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第十五話①『決行日』
しおりを挟む「あれな? おはよう! あのさ、今日の放課後に元コン野郎をとっちめようと思うんだけど」
『嶺歌ちょっとお待ち下さいな、モトコンヤロウとは何ですの?』
「元婚約者の略!」
『まあ! 何て斬新なニックネームなのでしょう! 私もそちらを使わせて頂きますの!!』
決行日の朝方、形南に電話をかけた。彼女とはこの約二週間敢えて連絡を控えていた。
理由は復讐に高円寺院家が関わっていると疑われないためだ。あくまで嶺歌が行う独りよがりの復讐。これはそう見せなくてはならない。
それを察していたのか形南の方からも連絡がくることはなかった。
だがせっかくの復讐だ。形南には目の前では難しくとも是非観客として彼の反省した姿を目にしてもらいたい。嶺歌はそのまま言葉を続けた。
「うん使って。それと復讐の現場をね、あれなにも見て欲しいんだよね。勿論隠れて見られる安全な場所で」
嶺歌は早速形南に復讐の内容を説明してみせた。静かに聞いていた形南は嶺歌が計画を話し終えるとまあまあと驚きを交えた言葉を溢し、嬉しそうに言葉を返してきた。
『是非そうさせていただきますの!』
「良かった。じゃあ放課後はそこにいてね」
『ええ分かりましたの』
彼女がすぐに答えてくれた事で用件は終わりそのままじゃあ後でと電話を切ろうとした時だった。
『嶺歌』
形南が不意にこちらの名を呼んだ。
『本当に、有難う御座います』
丁寧な言葉だった。いつも上品な言葉遣いの形南であるが、今の感謝の言葉は彼女の奥底に眠る言葉に表せない恩情を感じた。
嶺歌はそのまますぐに声を返す。
「必ず謝罪させてやるからね」
その言葉にくすくすと嬉しそうに笑う形南の声を聞き、嶺歌は安堵する。彼女にも笑える余裕があるという事が何よりも救いだ。
一刻も早く目的を果たし、形南にすっきりとした思いで平尾との仲を進めてほしい。
そのまま形南と電話を終えると嶺歌は自身で計画した復讐内容を何度も頭の中でシュミレートし、放課後までに気持ちを固めていた。
放課後を迎えると嶺歌は早速竜脳寺竜脳寺の通う金神流王学園へ足を向けた。
調べて分かった事だが、彼の学校は元婚約者である形南と隣の学校であった。
彼は日々部活に励んでいるようで、今日も放課後は部活の予定だ。嶺歌が張り込んで観察をしたためその点に間違いはなかった。
竜脳寺は剣道と空手の二つを部活で掛け持ちしており、基本的には空手に力を入れているのだとか。彼はどうにも性格に似合わず優秀な生徒らしい。勉学も運動も人付き合いもかなりのスペックを兼ね揃えたいわゆるエリートのような存在のようだ。
形南を裏切った時点で嶺歌からすれば他所から親しまれていようと嫌悪感しか抱かないのだが、そんな彼の立ち位置は、復讐者としてはかなり都合が良い。
部活に勤しんでいるであろう空手の部活場へ足を運ぶと彼は案の定広い体育館で相手と空手の組み手を交わしていた。
暫し組み手を眺めているとどうやら竜脳寺の方が相手よりも上手のように見える。
嶺歌は時を待ちながら組み手が終わるのを待つ。タイミングは既に自身の中で決めていた。
嶺歌は今自分が魔法少女である事に対し普段以上に感謝していた。それは形南の復讐に都合の良いスペックを兼ね揃えているからだ。
魔法少女になれる条件は、無欲さと善人さ、悪を見て見ぬ振りしない心の強さを揃えているのが必須事項だ。
それらを欠ける事がないと判断された人物だけが初めて魔法少女になる事ができる。
なりたいからなるという希望や、なりたくないから辞退するという放棄ができない。基本的に魔法少女は選ばれるべくして選ばれ、選ばれたからには自身が命を落とすその時まで魔法少女としての務めを果たさなければいけない。それはもう運命なのだ。
選択権のないこの状況に関して不満に思う事も抗いたいと思う事も嶺歌はなかった。だからこそ、自分は選ばれたのだろうとただそう思う。
魔法少女の力は万能だ。基本的に何でもできると言っても過言ではない。悪事に使う者がいないため、魔法の力は魔法少女に全一任されているからである。
悪に染まる者はそもそも魔法少女に選ばれない。
魔法協会は魔法少女をというより、魔法少女を選抜した己の事を信頼している。そのため魔法少女自身が悪事を働いたという事件は一度も起こったことがないのだ。
では嶺歌が今回行うことは悪事にならないのだろうか。答えはイエスだ。大切な人のためだからと言って復讐を目論むことを、肯定しようとは思わない。自分が行おうとしている事は人に自慢げに話せる事ではないからだ。
だがそれでもこれから行う事が、絶対的に悪かと言われるとそうではないのも事実である。
その理由は復讐を受ける者が、それ相応の悪事を働き、意図的に相手を傷つけた。彼を放っておく事は今後彼によって新たな犠牲者が出るかもしれない。そういった懸念もある。
それを防ぐためにも、今回の復讐は必要であり悪事であるとは言い切れないのである。
ただその考えを屁理屈のようだと嶺歌自身が思ってしまうのは、自身の心の中に形南の無念を晴らしたいという私欲的な思いが少なからずあるからなのだろう。
私的な感情を持ってしまった以上は、復讐を機械的に行う事は難しい。悪ではないが、感情を持った復讐になる事は間違いなかった。
しかしそれを理解しながらも嶺歌は止まる事はしない。復讐は必要だ。形南のためにも。
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