お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

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第五十五話①『形南の価値観』

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 形南あれなとの女子会は夜明けまで続いていた。眠い目を擦りながらも話し足りないと二人でクマを作り、ひたすらに話を続けた。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、翌日も形南と美味しい朝食を食べてから嶺歌れかは丁重かつ迅速な動きで食器を片付ける兜悟朗とうごろうの姿に胸を高鳴らせる。

「嶺歌さん、デザートはお口に合いましたか」

 兜悟朗は昨夜とは違ういつもの柔らかい笑顔でそう問い掛けてくれる。あのままの気まずい雰囲気が続いていない事に内心安堵しながら、嶺歌はすごく美味しかったですと言葉を返した。

 兜悟朗は嬉しそうに微笑んでからそれは良かったですと言葉を口にして、食器を片付け部屋を出ていく。

 すると形南が口元に両手を当てながら嶺歌に言葉を向けてきた。

「ふふ、本日のデザートは兜悟朗が調理したのですのよ」

「えっ!!?」

 嶺歌は先程出されたカヌレのデザートを頭に思い浮かべる。そうしてあの美味しい味を頭の中で再生した。

 甘さが控えられ、苦味が効いた朝食に食べるにふさわしいあの味は兜悟朗が作ったものだったのだ。嶺歌は既に胃の中にあるカヌレの味を何度も思い出し、しばしそれに浸る。

(凄く……美味しかった)

 兜悟朗に言われる前もとても美味しいと、あまり口にしない珍しいデザートだとそう思っていた。

 そして兜悟朗が作ったのだと教えられた今は、それをより一層美味しいデザートであったと思う事ができていた。

 嶺歌はあのデザートをもう一度食べたいという欲を抑えながら、形南に教えてくれた事のお礼を告げ、笑みを向ける。

のちにお伝えした方が、先入観なく味わえると思いましたの。喜んでいただけてわたくしも嬉しいですの」

 形南はそう言って上品にティーカップを口に運ぶと「本日は庭園を一緒に散策なさらない?」と提案してくれた。

 今日は午後から稽古があるという形南だが、まだ時間は朝の八時だ。嶺歌は二つ返事で頷くと早速食後の運動に散歩を始めることにした。

「庭園には一度入られたのですのよね?」

 庭を散策しながら形南あれな嶺歌れかに質問を投げ掛ける。嶺歌はうんと言いながら形南に視線を向けた。

「兜悟朗さんが誘ってくれた時に一度ね」

「それはとても素敵な思い出ですのね」

 形南は嬉しそうに口元を綻ばせると、嶺歌に笑いかける。

 こちらの嬉しかった出来事を心から一緒に喜んでくれているその様子に嶺歌は温かい気持ちになった。何度でも思うが、形南は本当にいい友達だ。

「ちょっと聞きたい事があるんだけどいい?」

 嶺歌はそんな形南の姿を目に映したまま、彼女に言葉を発する。

 形南はもちろんですのと風でかき上げられた髪の毛を抑えながら嶺歌に再び笑みをこぼした。

「あれなはあたし以外に友達を家に呼んだりしないのかなって、前から気になってたんだ」

 形南の交友関係を嶺歌はほとんど知らなかった。

 彼女と関わるようになってから半年が経つ今も、形南の人間関係は家族構成と平尾という恋人ができたという事くらいしか分からない。

 友人の話を形南によく話す嶺歌とは対照的に、形南からその様な話を耳にした事がこれまで一度もなかったのだ。

 形南の方からされない話をこちら側から聞く事はこれまで躊躇っていた嶺歌だが、形南と親しくなってきている今は、彼女の交友関係の話も積極的に聞きたいと思うようになっていた。

「お恥ずかしながら、わたくしのお友達は嶺歌だけですの」

 すると形南あれなは少し恥ずかしそうに笑う。髪の毛が風に靡かれ、形南の長い髪の部分が空に溶け込むように揺れていた。

「貴女を含めてわたくしにはこれまでお二人のご友人がおりました。ですが今は嶺歌れかだけですの。もう一人のお友達は三年前に病で亡くなりましたの」

 形南はそう言って宙に舞い続ける髪の毛を手元に戻して整える。

 病で亡くなったという話を聞いて嶺歌は胸が痛くなった。辛い記憶を思い起こさせてしまったと反省する。

 しかし形南は大丈夫ですのよと嶺歌の心境を察した声を発すると、髪の毛に目を向けながら言葉を続けた。

わたくしにとってのお友達は、嶺歌のようにたくさんはおりません。お友達の数は人それぞれであり、お友達が多くいる事はとても素敵な事だと思いますの。ですから嶺歌が多くのご友人に囲まれて楽しく人生を送られているお姿はわたくしも本当に大好きですのよ。けれど私は、本当に僅かなご友人だけで満足なのです。その様な思考はきっとこの先も変わりませんの」

 そこまで口にすると、形南は一歩一歩足を踏み出して庭の中を進んでいく。嶺歌も言葉を挟む事はせずただ黙って形南について行き、静かに足を進めた。

「嶺歌とお友達になりたいと思えた本当の理由は、貴女が魔法少女だからではありませんの」

「え? そうなの?」

 驚いた嶺歌は咄嗟に言葉を発する。

 自分が魔法少女であるからこそ、こうして接点ができたのではなかったのだろうか。そう思っていると形南は薄く微笑みながらこちらに視線を戻した。


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