お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

文字の大きさ
上 下
105 / 164

第四十一話①『海』

しおりを挟む


 長期休暇である夏休みの宿題を終えた嶺歌れかはそれ以降、魔法少女活動を続けながら友人と遊ぶ日を繰り返し夏休みを謳歌していた。

 そしてあっという間に夏休みの最終日がやってくる。嶺歌はこの日を今か今かと待ち侘びていた。

兜悟朗とうごろうさんにようやく会える)

 あれ以降会う事は勿論、連絡すら取っていない嶺歌は彼と何かしらのことをできるという事実に喜びを隠せずにいた。

 家では終始口元が緩み、母からは訝しげな目を向けられたりもした。だがそれほどまでに嶺歌の心は天にも昇る思いであったのだ。

(そういえば平尾も来るって言ってたな)

 形南あれなと長電話をしたあの日、平尾も誘っていいかと相談をされていた。もはや断る理由はない。

 今度こそ形南と平尾がくっつくチャンスなのではないかと思う。

 嶺歌はすぐに了承すると形南も嬉しそうに喜んでおり、お互いにとっての大切な日となるであろうその日を楽しみにしていた。



「これでいいか」

 嶺歌れかは日焼け止めを塗り終えながら自身の持ち物を再度確認する。

 今日の服装は涼しい素材のトップスにウエストリボンでしめる短パンスタイルだ。靴も海ということでサンダルである。

 水着は衣服の中に既に着用しているものの肝心の下着を忘れていないかの確認も兼ねて、他にも海に欠かせない必需品を事細かくチェックしていた。

 海に出向くということで荷物もそれなりにある事から今回は形南あれなの強い提案で車での移動になっている。

 しかし今回はリムジンではなく乗用車を使用するらしい。

 これは形南の平尾への配慮なのであろうと予測できた。平尾は目立つのが嫌いな人間なため、形南も彼の気持ちを優先したかったのだろう。

 形南と平尾を見ていると本当に互いを思い合っている事がよく分かる。もどかしすぎるこの状況も、しかしこの両片思いの二人がどのようにしたら交際までに至れるのか、そう遠くない未来に知る事ができるのかもしれない。

 そんな事を考えていると約束の迎えの時間がやってきて、嶺歌は急いで玄関先に向かう。

 すると珍しく早起きの嶺璃が「れかちゃん行ってらっしゃ~い」と眠そうな目をこすりながら見送りをしてくれていた。嶺歌は可愛い妹の頭を撫でながら行ってくるねと笑みを向け自宅を出る。

