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第六章 運命の一年間

196 唐突な終わり

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防御魔法でリオンの暴発を防いだ僕は足元に水を感じた。
文字通りの水だ。
何が起こったのだろうと目を開く。
ボロボロになった家具が錯乱する部屋は何故か10cmほど浸水していた。

「何これ??どうなってるの??」

ノーマが焦っている。
神様っぽい欠片でも予想外はあるんだなとぼんやりと思う。
リオンが水の中に倒れている。
気絶しているらしく、水に顔が浸かっている。
あのままだと溺死するとあわてて駆け寄ろうとしたがそれよりはやくマールがリオンに転移の魔石を投げた。

リオンが光の粒子に包まれて姿が消える。
無事転送できたようだ。
今更だが魔石ってチートだなと思う。
繰り返しの生の最初は無かったし、少しずつ機能が進化していたのかもしれない。
もしかしたら、天然の魔石の元は地下にあったからかもしれない。
地下は、繰り返しの世界に巻き込まれていないのだから。
細々と、着実にこの世界を救うために準備をしていたのだろう。
竜は、アスを見て彼が目覚めることだけを願って色々やってたようだ。
その過程で色々な術を身に着けたという。
妖精の彼女もそう。
異形と見られるのは分かっていても、彼女は彼女のまま生きていた。
実の所妖精である彼女は、さなぎに戻り男性におなれるのだという。
完全変態が出来るのだと笑った。
それを繰り返した方が楽に生きられるのを分かっていたが、アスにもう一度会うまでは彼にもらった名の姿で痛かったのだという。
その間に回復と水の魔法は、誰にも負けないくらいに自信があるほど育ったと冗談交じりに笑っていた。

そうやって、彼らは僕らが繰り返している間もまっすぐに生きていた。

地下室にいたら一部の人たちは繰り返しの世界に巻き込まれなかったらしい。
けれど、陽の欠片に、記憶改ざんをさせれ覚えていないという。

ただ、その人たちがかかわった歴史は少し変わる。
その少しずつの変化が、今の勝機を作ったのだろう。

慌ているノーマは、エスターにしがみついている。
助けてと。

「なんで…さっきの水の音はそうだったの??」

やだやだ…とノーマが錯乱したように喚いている。
何が起こったのだろうと思いつつ周りと見る。
蒼い蝶はひらひらとやはり僕らを守るように飛んでいる。

「…上手く行ったみたいですね…」

ノルンが微笑えむ。
ノーマが、彼を睨んだ。

「なにがさ!!」

ノルンは微笑む。

「…僕らは囮ですよ。いえ、囮という事でもないのですけれど。」

そう言ってノルンは、マールに頷く。
マールは、僕を見てどうしますか?と問う。
僕は首を傾げた。

何が起こったか。
何となくわかった。

アスが陛下と合流して、ノーマが僕たちに気を取られている間に、陽の欠片の本体を砕いたのだ。
ノーマは、出入り口が無いと安心していたのだろう。

たぶん、妖精と竜が何とかしたんだろうなと思う。
彼らも大概チートだ。

僕は、剣を手に取る。
そのままマールとノルンと共にノーマの前に立った。
エスターが、ぼんやりとノーマの横で僕を見ろしている。
その瞳は暗くよどんだままだ。

ノーマは、唇を噛みしめて僕を睨む。

「何…結構卑怯なことするんだ。」

ノルンは、そうですねと頷いた。

「陽の欠片の意識は…ノーマとなっているのですよね。ノーマが死ねば…貴方は天に帰れる。いいことではないですか?あなたにとって。」

ノルンの言葉にノーマは、いいわけないとつぶやく。

「貴方が…弱きものと見逃したつもりになっていた妖精が反撃したのですよ。彼女は水の使い手だ。地下水を使って貴方の本体が安置されてる部屋に転移の魔法陣を書いたのですよ。そして…アスと合流した陛下がそこに飛んだ。貴方が放った人形たちはバルハルト様とジェン様が時間を稼いで追いついてきたジークハルトとロイスも参戦して粉々にしているでしょう。」

そういうことですよと、ノルンは微笑む。
どうやら、僕らと離れている間にノルン達で計画を立てていたらしい。
なら、僕が突っ込む必要あったのかと思うけれど。

「は…何…おかしいよ。ジークハルトとロイスが外に出てきたなら僕がわからないはずない。」

ノルンはにっこりと微笑む。

「ジークハルトとロイスは…エスターとラスティ様と同じ存在になった。欠片の番になったものは、他の番に操られることはありません。」

ノーマは、はっとなってノルンを見る。
ノルンは、まっすぐにノーマを見た。

「…罪は償うものです。欠片もそれは変わらない。貴方は命を…世界を弄びすぎた。」

ノーマはがっくりと水の中に膝をついた。

「ここにいるなら…僕は…僕は何をしていたの…君に会いたくて…いや…君だとわからなかったなんて…」

ノルンにそういうと、ノーマは剣を持ったままの僕を見た。

「…いいよ…僕を殺しなよ。そうしたら…この世界は自由になる。陰のやつが引き受けてくれるというなら…僕はもう疲れた。帰りたい。」

僕はノーマから顔を逸らしてノルンを見る。

「ノルンは…ん…まぁいいか…ノルンはノルンだものね。」

ノルンは…まぁノルンだなと納得する。
ノルンに生まれる前の何かを僕が言えるわけがない。
僕は、まぁ…その辺の社会人だったわけだが…今は見た目は美青年だが、中身は…おっさんだからな。

「…で…どうする?」

マールに問われて僕は剣を振り上げる。
ノーマは、ぎゅっと目をつぶった。
が、そのノーマを庇うようにエスターが前にでた。
その瞳に少し光が戻っている。

「あ……」

ノーマは目を見開いてエスターを見た。
エスターは、ぼんやりと僕を見ている。
たぶん操られたままだ。
前に出たのも自分の意志かどうかわからない。

けれども…。

僕は剣を仕舞う。

「裁くのは陛下でしょ。でもノーマ…君はもう何回もやってしまっているし、今回のことは大きい。覚悟はしておっくのだね。」

僕がそういうとマールが、捕縛の魔法を使ってエスターとノーマを一緒にぐるぐる巻きにしてしまう。


「…これで…おわったの?」

僕の言葉にノルンは苦笑する。



「一つが終わってもまた始まるものですよ。」


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