お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

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第十七話①『貫禄のある』

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 外野が五月蝿い中、嶺歌れかは先程とは別人のように絶望的な表情をして地面に座り込んだ竜脳寺りゅうのうじの姿を目に映す。

 そして嶺歌はそのまま自身のスマホを手に取ると形南あれなへ連絡をした。復讐が終わったから、指定の場所から謝罪を見ていてほしいと、そのような文言を送っていた。

「あれなはここにはいないけど、あたしが動画を撮っておくからここで謝罪して。ちょっとそこ近付きすぎなので下がってもらえます?」

 形南がここにいる事を悟られてはならない。実は形南はこの学園内にいるのだが、数多の人間にそれを知られてしまうと高円寺院家の名に傷がつく問題が発生する。

 だからこの場に彼女はいない事を強調する必要があった。

 しかし一つ問題が生じていた。

 竜脳寺を蔑んだ目で囲う野次馬達はここぞとばかりに竜脳寺の側まで近寄り、悪態をつき始めている。これは良くない傾向だ。

 リスクは分かっていたが、謝罪の姿勢を見せ始めた竜脳寺をこれ以上攻撃する事は嶺歌の望むところではない。

 悪人の竜脳寺は反省の色を見せたのだ。

 それが自分の状況の悪さからくる不純な謝罪だとしても、これまで全く形南に悪びれた様子を見せなかった竜脳寺が謝罪をすると確かに口にしたのだ。

 どんな理由であれ謝罪をすると言う人間をこれ以上責める事は、復讐ではなくただのいじめだ。

 この先彼を責めていいのは、彼に直接気合を加えられた形南だけである。

「ちょっと、下がってって言ってんでしょ! 竜脳寺りゅうのうじが謝罪するから、早く退いて」

 嶺歌れかの声を無視し竜脳寺に暴言の類をぶつけていく数多の生徒達に嶺歌は声を張り上げた。

 彼らを焚き付けたのは間違いなく嶺歌であるが、これ以上の行いは止めなければならない。嶺歌は正義を諦めたくはない。

 だがそれでも嶺歌の声に耳を傾ける者は半数くらいなもので、残りの生徒達は竜脳寺へ言葉の刃を向け続ける。

 嶺歌は彼等に止めるよう告げるものの外野達の熱は収まるどころか高まりを見せていた。

(ああもう……しょうがないけどこれで)

 流石に多人数相手に嶺歌一人が止めに入ったところで効果は薄い。嶺歌はため息を吐きながら透明ステッキを手に取り魔法をかけ――――――
(あれ?)

 途端に強度な眩暈に襲われる。これは間違いなく魔法の使い過ぎによる魔力切れだ。しかしこんな事は初めてだった。

(うわ、まじか……謝罪まだしてもらってないのに。ていうかその前に……)

 竜脳寺を取り囲み、彼に非人道的な言葉を発する数多の生徒達をどうにかしなければ。このままでは竜脳寺は完全に壊れる。復讐はしたかったが彼に廃人になってほしい訳ではなかった。

 人間は誰でも間違える。それでも、それを理解し、反省してまた前に進めるのだ。竜脳寺にはその可能性があった。

 形南あれなの友人として彼に制裁を下した今は、ただ魔法少女として彼に今後の生活を改めて暮らしてもらいたいと、そう思っていたのに。

(魔力ここまで使うとは考えてなかったな……やば、意識が………)

 嶺歌は強烈な眩暈に耐えきれずその場で身体が崩れるのを意識の奥で感じていた。

 そして同時に自分にかけていた魔法と魔法少女の変身が一遍に解けるのを実感する。

 そのまま倒れる――そう思っていた嶺歌はしかし耳を疑う言葉を耳にした。

「嶺歌。ありがとうですの。後はわたくしにお任せくださいな」



(あれな……何…で……)

 この声は紛れもない形南あれなの声だった。そして地面に倒れると思っていた嶺歌れかの身体は痛みを感じる事なく、誰かの温もりに支えられる。

「嶺歌さん、お疲れ様で御座います。そして感謝申し上げます。どうかごゆっくり、お休み下さい」

 兜悟朗とうごろうの声だ。何故彼までこの場に……そう思う嶺歌の顔で察したのか形南は声を続ける。

「何故、というお顔をされていますね。私も考えておりましたの。高円寺院家の誇りを守るべきか否かを」

 形南は嶺歌の視線に合わせるようにしゃがみ込むと、嶺歌に優しく微笑む。

「ですがそのような考え自体が愚かでしたわ。だって、わたくしの大切なご友人が、一人で頑張られているのにこちらは何もしないだなんて」

 形南は自身の胸元に手を添えてからぎゅっと両手を握りしめる。

「そんなの嶺歌の前でお友達だととても名乗れませんわ! 嶺歌、未熟なわたくしをどうかお許し下さい。ここからは全て、私が承りますの!!」

 そう告げると形南は嶺歌に背中を向け、竜脳寺の元へ歩を進める。

 竜脳寺に夢中で彼女の登場に気が付かない外野達は、だがしかし数秒後、彼女の一声で瞬時に形南を見ることになる。

「お騒がしいですのよ」

 形南の声は決して大きなものではない。だがそれでも透き通るほどに鮮明な声色が、グラウンド中に行き渡る。形南の一声で辺りは一瞬で静まり、その場にいた全員が形南に目を向けていた。

 形南は囲うようにして責め立てられていた竜脳寺りゅうのうじの姿に視線を向けるとそのまま周りを囲う野次馬らに焦点を置き換えて声を上げる。

「この方を罰していいのは貴方達ではありません。所詮は皆様傍観者で御座いましょう? 何故そのように責め立てるのです」

 そう言うと形南は少しずつ竜脳寺の方へと歩を進める。言葉にし難い貫禄を放つ形南にその場にいたみなが、自然と足を後退させていた。

「それともこの方に何か危害を与えられた方でもいますの?」

 形南はこの場にいる全員に向けて声を放っている。しかし彼女の問い掛けに答えるのは静かな沈黙のみだった。

「いませんのね?」

 彼等の反応を首を動かしながら確認した形南はそう言葉を続けて放つと再び足を進めた。そしてそのまま竜脳寺の元まで辿り着く。

「それではこれ以上無抵抗のこの人を虐げるのはご遠慮願いますわ。虫唾が走りますの」

 ピリッと何か空気が変わった。形南の威厳は確かに今この空間を制圧する。ピリピリとまるで肌が痛くなるかのようなこの空気に、多くの生徒達が額に汗を流していた。


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