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第二十八話①『ドライブ』
しおりを挟む「あ、あれちゃんの好きそうなものを教えてほしいんだけど……」
定期テストも近付いてきており、教室で友達と問題の出し合いをしながら昼休みを過ごしている時だった。
平尾が珍しくもこちらを呼び出し、廊下で話す事になったのだ。
「好きそうなもの? 何だろう」
嶺歌も彼の言葉に首を傾げる。そう言われると形南の好きなものがよく分からない。
可愛らしいものなら何でも喜んでくれそうではあるが、明確に形南の好きなものだと思えるものは嶺歌も知らなかった。
しかし嶺歌は最近形南に日頃の感謝として彼女にプレゼントをした物の存在をそこで思い出す。
「そういえばあたしもちょっと前に形南にプレゼント渡したよ」
以前から形南に何かを渡してお礼をしたいと思っていた嶺歌は雑貨屋さんで形南に似合いそうな可愛らしいマスコットを購入し、先日彼女にプレゼントしていた。
形南はそれを毎日のように鞄に身に付け通学してくれているようだ。
その事を平尾に話すと彼はそうなんだと考えを巡らせているのかぶつぶつ言いながら相槌を打つ。そうして彼は唐突にこのような事を口に出してきた。
「あ、あのさ今度一緒に買いに行くの手伝ってくれないかな? お、俺詳しくないから」
「ごめん無理。あたし男とは二人で出掛けない主義だから」
嶺歌が即答すると平尾は驚いたような表情を見せて次にこんなことを繰り出してくる。
「え、そうなの? でもと、兜悟朗さんと二人で出掛けることがあったってあれちゃんに聞いたけど……」
「え!?」
そこで嶺歌は初めて動揺の色を見せた。
確かに思い返せば兜悟朗と二人で何かした事がそれなりにある。私的な理由からではなくても、彼と二人で出掛けることに何も違和感を覚えてはいなかった。
嶺歌はそこでもう一度兜悟朗への感情を思い出し、学校であるにも関わらず赤面しそうになっていた。
「……ちょ、タンマ」
「え、ど、どうしたの? 何か顔赤くない?」
平尾は嶺歌のいつもと異なる様子に驚いたのかあたふたしながら問い掛けてきた。
兜悟朗の事となると顔の熱が収まりそうにないと実感した嶺歌は平尾に何と説明しようか思考を巡らせる。
彼には兜悟朗への気持ちを話してみるのもありなのだろうか。そう思った時、嶺歌達に第三者の声が掛けられた。
「平尾~うちの嶺歌をあんまり独り占めしないでよ」
「そろそろレカちゃん返せ~!」
「れか! ここの範囲得意でしょ? 教えてほしくてさ~」
友人達のその声で嶺歌は平静さを次第に取り戻し始める。
困っていた所で助け舟が出された事に感謝しながら、嶺歌は平尾に向き直り「あれなの好きなものは分からなくても、あんたが選んだものなら喜ぶはずだよ。だから自分で考えて買った方がおすすめ」と声を返した。
さりげなく先程の話題を逸らしたが、平尾は特にそれには気が付いていない様子でそっかと言葉を放つ。
「わ、わかった。じゃあ俺一人で考えてみる。あ、ありがと。じゃあ……」
「うん」
そう言って隣のクラスに戻っていく平尾から視線を外すと嶺歌は友人の神来南に腕を組まれ、心乃と詩茶に囲まれながら教室へと戻り始める。
するとその途中で詩茶にこんな事を尋ねられた。
「平尾と最近話すよね?」
嶺歌はその問いにどう言った意図が含まれているのかを察して言葉を返す。
「変な想像はしないでね、共通の友達がいてその子の事であたしに相談してきただけだから」
「共通の友達ってだれ~?」
会話の間に心乃が口を挟む。うちの学校? と聞きながら興味津々な様子の心乃に嶺歌は学校は別なのだと説明をした。
魔法少女関係の事を話す訳にはいかないが、話せる範囲の事は友達である彼女らにも話したいという気持ちが少なからずある。
ここ数ヶ月でお嬢様の女の子と仲良くなったのだという話をすると嶺歌を囲んで話を聞く数人の友人達は楽しそうに話を聞いてくれた。
「そういえば私も見たことあるの思い出した! めっちゃ高級そうなリムジン来てたよね」
「え~! マジ!? 見たかった~」
「れかは交友関係広いもんね、めちゃ納得だわ~!」
そんな会話をしているとあっという間に休み時間が終わり、いつの間にか試験勉強を中断して話に夢中になっていた事に気付いたのだった。
next→第二十八話②(7月17日更新予定です)
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