お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

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第二十四話②『誤解して先走り』

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「だ、だってさ……」

「うん、何?」

 平尾の言葉に重なるように嶺歌れかは声を出す。

 しかしどうやら彼には彼の言い分があるようで、一方的に形南あれなから嶺歌を引き離そうとしている訳ではないようだ。それが分かり少し安堵する。

「その……お、おいしい思いをしてるだろ?」

「はあ? 何それ、意味不明だけど」

 平尾の言っている事が分からず嶺歌は声を感情のままに出す。

 平尾はその反応に怖気付きながらもしかし逃げる様子はなかった。彼の強い意志がそうさせているのだと理解できた嶺歌は平尾のそんな姿勢にだけは心の中で評価した。

 だが未だ彼の真意が読めないため、嶺歌からの質問は続く。

「はっきり言ってよ。回りくどいよ」

 嶺歌は平尾に詰め寄り、そう言葉をはっきり投げかけると平尾は後退りをしながら小さく、しかし長々と言葉を口にし始めた。

「あ、あれちゃんに車も買えそうな程高級な洋服をか、買ってもらったり……貸し切りレストランに案内してもらったり……ご、豪華なパーティーまで…やってもらったんでしょ? そ、それって……ほんとに友達なの?」

「あー……それは」

 嶺歌はそこでようやく平尾の言わんとしている事が分かった。彼は形南をただただ心配しているのだ。

 平尾の口にする事は全て事実で実際に起こった出来事であり、それら全てに嶺歌が関わっている。彼がそう言うのも変な話ではない。

 きっと土曜日の形南とのデートの時に、形南から色々と聞いて不安に駆られたのだろう。

 形南としてはきっと何の隔たりもなく嶺歌にした事実を楽しげに話しただけにすぎないであろう事は彼女の性格からして予測することが出来た。

 つまり、平尾が一人で不安になってこうして嶺歌に物申しに来ているだけなのだ。形南は無関係で、平尾も善意からの行動であることが分かる。

(なんだ、良かった)

 平尾への警戒は一気に解け、嶺歌れかは心の底から安堵した。彼は形南あれなを心配してこのような言葉を口にしている。

 それも、怖いであろうこの状況に逃げる様子もなかった。

 形南への思いが恋であるのか友情なのかは分からないが、それでも彼にとっての形南はそこまでする程の存在になっているのだ。それが理解できた事が嶺歌は嬉しかった。

 だがしかし、その喜びに浸る前に平尾との問題をどうにかせねばならない。

 嶺歌から平尾に対する警戒は解けたものの、彼から嶺歌への警戒は解けてはいない。

 何故なら平尾の言っている事は事実起きていた事で、嶺歌にとってもその出来事は考えるところがあったからだ。

 形南にほぼ無理やりそうさせられていたとはいえ、自分もお言葉に甘えてしまっていた事実は否めない。

 嶺歌は何と答えようか迷いながらとりあえず言葉を出そうと口を開きかけると平尾は再三の声を上げてきた。

「あれちゃんを利用しておいしい思いをするのは……見過ごせない」
「あれちゃんは……僕や和泉さんなんかが釣り合うような女の子じゃないんだ……!!!」

 平尾が力拳を作り、真剣な様子でそう言葉にするのを嶺歌は正面から見ていた。彼の気持ちは正真正銘の善意であり正義だ。嶺歌は彼の言い分に言葉を返す。

「それは一理ある」

 すると平尾はハッとした様子で嶺歌を見た。彼より僅かに身長の高い嶺歌は平尾を見据えると言葉を続けた。

「でも決めるのはあんたじゃない。あれなでしょ」

 嶺歌のはっきりとした口調に平尾は口を開けたまま静止した。開き直っていると思われているのだろうか。

 嶺歌ははーっと息を吐くともう一言付け加える。

「あたし、勝手に決めつけられるのって嫌なんだよね。ちょっとこっち座ってよ。話そ」

 そう言って裏庭のベンチに腰掛けた。二人座れるように空間を開けてポンポンと空席を叩いてみせる。

「え、あ、う、うん」

 平尾は先程までの威勢がすっかり消え、辿々しい言葉を放ちながら嶺歌の隣に座り出した。

 だが未だに嶺歌への警戒は健在している様子でこちらに決していいものとはいえない空気感を放っている。

 しかしこれで腑に落ちた。

 以前平尾から敵対心のようなものを向けられていると思っていた原因はこれだったのだ。

 単に嶺歌れかを嫌っているのだと思い込んで納得していたが、これが理由だろう。

 形南を利用しておいしい思いをしている嶺歌に平尾は以前から思うところがあったのだ。

 そう考えると理由が分かり頭がすっきりする。

「まずさー、平尾君の言ってる事は正しいけど決めつけてるとこあるよね」

「え? そ、そう…なの?」

「うん、まあ側から見たらそう思うのも仕方ないし、あたしもそれは自覚あるからあんたが間違ってるとは言い切れないんだけど」

 嶺歌は隣に座った平尾に視線を向けながら言葉を口にする。

 平尾は目線を合わせて会話する事が慣れていないようで嶺歌の視線に目を合わせることはなかったが、こちらの話に耳を傾けている事は伝わっていた。

「つまり平尾君は、あたしがあれなと遊ぶ度に身の丈に合わない豪華な食事やプレゼントを貰ってて、それを目的としてあたしがあれなと関わってるって言いたいんだよね? 合ってる?」

 嶺歌は平尾に再び向き直り、彼に問い掛ける。

 平尾はたじろぎながらも視線を外して「そ、そう……だよ」と肯定してきた。

「それがあんたの決めつけだよ。あたしだってあたしの言い分があるからそれ聞いてから言ってよね」

「で、でも……和泉さんはあれちゃんを洗脳…してる。あれちゃんは気付いてないんだ」

「いやあんたのその思考は理解するけど、それは相手の意見も聞いてからにして」


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