お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

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第二十二話①『公認尾行』

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 暑い気温がはじまりかけていたその日、形南あれなから興奮した様子で電話がかかってきた。珍しく休日に嶺歌れかが自宅でのんびりとしている時だった。

『嶺歌!!!!!!!』

「あれな? どうしたの? 何かやけにテンション高いね」

 自分の名前しか呼ばない形南にそんな言葉を掛けると形南は尚も興奮した様子で口を開く。

『どうしましょう!!! わたくしもう天にも昇ってしまう思いですの!!』

「そんなに? 何があったの?」

 あまりの興奮ぶりに嶺歌は不思議な思いを抱きながらも彼女の言葉を待つ。一体何があったのだろうか。

 すると形南は嬉しそうな口調でスマホ越しにこんな言葉を発してきた。

『今度の土曜日、平尾様とデートする事になったんですの!!!!!!!!!!!』

「えっ!!?」

 唐突な単語に嶺歌は驚く。これまでの形南は平尾と連絡を取り合うだけで、まだ私生活では一度も二人きりで会ってはいないという。

 二人で出掛けるのはもう少し先の話になるだろうと思っていたため嶺歌が衝撃を受けるのも無理はなかった。

「マジか! やったねあれな!!」

 嶺歌は素直に友人の初デートを祝福した。形南がついに想い人と近づくチャンスを物にしたのだ。喜ばない選択肢はない。形南の様子は普段以上に昂っているのが電話越しからでも大いに伝わってきていた。

 形南は突然のビッグイベントに頭がいっぱいなのかひたすら嬉しそうに『はああですの』と声を漏らしていた。

 そんな彼女の嬉しそうな顔を頭の上に浮かべながら嶺歌は言葉を返す。

「当日は気合い入れなきゃね。デート終わったら教えてよ。色々話聞きたいから」

 そう純粋に思った言葉を彼女に放つとしかし形南あれなは少し声の調子を落としながら「嶺歌れか」とこちらの名前を呼んできた。

 そうして次にとんでもない言葉を口に出してきたのだ。

『貴女にはお手間を取らせて申し訳ないのだけれど……平尾様とわたくしのデートを、尾行してほしいのですの』

「えっ!?!?!?」

 まさかのデート尾行をお願いをされた。形南はそれでいいのだろうか。そもそも尾行してもらう意図は何なのだろうか。

 さまざまな疑問が嶺歌の頭を駆け巡り、嶺歌は率直に彼女へ理由を尋ねる。

 せっかく二人きりのデートなのに、自分が行くのはあまりにも野暮だろう。

 その場に現れないとはいえ二人きりの世界をストーカーのように見るなどとんでもない邪魔者である。

 しかしこのあと形南は再び予想の斜め上の回答を口に出し、興奮気味にこんな言葉を繰り出してきたのだ。

『その理由なのですけれど…………』

『平尾様とのデートを客観的視点で見てほしいからですの!!!!!!!!』

「…………ああそうなんだ」

 意味は不明だが嶺歌はナチュラルに言葉を返す。客観的に二人のデートを嶺歌が見ても形南に何の得があるのかはよく分からなかった。しかし形南の考えは理解できないところもあるため考えていても仕方がない。

 嶺歌はそんな事を思いながら終始嬉しそうに声を出す形南に相槌を打ち、その日の電話を終えた。



 形南あれなと平尾のデート場所は電車を乗り継いだ先の水族館だ。形南が電車に乗るなど想像もつかないのだが、彼女は平尾と電車に乗るのだと嬉しそうに話していた。

 そして形南と平尾のデートには嶺歌れかだけではなく、兜悟朗とうごろうも任命されている。

 土曜日の予定が奇跡的に空いていた嶺歌はその日を迎えると迅速に身支度を済ませ外に出た。

「嶺歌さんおはよう御座います」

 マンションのエントランスに出ると聞き慣れた声が嶺歌の耳に響く。

 この声は兜悟朗だ。彼と当日は二人で形南達のデートを尾行する見守るという話になっていたため彼の姿がここにある事に何ら違和感はない。

「おはようございます兜悟朗さん。今日はよろしくお願いします」

 嶺歌がそう彼に向かって小さくお辞儀をすると兜悟朗は相変わらず柔らかな笑みをこちらに向け深々と丁重な一礼をしてきた。

「本日は貴重なお休みを、形南お嬢様の為にご使用いただき有難う御座います」

「とんでもないです! 予定も空いてましたし気にしないで下さい」

 嶺歌はそう言うといつもとは違った装いをしている兜悟朗に両手を振ってみせた。

 彼は今日グレーのジップ付きパーカーに暗めの色のチノパンツを着用している。初めて見る兜悟朗のラフな格好だ。

 彼のこの姿を見るに、兜悟朗は形南から平尾にバレないようにと執事服の着用を禁じたようだ。

 対する嶺歌も、当日は目立たないかつ怪しまれない装いで見守ってくれると助かると形南からお願いをされていた。平尾とのデートを尾行するとは言ってもあくまでこれは尾行だ。

 平尾にバレないように普段とは違った衣服で変装した方が無難だろう。

 そう思い嶺歌も形南の意見に賛成し、今日の自分はいつもの明るめの服装ではなく、地味目の暗い印象を抱かせる装いをして外出していた。

 変装という事で嶺歌は紺色のキャップも被っている。

「それでは参りましょうか」

 兜悟朗とうごろうのその声で嶺歌れかは早速彼と共に目的地の駅へ向かい始める。自動車だと尾行に不便であるため、今回は交通機関を使って移動する手筈となっていた。

 嶺歌と兜悟朗は形南あれなたちが乗車した電車の一つ後ろの車両で数分揺られながら形南達のデート場である『未来と過去の水族館』へ足を運んだ。

 形南からは定期的にグループレインで連絡がくるように打ち合わせ済みである。

 この機会に兜悟朗とレインの交換をする形となった嶺歌だが、いまだに形南と一緒のグループレインでしか会話をした事はなく、彼と一対一でメッセージのやり取りはしていない。

 しかし二人だけで連絡をする用件がないのだからそれはおかしな話ではなかった。


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