 そして鍵を閉めると、足を進めてエントランスの方まで向かう。

 嶺歌の足は自然と浮き足立ち、思わずスキップを踏みそうになる程軽やかで楽しさが溢れ出ていた。



嶺歌れか! おはようございますですの!」

 久しぶりに会った形南あれなは嶺歌のよく知っている形南であり、可愛らしい朗らかな笑みを向けてこちらに挨拶をしてきた。

 嶺歌もそんな友人の形南に笑みを向けて元気よくおはよ! と挨拶を返す。

 自宅の位置関係的に平尾の前に先に嶺歌の家に来てくれたようだった。

 嶺歌はいつものように形南の後ろに控えている兜悟朗とうごろうに目線を向けて「兜悟朗さんもおはようございます」と声を出す。

 兜悟朗は目が合った瞬間から柔らかな笑みをこちらに向けており、優しい声色で言葉を返してくれていた。

「嶺歌さん、お早う御座います。本日は宜しくお願いいたします。お荷物をどうぞこちらに」

 そう言って嶺歌の手荷物をそっと受け取ると、彼は車のトランクを開けて嶺歌の荷物を丁寧に乗せてくれる。

 今日の彼は海に行くせいか、いつもより爽やかな青年に見える。嶺歌はそんな兜悟朗の姿に見惚れながら、横にいる形南の視線を感じた。

 彼女はキラキラと零してしまいそうなほどの瞳をこちらに向け、両手を絡めて嶺歌たちの様子を見つめていた。

 途端に嶺歌は冷静になり、一つ咳払いをするとそのまま車の中へと乗り込む。

 今回乗車する車は以前兜悟朗に乗せてもらった私用車ではなかった。高円寺院家の所有物らしい。

 光沢のある綺麗なシルバーのベンツは見ただけで高級車なのだと理解できる程に輝いている。

 手入れが行き届いているのが素人目でも分かるくらい、汚れひとつ見当たらない美しいベンツだった。きっとこの車の管理も兜悟朗がしているのだろう。

 嶺歌の荷物をトランクに入れた兜悟朗は迅速に運転席へ乗ると、そのまま車を発進させる。

(兜悟朗さんの運転て……本当落ち着く)

 車に揺られながら嶺歌はそんな事を思った。今回嶺歌と形南は後部座席に座り、平尾が助手席に乗る形となっている。

 嶺歌は後ろから見える兜悟朗の姿を気付かれないようにそっと盗み見るのであった。


next→第四十一話②
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル

諏訪錦
青春
アルファポリスから書籍版が発売中です。皆様よろしくお願いいたします! 6月中旬予定で、『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』のタイトルで文庫化いたします。よろしくお願いいたします! 間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、グラフィティライターとして不良界に関わりを持つようになる。 グラフィティとは、街中にスプレーインクなどで描かれた落書きのことを指し、不良文化の一つとしての認識が強いグラフィティに最初は戸惑いながらも、主人公はその魅力にとりつかれていく。 グラフィティを通じてアンダーグラウンドな世界に身を投じることになる主人公は、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。 書籍化に伴い設定をいくつか変更しております。 一例 チーム『スペクター』       ↓    チーム『マサムネ』 ※イラスト頂きました。夕凪様より。 http://15452.mitemin.net/i192768/

花霞にたゆたう君に

冴月希衣@商業BL販売中
青春
【自己評価がとことん低い無表情眼鏡男子の初恋物語】 ◆春まだき朝、ひとめ惚れした少女、白藤涼香を一途に想い続ける土岐奏人。もどかしくも熱い恋心の軌跡をお届けします。◆ 風に舞う一片の花びら。魅せられて、追い求めて、焦げるほどに渇望する。 願うは、ただひとつ。君をこの手に閉じこめたい。 表紙絵:香咲まりさん ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission 【続編公開しました!『キミとふたり、ときはの恋。』高校生編です】

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

まほカン

jukaito
ファンタジー
ごく普通の女子中学生だった結城かなみはある日両親から借金を押し付けられた黒服の男にさらわれてしまう。一億もの借金を返済するためにかなみが選ばされた道は、魔法少女となって会社で働いていくことだった。 今日もかなみは愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミとなって悪の秘密結社と戦うのであった!新感覚マジカルアクションノベル! ※基本1話完結なのでアニメを見る感覚で読めると思います。

おそらくその辺に転がっているラブコメ。

寝癖王子
青春
普遍をこよなく愛する高校生・神野郁はゲーム三昧の日々を過ごしていた。ルーティンの集積の中で時折混ざるスパイスこそが至高。そんな自論を掲げて生きる彼の元に謎多き転校生が現れた。某ラブコメアニメの様になぜか郁に執拗に絡んでくるご都合主義な展開。時折、見せる彼女の表情のわけとは……。  そして、孤高の美女と名高いが、その実口を開けば色々残念な宍戸伊澄。クラスの問題に気を配るクラス委員長。自信家の生徒会長……etc。個性的な登場人物で織りなされるおそらく大衆的なラブコメ。

死に損ないの春吹荘 

ちあ
青春
とある事情で両親を持たず、義父母に育てられた紅羽は、中学二年になった今年、学校を転校することに決める。 転校先の学校には、寮と荘があり、紅羽は幼馴染みである、ユウ、ソラがいる問題児があつまる春吹荘に住うことになったが、そこにいたのは、過去に何かトラウマなどを持つ変わった先輩たちだった。 そんな先輩たちに気圧され、振り回され、呆れながらも、日々を過ごす紅羽。過去を引きずりながら、それぞれを生きる先輩たちに触れ、紅羽の心境に変化は現れるのかーーー。

処理中です...