5 / 164
第二話①『疑問を問う』
しおりを挟む形南と運命の人の橋渡し役となることに決めた嶺歌は、その後も大人しくどこへ向かうか分からぬリムジンに揺られながら隣に座るお嬢様の形南と会話を続ける。
自分の正体を何故彼女が知っているのか、そろそろ聞くべきタイミングなのではないだろうか。
そう考えた嶺歌は「あの…」と言葉を発し、彼女に目を向けた。
形南は直ぐにこちらに笑みを向けながらどうかされたのですかと言葉を促してくる。
嶺歌はその問いにはいと答えると直ぐに本題の疑問を口にした。
「どうしてあたしが魔法少女って分かったんですか?」
偶々バレてしまったという可能性は絶対に有り得ない事だ。
魔法協会は一般人への口外を一切許していない。露見する事があっても数分以内には対処され、魔法少女の存在が知れ渡る事は一度もなかった。
そのため魔法少女も安心して自身の活動に専念することが出来ているのだ。
勿論、普段から正体をバレぬように注意を払うのも魔法少女の大事な使命であるがどうにもならない時もある。そのための記憶消去なのだ。
嶺歌は、答えに皆目見当もつかぬまま形南の返答を待った。
しかし形南の反応は思っていたよりも軽かった。
彼女は子どものような無邪気な笑みをこちらに向けると「それはですね」と疑問の答えを口に出す。
「お調べさせていただきましたのよ。そうしたら貴女が魔法少女だと分かりましたの」
「いや……それは……」
論点が少しばかりずれている。調べて分かるような簡単な情報ではないのだ。財閥であれどそれは同じだ。
困惑した顔のまま嶺歌はそれを彼女に伝えると形南はくすくすと口元に手を当てながら上品に笑い出す。
下品な笑いというのも見た事はなかったが、彼女の笑い方は今まで見てきた誰よりも品のある笑い方だ。すると形南は再び言葉を口に出した。
「私は高円寺院家の一人娘でございますの。金銭で動かせない情報はないのですよ」
「えっ……?」
驚く嶺歌を横目に形南は言葉を続ける。財閥と言えど魔法協会の機密情報を知り得ることは不可能なはずだ。
それは一度も疑った事のない事柄だった。しかし今、形南はそれを否定している。魔法協会はそんな簡単に口を開く組織であったのか。
疑う事は良くないと思いながらも彼女は現に魔法少女の存在を認知している。
嶺歌は次第に魔法協会への信頼を失いかけていた。だがそれを察したのか否か、形南は再三の声を上げ始めた。
「魔法協会が決して軽挙な訳ではないのですのよ。誤解なきようきちんと説明いたしますわ」
そう言って再びこちらに笑みを向けてくる。
不思議なお嬢様だ。彼女はお嬢様として疑いようのない風格のある雰囲気を放ちながらも、時には子どものような無邪気な様子も見せてくる。
まだ出会ったばかりではあるものの形南は総合的に見て掴み所のない不思議な女の子に感じられた。
形南の話を静かに聞いた。口を挟むのも無礼だと考えた嶺歌はそのまま彼女が話し終えるまでただただ話を聞く事だけに神経を集中させた。
一番の疑問である、魔法少女の存在の認知についてはこのような回答であった。
通常、財閥と言えども魔法協会の重要な機密情報を口外する事は有り得ない事だ。
しかし例外としてそれが特別な財閥であれば話は別であった。
そう、形南はただの財閥ではなく、世界中の誰もが知り得る大きな財閥グループの一つであるご令嬢であったのだ。
その話を聞いて嶺歌も後にその名を明確に思い出す。
テレビやネットでその苗字を聞いた事が少なからずあったからだ。忘れていたというよりはきちんと頭に入っていなかったのだろう。
それは明らかに動揺していたからではあるのだが、何故この瞬間までその有名な苗字を聞き流していたのかと恥ずかしい気持ちになった程である。
つまり大規模な財閥の一人娘である形南が、一般人には触れる事さえ叶わない程の額の金銭を魔法協会に渡したのである。いわゆる賄賂だ。
念の為額を聞いてみるとそれは億どころではないとんでもない額の賄賂であった。
確かにこれほどの額で、それを依頼した人物がとんでもない財閥のお嬢様であれば、魔法協会が口を開くのも頷くしかない。納得だ。
ただし、特別であれども決して第三者に口外しないようにと条約を交わしたらしい。
形南の執事である兜悟朗はその場にいたため例外であるようだが、だからこそ形南は魔法少女の存在を知っており、嶺歌に関しての記憶を失くす事もない。
それは記憶を失わないように魔法協会に特殊な魔法をかけてもらったからという単純な理由であった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる