お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

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第五十一話②『生い立ちとサプライズ』

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嶺歌れかさんお口に合いますか?」

「はい、凄く美味しいです。こんな近場に美味しいパスタがあるなんて知りませんでした」

 彼の問いかけに嶺歌は瞬時にそう答えた。この店の味が気に入ったのも本当だ。

 嶺歌はそう言ってから兜悟朗とうごろうが連れて来てくれた事のお礼を告げると、彼は微笑みながらとんでも御座いませんと謙虚な言葉を返してくる。

「嶺歌さんがお好きな料理をまだお聞きしていませんでした。次回は是非、そちらも考慮させていただいた上でお誘いしたく思いますが、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「……っ」

 兜悟朗の発言にはどのような意図が隠されているのだろう。

 次回という単語を用いる時点で、彼は今後も嶺歌との時間を考えてくれている。兜悟朗がここ数週間で嶺歌と二人きりだけで会おうとしてくれているのも夢ではなく現実だ。

 まるで恋人同士のようなこの会合に、嶺歌は期待をしてもいいのだろうか。期待する事を怖いと思いながらも、期待したいと心から願っている自分が存在する。

 嶺歌は兜悟朗のまっすぐな視線に目を僅かに逸らしながら言葉を発した。

「あたしはなんでも好きですけど、魚料理とか、お寿司とか和食が結構好きです。でもパスタも好きですしこれもアンチョビが入ってるの選んでるので凄く満足してます」

 そう言って自分の本心を嘘偽りなく言葉に出す。

 すると兜悟朗は嬉しそうに微笑みながら「左様で御座いましたか」と口にして、上品な手つきで紙ナプキンを使い口元を拭い始める。

 彼のお皿にはいつの間にかもう料理が消えており、兜悟朗は食事を終えていた。

 本当に全てが早いと改めて思っていると、ふと嶺歌も気になることが頭に思い浮かぶ。そうだ、なぜ今まで彼に聞いてこなかったのだろう。

「あの、兜悟朗さんは……好きな食べ物とかあるんですか」

 嶺歌が知る兜悟朗の情報はそう多くはない。

 これまでは彼との一つ一つの出来事に頭が埋め尽くされていたため、そこまで考えが及ばなかったが、好きな人の事は一つでも多く知っておきたい。

 嶺歌はこの瞬間に強くそう思うようになっていた。

 彼に視線を向けたまま尋ねてみると、兜悟朗は尚も笑顔を崩さず口を開いて嶺歌の質問に答える。

「はい。僕も私生活では海鮮料理を多く嗜みます。ですから嶺歌れかさんと好みが似通っているのだと先程嬉しく思ったところです」

(う、嬉しいの……!?)

 突っ込みたい要素が多すぎるのだが、今の問い掛けで兜悟朗とうごろうは嶺歌と同じ系統の料理を好んでいるという新情報を得る事ができた。

 嶺歌は非常に嬉しい思いを抱きながらもそうなんですねと必死に平静を装った言葉を繰り出し、赤くなりかけている顔の熱を逃がそうと意識的に水を飲む。だが顔の熱は治まりそうにない。

「あ、リガトウゴザイマス」

 嶺歌はとにかく何か返事をせねばとカタコトの口調で言葉を返す。対照的に、兜悟朗は柔らかく笑みを返すだけでいつもの調子を崩さない。

 動揺し、焦りかけた嶺歌は食べかけのパスタをフォークに絡めながら黙々と食事を続ける事にした。

 食事に集中した嶺歌に気を遣ってくれているのか兜悟朗はただ静かにその場にいてくれた。本当に気の利いた人だ。

(兜悟朗さんの事、他にも聞いてもいいかな)

 食事に集中しながら嶺歌はそんなことを考えていた。兜悟朗の食の好みは今の質問でよく理解する事ができた。

 では趣味は? 彼の誕生日はいつだろう? 兜悟朗はどこで生まれどこで育ったのだろうか?

 頭に思い浮かべるとキリがないほどに彼への質問したい事柄がたくさん出てくる。

 嶺歌は最後のパスタを口に含み、丁寧に咀嚼してから飲み込むと、紙ナプキンで口元を拭いながら兜悟朗に再び質問を寄せてみた。

「兜悟朗さんは、趣味とかあるんですか? 聞いた事なかったので」

 嶺歌は言い訳がましく最後にそう付け加える。

 好意を知られたいような知られたくないようなそんな感情で忙しい嶺歌は、チラリと兜悟朗に目線を向けながらそう質問をしてみると彼は笑顔を維持したまま、嶺歌の質問に答えてくれた。

「そうですね、僕はアウトドアが好きです。ハイキングや潮干狩りなどはよく行います」

「えっそうなんですか」

 兜悟朗とうごろうならどんな事でも出来そうなので特段驚く事でもないのだが、アウトドアが好きだという情報はなんだか新鮮だった。とはいえ、きっと彼がインドアが好きだと言っても嶺歌れかは今のように驚くのだろう。

 結局は意中の相手のことならどんな事でも新鮮味を感じて衝撃を受けるのだ。それは自身の心中でよく理解できていた。

「はい。宜しければ今度是非ご一緒できればと思います。お勧めさせていただきたいお所がいくつか御座いますので」

 そう言って兜悟朗はニコリと穏やかにこちらを見る。その全てが嬉しい。兜悟朗は再び口を開くと今度はこのような事を口にしてきた。

「嶺歌さんからご質問を頂けるとは思わず大変嬉しいです。他にもお聞きしたい事柄が御座いましたら、どうぞお気軽に仰って下さい」

(わわっ……わ……………)

 今食事を終えていて本当に良かったと嶺歌は心からそう思った。

 食事中に兜悟朗のこのような言葉を聞いて仕舞えば、嬉しさで胸がいっぱいになり食事も喉を通らなかった事だろう。

 嶺歌はそのまま無言で頷くと、彼のお言葉に甘えて前から気になっていたもう一つの質問をしてみることにした。

「あ、の。そしたら……兜悟朗さんのことでもう一つお聞きしたいんですけど」

 嶺歌が上目遣いでそう尋ねてみると、兜悟朗は尚も柔らかい顔つきのまま嶺歌の質問にどのような事でしょうかと温かみのある声色で言葉を返してくれる。

 嶺歌は彼のその穏やかな言葉遣いにも気持ちを巡らせながら、兜悟朗が執事になるまでの生い立ちを思い切って尋ねてみた。

 そもそも彼は何故執事になったのか。元々そのような家系だったのか、それとも兜悟朗自身がその道を自ら選んだのか。

 いつから本格的に執事になろうと動き始めていたのかなど、彼の完璧で有能な執事ぶりを幾度も目にしてきた嶺歌にとってはとても気になる事だった。これに関しては兜悟朗を好きになる前からずっと気にはなっていたのだ。

「僕は小学生の頃から親元を離れ、その頃に寮暮らしを始めました。実家は九州に御座います」


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