お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

文字の大きさ
上 下
59 / 164

第二十三話③『フラグのような』

しおりを挟む


「お嬢様と平尾様はイルカショーを見られるそうですね」

 レストランを後にし、形南あれなと平尾の姿を見つけた嶺歌れか兜悟朗とうごろうは先程と同じように一定の距離を保ちながら尾行を再開した。

 するとすぐに形南からレインが届き、これからイルカショーを見に行くのだと報告が入ったのだ。

「あたし達も観客席にいた方がバレにくいですよね」

 嶺歌がそう告げると兜悟朗は「そうですね」と笑みをこぼし、そのままイルカショーの鑑賞に参加する事になった。

 形南と平尾はチャレンジャーな事に一番前の濡れてしまうこと必須な席に座り始め、雨ガッパを身に付け始める。

 形南が上手く着用できない所を平尾が手伝い何とか着ることが出来ていた。

 形南はいつも以上に頬を赤らめ、とても嬉しそうに笑顔で平尾を見ている。平尾の顔は見えないが、きっと彼の事だから照れているだろう。

(めっちゃ順調だ。もしかしたらワンチャンあるんじゃ?)

 二人の付き合いたてのカップルのような雰囲気を遠くから眺め、嶺歌は考える。もしかしたらこれは帰り際に告白を交わしてお付き合いに発展なんて事もあるかもしれない。

 そんな事を考えていると次第に自身の口元が緩み始めるのを実感する。二人のカップルが誕生したら、めでたいどころではないだろう。

 嶺歌はサイレント機能のカメラをスマホで起動し、シャッターを押した。形南と平尾の肩を並べて座る姿がとてもお似合いだったからだ。

 形南に撮影を頼まれたのは兜悟朗であり、嶺歌には頼まれていなかったが、きっとこの写真を彼女が見たら喜んでくれるに違いない。

 そう思っているとイルカショーの時間となり、煌びやかなショーが幕を開けた。



 イルカショーはそっちのけで形南と平尾の二人を観察していた嶺歌と兜悟朗は、ショーが終わると迅速に席を立ち、形南達と鉢合わせしないようにその場を離脱した。

 そうしてその後もいくつかのエリアに出向く形南と平尾を尾行していった。

 嶺歌と兜悟朗は二人ともデートの追跡に集中し、その間に私語を話す事はなかった。



 形南あれなと平尾のデートは終わりを迎えた。帰りは平尾に家の前まで送ってもらうのだと形南本人からレインが届き、嶺歌れか兜悟朗とうごろうの尾行もいよいよ終わりが近づく。

 一日見ていた形南は本当に恋する一人の女の子であり、それを見れた事が嶺歌にとっても嬉しかった。

 そして彼女が本当に平尾を好いている事も今回の件で再認識する事が出来ていた。

(平尾君はどうなんだろ)

 彼の様子にも目を向けていたが、平尾の態度は恋なのかそうでないのかの判別がつきにくい。

 というのも、彼は女の子に対する免疫自体が少ないのでどんな子といても同じような態度を取るのではないかと容易く想像出来るからだ。

 その為、彼の気持ち次第でどのような状況なのかが大分変わってくる。

 嶺歌は形南と楽しげに会話をしながら帰路に着く平尾を観察するが、やはり最後まで彼の真意は分からなかった。

 この間の時のように彼が形南の金銭を狙っているという考えはもう今の嶺歌にはなかったが、平尾がどのような思いで形南に接しているのかは謎のままである。

 結局平尾は形南を大きな豪邸である高円寺院こうえんじのいん家の目の前まで送るとそのまま彼女に手を振り、立ち去っていく。

 形南が中へ入らないかと口にしていたものの「しゅ、宿題あるから……」と挙動不審になりながら断っていた。

 形南も形南で無理強いはせず笑顔で平尾を見送った。

 そんな様子を兜悟朗と二人で物陰から見ていた嶺歌は二人の雰囲気が前よりもいい感じになっているような、そんな気がして嬉しかった。

 平尾の気持ちは分からなくとも形南は彼を一直線に慕うだけだ。それ以外に彼女は選択肢を選ばないだろう。

 そう認識し、今日のデートが無事に終わった事に安堵していた。

嶺歌れか兜悟朗とうごろうそちらにいますの?」

 平尾が完全に形南あれな達の視界から消えた時、形南から声が掛けられる。

 彼女の推測通りの場所に身を潜めていた二人はそのまま形南の前へ姿を現した。

「デートお疲れ。めっちゃいい雰囲気だったよ」

 嶺歌がすぐに手を振って笑みを向けながら彼女にそう告げると形南は嬉しそうに口元を緩ませながら「まあ、本当ですの?」と頬を染めた。

「嶺歌も兜悟朗もお疲れ様ですの。本日はわたくしの我儘に付き合ってくださって本当に感謝致しますの」

 形南はそう言うと嶺歌に向けて丁重なお辞儀をした。

 いつ見ても美しい姿勢のその一礼は、嶺歌が見ようみまねで体得できるとは思えない程のものである。嶺歌は笑いながら形南の謝礼を受け入れる。

「楽しかったから全然いいって。じゃああたしも今日はもう帰るね、今度改めて詳しく感想聞かせてよ」

 明日は明日で約束がある。クラスの友人らと数人で集まって遊園地に行くのだ。早起きの必要がある為そろそろお暇するのが賢明だろう。

 するとそんな嶺歌の言葉に形南はこんな事を口にする。

「それでしたら兜悟朗、嶺歌をご自宅まで送っていきなさいな」

「畏まりました」

「えっいいよ!!」

 形南の命令に瞬時に反応した兜悟朗に嶺歌も瞬時に反応を返す。

 ここから自宅までそう遠くはない。散歩にちょうどいいくらいだ。まだ外もそこまで暗くはない為、形南が夜道は危険だからと心配する必要も感じられない。

 嶺歌は彼女の提案を断るがしかし、形南ではなく兜悟朗が言葉を返した。

「嶺歌さん、不都合でなければ是非わたくしに送迎させていただけないでしょうか。お話ししたい事も御座います」

(話したい事……?)

 何だろうと思いながら、彼にそう言われ断りたくない自分がいた。

 兜悟朗と尾行している間も思っていた事だが、兜悟朗と共に行動するのは一切のストレスを感じられなかった。

 彼がそれを意識していての事なのか素の状態での事なのかは定かではないが、それでも嶺歌は兜悟朗と一緒にいる事に安心感を持っていた。

 そんな状態の嶺歌が断れる筈もなく「じゃあ、お言葉に甘えてお願いします」と小さく会釈をする。

 そう素直に声を発した嶺歌を前にして形南と兜悟朗は嬉しそうに微笑みを向けてくる。この主従は本当にお人好しだ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...