不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

179 暗中模索

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アスはだいぶ慣れたと上半身をぐるぐると動かしている。

「少し…頭ふらふらする?ん…なんだろ???」

言葉もはっきりしてきた。
僕は、補助しつつアスの様子をながめつつ戻って来たという何か考えていたのだがいまいちわからなかった。
アスが言うには元々あった物なので、違和感がないのではないかと言う。
何を思い出したのか、強烈な記憶出ないと元々持っていた記憶に埋没している状態なのではないかと。
アスは、立ち上がろうとしてぺたりとへちゃげた。

「ばりゃんずぅ~」

バランスと言いたいらしい。
しばらく繰り返してから、僕をみて情けなさそうな表情をした。

「バランス崩した…きげん…危険…違う…ん~…ピンチ…」

はぁ…と大きくため息をついてアスは肩を落とす。

「急がないと…あっちにやられちゃう…たいこうできるの…僕なの…」

僕が首をかしげると、アスは俯いてしばらく眉を寄せてぶつぶつとつぶやいてから僕の方を再度むく。
どうやら、文章を練習してから話そうとしているらしいが、僕としてはたどたどしい言葉で顔を真っ赤にして一生懸命話しているアスも可愛いので別に練習しなくていいのにと思ってしまう。

「陽の欠片と対抗できるのは、陰の欠片の僕しかいないの。王は他の子の相手で大変だし、ラスも守らないとだし、忙しいでしょ?なのに僕がこんなの…大変でしょ…」

甘い琥珀色の瞳が潤む。
どうも感情制御も上手くできないらしくしゃくりあげて、アスは泣きだしてしまった。
僕は、頭を撫でつつ困ってしまう。
アスの言っていることは正しいと思う。

エスターとノーマは教会に行ったままだ。
ウェルタはトリスティが連れてどこかに行ったと報告が上がっていた。
学園でも生徒や教師が幾人か消えたらしい。
彼らは暴動の方に名が挙がっていないので、おそらく教会にいったのだろう。

「陽の欠片は強い?」

アスは頷く。

「欠片は、ルールが無いと倒せない。この世界は陽のルールで動いてる。僕と王の欠片が聖者に倒されたのはそういうルールを陽が作ったから。陽と戦えるのは…同じものしかない。」

だから、僕が戦わないととアスは悲し気に目を伏せた。

「僕が復活したのが、きっけけになった。人と言うのはね…にく…肉体と…魂…人格の両方があるの。『俺』は僕の人格の器だった。『俺』は、器の『俺』とアスが一緒だったから、もーひとりのラスだったの。わかれちゃったからもー一人のラスではなくなった。それが、陽の欠片の作ったルールのラスがいなくなったというキーワードを埋めたの。もともとリオンは冒険をしている記録があるから…今回のあとのキーワードは…陛下とリオンが戦うくらいしか残ってない。」

陛下とリオンが戦ったらそれでこの世界の崩壊のキーワードが揃ってしまうとアスは言う。
僕は、なるほどと思いながら、そうだろうかと思う。

何故なら、僕が死んだ…消えたというのは苦しい言い訳だろう。
僕は生きているのだから。
第二王子であるエスターも生きている。

つまり、キーワードが埋まっているようで埋まっていない。
一見埋まったように見せかけているが、そこをつくことはできないだろうか。

「…ねぇ…アスは…天の欠片さんとは連絡方法は無いの?」

アスが首をかしげる。

「そのルールを陽の欠片のわからないうちに書き換えることのできるのって…天の欠片さんだけなのでは?」

アスは、首を横に振った。

「出来ない…でも…そう…ルール無用の場所ある。地下は僕の世界。僕がルール。」

僕は、眉を寄せる。
陽の欠片もそれは分かってるだろう。
だが…とアスは何か考えていた。

「アス?」

しばらくアスは考えていたが、僕を見てため息をつく。

「陽は…僕が出来ないと思っている…だから…油断している…そもそも…そう言うところがある。だから…王に僕らは子供と言われてた。」

ノックの音がして陛下が多少疲れた顔で入って来た。

「は~癒し…ではなかった…ジークとロイスと師匠は地下で竜に任せてきたけど…あれで何とかなるのかな?」

アスは、少し考えてから頷く。

「地下は僕のルール。陽のルールから外せる。でも地上に戻ったら縛られる。暴れる人は地下に送ると良い。僕の骸がいたところは広いから、あそこにケガした人も送って良い。僕の眷属をあの空間に行かせた。転移魔法は竜に教えてもらった?」

陛下は、アスを見て頷いたが、座り込んでいるアスに首を傾げた。
床にへたり込んでいるアスを軽々と持ち上げると顔を覗きこむ。

「ところで、なんで床に座っているの?」

アスは顔を赤くした。
見た目が美青年なアスだが、言動が幼いから可愛いのだよなぁと僕は陛下と言う美形とアスと言う美形の戯れに眼福と思いながら眺める。
ふと、妹のやってたゲームのスチルが結構綺麗で好きだった自分を思い出す。
戻って来た記憶なのか…僕は、今まで思っていた以上にあのゲームが好きだったんだなと思う。

今までだったら、いくら美形同士でも眼福などとはお思っていなかったと思う…。
思っていなかったよな…。

だんだん自信がなくなってきたが、たぶんこういうところが戻って来た記憶の影響なのだろう。
いや…陛下は普通にかっこいいし見てて楽しかったから、今まで通りか?

僕の葛藤など知らない二人は、イチャイチャしている。
いや…違う。
イチャイチャしてないはずだ。
僕の目どうした。

「…まだ立てない…」

陛下が僕を見たので僕が頷いた。

「ん~俺が支えるから歩く練習しようか。」

妙に嬉しそうな陛下に僕は、ため息をつきつつそれがいいねとアスを促す。
アスは情けない顔をしながら陛下に支えられてまずは立つという事をさせられている。

「まぁ…体の機能としては問題ないし…もともとはラスティの体で動けていたんだから感覚をつかんだらすぐに動けるようになるだろうけど…うふふ~可愛いなぁ~」

陛下はものすごく楽しそうだがアスはものすごく泣きそうだ。
だが、アスは、よちよち歩く練習をしつつ何か思いついたらしい。
そうだと、にこりと陛下に笑った。




「あのね…あのね…陛下…地下でラスボスしてくれないですか?」



いや…陛下もともとラスボスだし。


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