お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

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第三十四話①『強さ』

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 形南あれなが急遽開いたパーティーは唐突に開催したにしては豪華すぎるパーティーだった。

 以前のように嶺歌れかは好きなものを選ぶようにと、ラインナップの豊富な衣装部屋で豪華なドレスの中からお気に入りの一着を選出し、形南に手を引かれて綺麗な会場へと連れて行かれる。

 今日は形南が直接お詫びをしたいからと積極的に彼女の方からエスコートをされていた。

 嶺歌と形南の背後には常に兜悟朗とうごろうとエリンナの二人がこちらを見守っており、パーティーは充実としたものになっていた。

「嶺歌、先程わたくしがはしたなくも興奮して部屋を飛び出した理由をまだ貴女にお話ししていませんでしたの」

 美味しい料理を食べ、楽しいショーをいくつか鑑賞して楽しんだ嶺歌と形南が大きなソファの上で休憩も兼ねてくつろいでいた時だ。

 形南はそのような言葉を口にすると途端に顔を赤らめながらこちらに微笑んでくる。

 嶺歌も形南のその言葉で先程後で話すと言っていた事を思い出し、結局のところ何が届いたのかが気になり始めていた。

 すると形南はパチンと指先で小気味のいい音を鳴らすとメイドの一人が形南の方へワゴンに乗せた何かを持ち運んでくる。

 それは上品なエンジ色の布が被さっており、中に何があるのかは布を取るまで分からないようになっていた。

「こちらが本日届いた例のものですの」

「全然見当つかないんだけど、何それ?」

 嶺歌れかが単刀直入に問いかけると形南あれなは楽しそうにくすくすと笑いながら少し話の話題を変えてきた。

「以前平尾様に私がどのようなプレゼントをいただいたのか、まだお話ししていませんでしたね」

 それを聞いて嶺歌は以前形南に質問した時の事を思い返す。

 平尾から急に呼び出しを受け、形南が急いで平尾の家まで向かった後、形南は平尾と二人きりになり彼から何かしらのプレゼントを貰っていたのだ。

 その詳細が気になっていた嶺歌はその後形南に尋ねてみるも「もう少しだけお待ちいただきたいのですの」とお預けを喰らっており、どんなプレゼントを彼が渡したのかは知らないままであった。

「実はですね、本日届いたものと関係があるのですのよ」

「ん? どゆこと?」

 形南の言葉の意味が分からない嶺歌は頭に疑問符を浮かべながらそう尋ねる。

 すると形南は再び楽しげな表情をしてエンジ色の布をそっと手に取り中身を披露した。

 そこには、金色に光り輝くトロフィーが置かれていた。大きさは一般的なものと同じくらいのトロフィーだ。

 しかし通常のそれとは違うのは、珍しくも平皿をモチーフに作られたものであり、またそのトロフィーがどことなく歪な形をしているという事だった。

「なんか変わったトロフィーだね」

 嶺歌れかはまじまじとトロフィーに目を向けてみる。

 そのトロフィーは平皿を縦に固定された形で出来上がっており、しかしとても綺麗とは言い難い形に仕上げられている。

 左右どころか全てが不均一であり、ただ金ピカに光っているだけで美しいトロフィーであるとは思えなかった。

 嶺歌がそう思いながらトロフィーに目を向け続けていると形南あれなは「こちらもご覧になって」とニコニコした顔で今度はまた別のあるものを手に持ち始める。それは――――トロフィーのお皿にとてもよく似た本物のお皿だった。

「実はこちらのお皿、平尾様の手作りですのよ。陶芸を習わられたようですの」

「陶芸っ!? じゃあ自分で作った皿をあれなにあげたんだ」

 嶺歌は思いも寄らないプレゼントの内容に驚きを見せながらも平尾の本気度を改めて実感する。本当に、早くくっつけばいいのにと思う。

「ふふふっそうなのですの! まさか手作りのプレゼントだなんて、わたくしもうこれ以上ない程に喜ばしくて……こちらのお皿をコピーさせてトロフィーを発注してしまったのですの! 世界で一つだけの平尾様トロフィーですの!!!」

 つまり、形南あれなが発注したこのトロフィーは平尾が陶芸で自作したお皿を3Dでコピーして、それを元にトロフィーとして加工して製作させた特注品であり、世界に一つしかない特別なものであるという事だ。

 嶺歌れかは形南の異様で大胆な行動に再び驚きながらも、しかし彼女の性格をこの数ヶ月で理解し始めていたせいかすぐに彼女らしいと、そんな感想を抱くようになっていた。

「相変わらずドン引く事するよね……でもあれならしくてそういうとこ好きだわ」

 嶺歌は思った事を正直に口に出す。

 以前は飲み込んでいたドン引きエピソードも、今の嶺歌は包み隠さず形南に感想を話せていた。

 以前よりもいい意味で、形南への遠慮が消えたという事もあるが、何より決して形南を馬鹿にしている訳ではないからだ。

 また形南自身も嶺歌のこの言葉を聞いて不快な思いをする事はないだろうと、不思議な事にそう確信めいたものを持っていた。

「あらっ、嶺歌ってば正直なお方。ですがそのご意見には反論がありませんの」

 形南はそう言うと面白おかしそうにくすくすと上品な笑みを溢す。

 彼女の笑顔は取り繕っているようなものではなく、心の底から笑っているようなそんな微笑みであった。

 嶺歌の予想した通り形南は気分を全く害する事なく、楽しそうに笑い飛ばして返答をしてくれていた。これは間違いなく、嶺歌と形南の信頼関係が以前よりも確実に強まっているからだ。

 嶺歌もそう感じていたが、形南の方もそう思ってくれている。

 そう実感できたことが嬉しく、嶺歌は形南の笑いに応えるように笑みを返すのであった。


next→第三十四話②(8月7日更新予定です)
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