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第二話②『疑問を問う』
しおりを挟むここまでの話を聞いて嶺歌は疑問が解消され、納得をする。だがもう一つだけ気になる事があった。
「そもそもの話なんですが、魔法少女がいるっていう情報はどこから得たんですか?」
魔法協会の所までに足を運ぶのは、前提として魔法少女の存在を知らない事には無理な話だ。
何故魔法少女が存在する事自体を知っていたのか、それに関しても大きな疑問点であった。
しかし形南は先程と何ら変わりなく、落ち着いた様子でこちらに微笑みかけるとそのまま嶺歌の疑問に答える。
「カマをかけたのですよ」
「へっ?」
「魔法少女など空想の存在。ええ、それは昔からお母様に言われていましたもの。きちんと認識していますのよ」
形南はそう言うとこちらに向けていた視線を運転席でハンドルを握る兜悟朗に向けて「貴方も覚えているわよね?」と問い掛ける。
すると直ぐに運転席の方から「はい、お嬢様。覚えております」と執事の声が返ってきた。先ほどから彼の対応は一つ一つが早い。これが大財閥の執事か。
そんな事を思っていると形南の次の言葉が繰り出された。
「けれどね、私どうしても困っておりまして。だから手段を選ばない事にしたのですのよ」
形南が告げた言葉は、魔法少女が本当に存在する事を知っているかのように魔法協会へ伝えたという事だった。
つまり、魔法少女が実際にいるかどうかは分からない。
だが、いると仮定して、しかしその仮定段階を悟られぬように自分は全てを知っているのだと魔法協会に釜をかけたということだ。
魔法協会は彼女ら二人に一手取られ、そこで初めて形南は魔法少女の存在が確実なものだと認識できたそうだ。
魔法協会の居所は執事の兜悟朗が自力で見つけ出したのだとか。自力でという点が不思議で仕方ないが、その方法は企業秘密のようだ。
そして魔法少女の存在が明らかとなった後は直ぐに誰が魔法少女であるかを調べたらしい。
これには再び驚かされたのだが、どうやら嶺歌の存在は魔法協会に聞いた訳ではなく、これもまた執事の手腕によって自力で見つけ出したようだった。
そこまで話を聞いて嶺歌は魔法協会の対応に少し安堵した。
魔法少女が誰であるかまでは自身で調べてほしいと、予め口を割らない方針でいてくれたみたいだ。
魔法協会にも明かせない境界線というものをきっちりと持っているようだった。
嶺歌はその事に安心し、魔法協会への信頼を戻す。
単純な人間ではあるが、魔法協会にも守るべき情報があるという事が嬉しかったのだ。
それにしても二人共、話を聞くと中々に度胸のある行動力である。
暫くの沈黙を終えてから形南は「他に気になる事柄は御座いませんか?」と尋ねてきた。嶺歌にはもう疑問点はなかった。
流石にいるかも分からない魔法少女を探すために執事に見つけ出させる行為は明らかに常軌を逸しているが、それは単なる感想であり疑問ではない。
嶺歌は首を振って質問がない事を告げると形南はにっこりと可愛らしい笑みを向けて自身の両手を合わせた。
「それは何よりですわ。また気になる事がありましたらお気軽に尋ねてくださいましね」
すると彼女の言葉と共に嶺歌はある事に気がつく。
いつの間にか車は停車し、窓の向こうには己の住んでいるマンションが見えていた。気が付かない内に到着していたようだ。
「こちら、私の連絡先ですの。ご登録いただけると嬉しいですわ」
そう言って形南が手渡してきたのは高級そうなメモ用紙だった。メモの端に金箔が散りばめられている。確実に高価な用紙なのだろう。
嶺歌は無礼を働かないようゆっくりそれを受け取ると途端にガチャリと車のドアが開けられる音が耳に響く。執事の兜悟朗がリムジンの扉を開けたのだ。
「和泉様、どうぞ」
「あ、どうも……」
突如目の前に差し出された彼の手は妙にくすぐったさを感じた。
異性に慣れていない訳ではないが、目上の男性にこの様にエスコートをされた経験はないのだ。
だが断る訳にもいかずおずおずと兜悟朗の手を取るとそのままリムジンから降車した。
すると背後から形南の声が聞こえてくる。
「では嶺歌さん、また伺いますわ」
「それでは私も、失礼致します」
形南が手を振りながらそう言い、兜悟朗が胸元に手を当てながら礼儀正しくお辞儀をする。
それを目の前で呆気に取られながら見ているといつの間にか兜悟朗は運転席へと着席し、リムジンが動き出していた。動きに全く無駄がない。
嶺歌は自身の目の前から立ち去った二人の姿を頭に浮かべながらとりあえず家に戻ろうと真後ろにあるマンションのエントランスへ足を向けるのであった。
第二話『疑問を問う』終
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