女の姿に変身する。

 そうして思考をリセットするかのように窓から飛び出し、ほぼ強制的に本日の慈善活動に思考を切り替えるのであった。



 定期テストまで後数日となった日、平尾が嶺歌れかのクラスにやって来た。

「い、和泉いずみさん。ちょっといい?」

「いいけど何?」

 平尾とはこれまで通りの友人関係が続いている。レインでやり取りをする事はほぼないが、学校内でこうして話をする事はそれなりにあった。会話の内容は言わずもがな、形南あれな兜悟朗とうごろうの事ばかりである。

「今度……あれちゃんとテレビでやってたガーデニングエリアにいく事になったんだけど、和泉さんもどうかなってあれちゃんが」

「え? 二人のデートにあたしが行くの? そりゃないでしょ。あんたちゃんと反対しなよ」

 嶺歌は瞬時にそう答え、彼を呆れた表情で見返すと平尾はポリポリと頬を掻きながら「そ、それが……」と言葉を続ける。

「なんか、凄くいい場所らしくて……和泉さんもと、兜悟朗さんと二人で回ったら絶対いいだろうからって、あ、あれちゃんが嬉しそうに言ってたから」

「え」

 そしてその言葉を聞いた嶺歌は先程と意見が百八十度変わる。要するに嶺歌だけでなく、兜悟朗も誘おうという話なのだ。

 嶺歌は形南の気遣いに嬉しい気持ちを起こしながら「じゃあ行く」と即決の答えを出した。つまりまた四人でダブルデートをするという話だ。

 すると平尾は分かったと小さく頷くとこんな事を尋ねてくる。

「兜悟朗さんと……最近ど、どう?」

 彼も彼で嶺歌の進展具合が気になるようだ。平尾はそわそわとした様子を見せながら聞きにくそうな顔でそう問い掛けてくる。

 嶺歌は顎に手を当てながらうーんと唸り、言葉を返した。

「好意的に見てくれてるとは思う……でも恋なのかどうかは確信持てない。だから現状維持だよ」

「そ、そうなんだ……進展、あるといいね」

「ん。そのガーデニングエリアっていつ?」

「えっと……テスト明けにって話だったけど…あれちゃんのテストが一日遅れて始まるから、ら、来週かな」

「えっ月曜まで持ち越しなんだ!? あれなの学校鬼畜だなー」

 そんな会話をしていると授業が始まる予鈴が鳴り、平尾は急いで自身の教室へ戻り始める。

 嶺歌れかも特に見送る事はせず自席に戻っていくと嶺歌の席に座っていた心乃ここのに声を掛けた。

「心乃、もう先生来るよ」

「うん、レカちゃん。ねえ今度ダブルデートするの? 平尾の彼女ってどんな子?」

 心乃は興味津々といった様子で嶺歌を見上げそう尋ねてきた。

 嶺歌は先程の会話が聞こえていたのかと思いながら、特に困るものでもないのでそうだよと肯定する。そしてそのまま形南あれなの顔を思い浮かべた。

「小柄で可愛くて上品な子、かな」

「え~そうなんだ!」

 形南の話を友人に伝えるのは考えてみれば初めてかもしれない。

 嶺歌は形南の話を心乃にできたことが嬉しかった。しかしもう少し彼女の話をしたいと思っていたところで担当の教師が教室に入ってくる。

「あっヤバッ! またあとで聞かせてねレカちゃん!!」

「うん」

 そう言って心乃は自席へ戻り、嶺歌も空いた自分の席に腰を下ろすと授業が始まった。

 嶺歌はダブルデートの話を思い出しながら、また兜悟朗とうごろうと出かけられる回数が増えた事に喜びを感じ、その嬉しさに心を這わせるのであった。



 中間テストが終わって初めての休日に嶺歌れかは数人の友人と遊びに出掛けていた。今日はみんなで買い物だ。

 週明けにダブルデートをするという話は、忙しいはずの形南あれなからもレインでメッセージが届いており、そして兜悟朗とうごろうからもテスト明けに連絡がきていた。

『嶺歌さん、試験お疲れ様で御座います。既にご存じの事と思いますが、来週の土曜日はどうぞ宜しくお願いします。その日を楽しみにしております』

(楽しみでしかない……)

 嶺歌は兜悟朗からの律儀なレインを何度も読み返し、一人で口元を緩めていた。テストが終わったご褒美のようだとさえ思えていた。

 そして、今日はそんな来週のデートに向けて新しい洋服を購入しようと思い至ったのだ。

 嶺歌がテストの休み時間に買い物をしたいという話をすると、話を聞いていた友達は皆口を揃えて「買いに行こっ!!!」と声を張り上げたていた。どうやらみんな季節の変わり目に合わせてショッピングがしたかったようだ。

 そういうわけで今回は大型ショッピングセンターに訪れ、嶺歌を含めた四人で買い物に来ていた。

「ねえ嶺歌、今回デート服なんでしょ? 私も次のデート服欲しくてさ~一緒にいいの見つけようね!」

 詩茶しずが楽しそうにそう声を掛けてくる。今回同じ目的である詩茶の言葉に嶺歌も頷きながら、そうしよと言葉を返した。

「レカちゃんとお揃いの服買いた~い!」

 すると横から心乃ここのがそう言って嶺歌の腕に自身の腕を絡めてきた。嶺歌は「いいのあったらね」と笑って答えながら足を進めていく。心乃もその回答に満足したのか嬉しそうだ。

「ねえ最近できたばかりの服屋あったよね? そこから行かない?」

 そう口にするのはみなみだ。嶺歌もその言葉を聞いてとある服屋の情報を思い出す。

 本当に数日前に開店したばかりの服屋があり、それは嶺歌好みな系統の服を取り扱うお店だった。なので一度は行ってみたいと前から思っていたのだ。

 嶺歌は南の意見にいいねと言葉を返すと皆も同意して早速その服屋へ足を進め出した。


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