不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

182 王妃と従者は見た

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疲れたというアスを休ませていると、ジークハルトが彼を見ておくというので僕はアスを任せていた。
陛下はなにやら、にやにやと楽しそうにしていたが、バルハルト公とジェン公からの報告を受けて地下の方の準備をすることにしたらしい。

がんばってくるよ~と妙に楽し気に竜のところに行ってしまった。
何か竜の許可をとるという。

僕は…というと大人しくしておくしかなかった。
ある程度の人をここに収容したら、陛下は教会に行くと言っている。
僕は、できればここに居てほしいと言われてけれどついていくつもりだ。
ここには、アスに居てもらおうと思っている。
陽の欠片と言う人は、アスの魂の兄弟だろう。
戦わせるのはかわいそうな気がしている。

教会の地下に居るという陽の欠片を倒したら終わりなのだろうか。
ふと疑問に思う。
そもそもだ。
この世界はどうなっているのか。
陰の欠片だというアスがここに残るというのは彼にとっていいことなのか悪いことなのか。

だって、あれでしょ?壊れかけてる世界で彼らからしたら魅力なんてないのでは?

この世界が独り立ち?するまで見るというアスだが、それが本当にいいことなのか僕にはよくわからない。
嫌だったら逃げればいいではないか。
自分が前世社畜だったので言えた義理ではないが…後輩たちにはよく言っていたものだと思い出す。

そうなんだよなぁ…。

どんなこともメリットとデメリットがある。
自分がいいと思ったことが目の前の相手には悪いことなど良くあることだ。
自分の考えを押し付けるつもりもない。
『俺』だったときならば、もう一人の自分だと思い込んでいた時ならば、自分なのだからと言っていたことも別の人になったアスにいうのはどうかと思ってしまう。

逃げていいんだよ。
君が貧乏くじを引く必要ないのではないかい?

この世界は、本当にアスが頑張って残ってまで魅力があるか。
見たこともない天の欠片と言う人だか神かはしらないけども。
別に、その人に任せていいのだったら任せてしまえばいいのでは?

そんな言葉が浮かぶ。
きっとアスはそんなことないよと笑うだけだ。
余計なことを考えている…言っているだけだという自覚もある。
けど…そういう道もあるのではないかと思う。

「……いうだけ言ってみようかな…」

アスは天に、自分の家に帰れる方法があるのだと陛下は言っていた。
アスと言う人生が終わったら天に帰っていいのだと。
ひどい目にあったこの世界に居たくないのに…アスは優しいから残ろうとしているのでは?

僕はそう思いつつアスの休んでいる場所まで行く。
少しの間で広間の様相は変わっていた。
大きな広間だった竜の居城は陛下の魔法で半分くらいは石壁で区切られた小部屋が並ぶ場所になっていた。

「…いつの間に…」

陛下が準備しよ~っと言っていたのはこれなのか。
呆然とする僕にマールがにこにこと笑いながらやってきて、陛下が作ったのだと説明してくれた。
一応陛下の魔力くらいはわかるので、だろうなと思いながら頷く。

「アスはジークハルト様が抱えて奥にある部屋に連れて行きました。」

マールに言われて僕は頷く。
突然スムーズに話し出したアスは、実は魔力で色々強化していたらしい。
妙に疲れていたのに疑問は持ったのだ。
アスはかなり頑張ったらスムーズに話すこともできるし歩けるが、それは魔力で強化してようやくという状態だろうとマールの後ろから来たノルンに言われた。

別にアスは赤ちゃんと言うわけではなく、基本は僕と育った経験を持っているのだ。
なので本来なら話すことも歩くこともできる。
けど、体が付いていかない。
生まれたばかりの体に馴染んでいないのだ。
生まれたというよりは生まれ変わったばかりと言った方がいいのか。
強化すればいけるが、一時的なこと。
しばらくゆっくり訓練しないとダメだろうという。
無理をすれば寿命を縮めるのではというのがノルンの見解だった。
ノルンが言うには、アスは陛下の魔法で生まれた体を持っている。
つまり、魔法生物なのだ。
魔法生物の特徴としては魔力が無くなったら存在も無くなる。
アスの場合は、回復する機能も陛下が持たせているらしいけども、無理して魔力が無くなれば消えてしまう。

「相性のいい魔力供給できる人が居ればいいのですけど。」

ふぅんと言いながら僕は、アスのいるという小部屋の近くまで行く。
微妙に魔力を感じて立ち止まる。
ジークハルトの魔力だ。
マールと僕が顔を見合わせるとノルンが苦笑した。

「言いましたよ。相性のいい魔力の持ち主から配給してもらえばと。」

僕とマールは首を傾げつつそっと中を覗く。
ジークハルトが地べたに座り込んでいた。
アスが丸くなって眠っている。
アスの寝ているところには、薄いけど上質な布が敷かれている。
たぶん、ジークハルトのモノだろう。
ジークハルトは、眠っているアスの頭を撫でながら眉を寄せていた。
ノルンが人差し指を立てて黙っているようにというしぐさをしてから中に入った。

「ジークハルト様、お疲れでしょう?変わりましょうか?」

ジークハルトは、いいと首を横にふる。

「ふふ…アス様がずいぶん気に入られたのですね。」

ジークハルトは、アスを眺めつつつぶやく。

「俺は…自分が…気が多い方ではないと思っているんだがな。今回の事でも少し…堪えた…」

ノルンは、部屋の隅に置かれている小さな棚の方へ行くとお茶のカップを取り出した。

「ジークハルト様は一途ですよ。ただ、大切なものが少し範囲が大きいだけでしょう。貴方は一族の方を守りたいというだけですから…一族の長である陛下とその奥方であるラスティ様、王家の血を引く方たちを愛している。特にその愛が、長である陛下と、守りがいのあるラスティに注がれていた。今もそう…そして今回その中にアス様が加わったというだけの事です。おかしいことではないでしょう。」

そう話しながら、ノルンはお茶を入れてジークハルトに渡す。
ジークハルトはそうなのだろうかと、アスを見てる。

「俺は…陛下と…ラスティが好きだ…それは変わらない。アスを見た時に…何かざわついた…不快な感じではないのだけれど…妙ににやにやしている陛下の思うつぼにハマっている気もするんだがな…」

ノルンは、ええと頷く。

「ジークハルト様は、陛下にとって愛すべき王子でもありますけれど…怖い好敵手ですから。ラスティ様を奪われるとしたらジークハルトだと陛下は常々言っていることでしょう。でも…アスを見て選択肢が増えたのではないですか?ふふ…無邪気に眠っていますね。」

ノルンがそう言ってアスの頬に触ろうとするとその手をジークハルトはつかんだ。
掴んだジークハルトの方がうろたえている。
そんな気はなかったのだろう。

「あ…その…すまない…」

ノルンは、うふふと微笑む。

「ほら…触ってほしくないのでしょう?それを独占欲っていいません?」

ジークハルトは、違うとも言えず途方に暮れたような顔をしている。
僕のマールは顔を見合わせた。

「これって…陛下の思うつぼ?」

僕とマールは、何故かにやにやする顔を抑えつつ部屋の中を覗いていた。

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