不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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間話 陰の欠片

間話 祈り アスside

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陛下に抱えられながらアス…僕は、ライラックの作った魔法陣を飛ぶ。
そこは光に満ちた、白い部屋だった。
記録の中の彼らしい。

たぶん、僕の大元の記録の兄弟。
兄とか弟とか…姉とか妹とかの概念がないから感覚だけれども…本来は太陽の資質をもつ兄弟。
そう…彼は本当にきちんと育っていたら、兄弟たちの中でも光が一番似合う光の化身になっていただろう。

ただ、ひとつあった欠点が、この世界をめちゃくちゃにした。
孤独を怖がる彼は、唯一のモノになることを恐れた。
星の欠片への依存。
太陽も星の一つ。
そう陽の欠片は、星に依存していた。

僕らの属性は宇宙目線ではなくて、地上なのだよと星が言っても彼は聞かなかった。

人から見る、空で欠片と言う僕らは存在を表していた。
昼の全てを包む天。天の欠片。
夜の人々を導く星。星の欠片。
昼を照らす太陽。陽の欠片。
夜空を照らす月。陰の欠片。

王の欠片は、属性がない。
たぶん、彼は人であり大地なのだと思う。
僕らと一人で対になる者。
だから、見守る欠片ではなく、人側のモノだったのだと思う。
いや、彼の属性は可能性だったのだろう。
可能性を司っていたから属性が定まらない、変化に終わりがないのだと僕は、陰の欠片は思っていた。
陰の欠片は、だから王の欠片を守ろうとした。
助けようとした。
大好きだった。
今も、大好きだ。
だって、自分が守るべき、自分の存在理由である夜に照らすための象徴なのだから。

けれど、欠片と僕は一緒なようで違う。
僕の中で欠片のことは記録だった。

記録。
そう記録。

感情が伴わない記録を僕は思い出す。
変な感じだった。
僕のものなのに。
僕のモノではない。

僕は陰の欠片というものだということは、まぎれもない事実だけれど。
僕は、ラスティの疑似人格でありたいと願ってしまう。
『俺』でいたいと思ってしまう。
僕は結局陰の欠片と言う者というよりは、ラスティの中に居た『俺』でありたいのだ。
僕と言ってしまうのはラスティの真似だ。
俺と言ってしまったら、ラスティの中の疑似人格であった彼に悪い気がする。

同じだけど同じでない感覚がするから。

たぶん、同じものなのだけど、欠片としての記録が僕に違うものだとこだわらせてしまう。
そうこだわっているだけ。
『俺』が愛した王を愛する資格がない自分が、ただ、王を純粋に愛した『俺』の気持ちを嘘にしたくないだけ。

「どうしたんだい?」

陛下が僕を覗き込んだ。
なんでもないと首を横に振る。

やることをやってから考えよう。

水浸しになった部屋の真ん中。
オレンジ色の光を放つ小さな人の形が座っていた。

「…これが…欠片の本体かい?」

陛下の言葉に僕は頷く。
人形のような淡く光る人の形をした光。

それが、僕らのもう一つの形。
たぶん、魂。
この中は今やっぱり空っぽだけど。

僕はそっと淡く光るそれを撫でる。
今ならば、この地下の領域ならば僕の世界だから。

「…どうしてこの子は…ここでこんなにも自分の本体を無防備に晒しているのだろうね」

陛下の疑問に僕は、こたえることができなかった。
無言でじっと彼を撫でる。

彼は…たぶんだけれども、僕が彼を害することは出来ないと思っている。
僕が弱いからと言うのもあるだろうけど。
僕が彼を害するなんて考えてもないから。
無条件で守ってくれると安心しているから。

ほんの少し、いや…かなり心は痛いけど。

僕は祈る。
頭を垂れて。

陽の欠片が天に帰れるようにと。
この状態で返したら…ノーマの中の彼の精神が取り残される事は分かっていても。

この子の魂はきちんと反省したほうがいいと思うから、体だけ天の欠片の所に送るのだ。
彼が…ノーマとして生きることが出来たら、きっと天の欠片が彼を元の欠片に戻すだろう。
それまでは力の殆どは天の欠片のところで眠ってしまえばいい。

…星の欠片のように。
あんなに気が付かないほど力を奪われた状態で彼…星の欠片が近くにいるとは思わなかった。

星の欠片はなんだなんだと言って楽しんでいるけれど。
きっと…陽の欠片の面倒を見てくれるだろう。

なんて、気楽に考えてしまう。
そう考えないと…兄弟にひどい行いをしている自分に押しつぶされそうだった。
肉体と精神が分離したまま遠くに片方だけが封じられる。
たぶん、痛みとかは無いだろうけれど、常に喪失感がついてまわるだろう。

孤独を常に感じる。
自分が半分ないという状態。

ラスティの中に居たから僕は耐えられたことだろうけれど、ノーマはそれにこれから耐えなければならない。

ふと、エスターの顔が浮かんだ。

虫のいい話だと思うけれど…エスターにノーマを幸せにしてもらいたいなと思う。
たぶん…ノーマは今まで以上にエスターに依存するだろう。

「アス…」

陛下は僕の頭を撫でた。
僕は顔を上げる。

そこには…何もなくなった椅子が静かに置かれているだけだった。

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