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第七章 終わりという名の始まり

207 不信 アスside

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アスは上階の様子をうかがっていた。
ノルンの奮闘…いや、時間だろうとわざと見せた隙をついて陛下とジークハルトが上階を抜けたのを確認してアスは、さて…と立ち上がる。
先ほど、意気揚々と下の階に言ったラスティのために、多少はディオスを消耗させたいが、自分の相手はジークハルトになる。

王国最強の騎士であり次期王。
それと、現世界最強の戦士であるディオス。

いくらこの世界の神に近い力も内包しているとはいえ、アスは生まれたばかりで力は二人に及ばない。
それに、とアスは周りを見る。
ここに咲く花をつぶしたくはない。
罠を仕掛けるのもやめた。
直接対決ならば、空間全体に防護魔法を仕掛けているので花は散ることはない。
けれども空間そのものに罠を仕掛けてしまうと防護魔法が使えず花に被害が出てしまう。
ここはせっかくライラックが育てた花畑だ。
ここがいいでしょうというライラックの言葉のままにここで待っていたが、失敗したなとアスは思う。

ジークハルトとディオスにとってはただの花だろう。

だが、地下でしか存在することのできなかった五番目の欠片にとって、この花は何よりの癒しだった。
ラスティの植物好きは、おそらくは五番目の欠片のそうい所を受け継いだのだろう。
今回の生で、薬学にこだわっていたのはその影響もあったと思う。
欠片の人格の一部であったものを疑似人格として幼い頃に宿したラスティに多少影響が出たのだ。

断然不利である。
防護魔法に少しばかり彼らの魔力と体力を吸い上げて花に与えるトラップも併せてみる。
少しは…これで消耗させられるが僅かだなとアスは思う。
普通の冒険者ならば干からびでもおかしくないが、あの二人だと、三分の二くらいは削れるとは思う。
普通ならば三分の二もかなり削れたと思うところなのだが、あの2人だとなとアスはため息をついた。

「力ありすぎなんだよなぁ……」

気配を感じアスは顔を上げる。
入り口にディオスとジークハルトが現れた。
花畑にあっけにとられた顔をしている。
だが、中心の芝生の広間のようなところに立っているアスを見て顔を引き締めた。
アスは、どうしようかと思いながら二人を見る。
ただ、少し二人の疲労を見て意外にも感じていた。

「…?……ノルンか……流石……」

アスは、ディオスとジークハルトの消耗をみてノルンの本気を感じる。
相当、激しい戦いを今もしているらしく、たまに地響きがしている。
現在最強はノルンかもしれないなとアスは思い直した。
そもそも…ノルンが内包している力はこの世界を創造した力だ。
殆ど使えないと思っていたが、流石な長く世界を支えているだけある。
ただ、彼にとってはこの生…ノルンとして生きていることであの魂は一気に変化した。
天の欠片の采配は流石と言うべきだろう。
ノーマに封じられた陽の欠片も変わってくれたらいいのだけれどとアスは思う。

「…アス…その…ラスティは?」

少し自分の考えに囚われていたアスは、ディオスの言葉で現に戻る。
ディオスの表情をみて多少は覚悟が決まったかとアスは頷く。
アスは、ディオスの消耗の状態と表情ですぐに通してもいいかとも一瞬思うが、一応最終確認はしようと口を開く。

「母上…父上に怒られる覚悟はしましたか?」

ディオスは、一瞬目を丸くしたが頷いた。

「ああ…ラスティの結論がどんなものでも受け入れるよ。」

そっちかーいとアスは内心突っ込む。

「残念…ならここは通せません。」

アスは肩をすくめる。

「どういう、返事を期待していたのか聞いてもいいかい?」

ディオスの言葉に、アスは肩をすくめた。
少し楽し気なディオスの表情に、アスはぴくりと肩眉をあげる。
これは、ディオスの言葉遊びかと納得したのだ。
先ほどの言葉は、本心でないとアスは思い直す。
ディオスは、確かに決めている。
半分は、ラスティの結論を受け入れる気だろうが、もう半分は自分の欲望にも目を向けたのだろう。

「分かっているのでしょう?ここで言葉遊びをして休もうと思っているのでしょうが、そうはいきませんよ?」

消耗している分をここでアスと話している時間を引き延ばして回復する算段なのだろう。
そうはさせないとアスは結論をうながす。
ディオスは肩をすくめる。
さっさと、言えというアスの圧にディオスは早々に白旗をあげた。

「結論は、受け入れる…けど、私は諦めない。そう決めた。」

アスは、ならいいかと頷く。
とはいってもディオスには消耗してもらわないとラスティが可哀そうだ。
ここを通るだけでも消耗は多少はするだろうけれどと、アスは頷く。

「なら…父上の所に行きたいならば僕を殺してください。」

負けませんよと手に魔力を集中する。
アスに残されている時間は、そこまでない。
魔力で動いているアスの体は、二人を相手にするには脆弱だ。
そもそも、アスの主はディオスだ。
一応支配権は、放棄しているとはいえディオスに逆らうという事はアスの精神にも負荷がかかる。

死ぬ気で戦わねば足止めなど出来ない。

「…すこし待ってくれ…アス…戦う前に話を聞いてほしい。」

ジークハルトがディオスの前に立つ。
アスは、めんどくさそうに集中した魔力を納める。

「なんですか?」

ジークハルトが、眉を寄せる。

「この空間に俺と陛下の魔力を奪う魔術を仕掛けているな。」

ええと、アスは頷く。

「なら…なぜ…自分で吸収しない。出来るのだろう。そんなに俺の魔力を受け取りたくないという事か。」

アスは、首をかしげる。

「いや…そうではないですけど…ここの花は大切なので…戦闘で散ったら困ります。」

真顔でいうアスに嘘はないなとジークハルトは判断するとディオスを見る。
ディオスは苦笑しつつ、防御魔法を解除した。
アスは眉を寄せる。
だが、覚悟は決めているのだ。

「花は大切ですけど………戦うのをやめませんよ?」

簡単に解除された防御魔法にアスは唇を噛みしめた。
主の権限をディオスは使ったのだ。
ディオスは、分かっているよと頷くと防御魔法をかけなおした。
アスに魔力が注がれるようにしたのだ。
突然自身の中に入り込んだ魔力にアスは、悲鳴を上げて座り込む。

「あ…な……ふぁ…」

ディオスは、慌てて出力を変更する。

「多かったっか…すまない…アス…でもこれで思う存分…未来のパートナーの力を試せるだろう?」

にこにこと笑うディオスにアスは、ラスティをさらったことを、怒ってるなぁと苦笑するのだった。
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