不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

文字の大きさ
上 下
196 / 233
第六章 運命の一年間

178 ことばあそび

しおりを挟む
僕はアスが寝ている客室に押し込まれていた。
アスの傍が安心だろうということなのだけれども。

さっきちょっと眠くなって変な夢を見た気がする。
アスとは違う、僕そのものの子が帰って来た夢だ。
なんだかその夢を見てから頭がはっきりしたようにおもう。

じっと見つめているとアスが目を覚ました。

「おはよう…と言っても、もう夕方だけど…どうだい大丈夫かい?」

アスはぼぅっと僕を見つめてから頷く。

「ん…らすちーは?」

うん…なんでしょう。このカワイイ生き物。
アスは、少し考えて口を開く。

「ん~らすちー…ん??らしてぃー…ん~ん~」

まだ体が馴染んでいないらしい。
手を緩慢に上げると握ったり閉じたりを繰り返して、何度か瞬きをする。
体の動きを確かめているようだ。
とろんとした甘い琥珀色の瞳が僕を見る。

「ん~ラスティ…うん…ラスティ―…ラスチー……ん~」

不服そうに頬をアスは膨らませる。
繰り返している時に何度かは、ちゃんと言えるのだが、成功したら油断するのかティがチーになったりするようだ。
むぅと頬を膨らまし、また僕の名を繰り返す。
く…あざといなこのカワイイ生き物。

「ラスでもいいよ?」

このままだとずっと僕の名前を言っていそうだ。
僕は、ティは言わなくていいよと提案してみる。
アスは、不服そうに頬を膨らませていたが頷く。

「ラス…おあよ…おはよ…」

うんうんと僕は、頷き顔がにやけながら彼が上半身を起こすのを手伝う。
先ほど目を覚ました時より背筋も伸びている。
体にだいぶ馴染んだのだろう。

「なれる…ちょ…ち…まて……」

たぶん、慣れるまで待てと言っているのだろう。
僕は頷き、彼の様子を見る。
緩慢な動きで手を少しずつ動かして、口ももごもごさせてる。

「ん…だいぶ…なれた……らす…ぶじ?」

僕は、首を傾げつつ頷く。

「何ともないよ?」

彼はじっと僕を見て少しがっかりしたように肩を落とした。
なにか楽しみにしていたようだ。

「きろく…もどった。もどらなかった?」

ちょっと意味が分からなかった。
きろくきろくとアスは言う。
記録ってなんだ?
僕は首をかしげる。

「ん…あおいちょうちょ…きおく…」

僕は首をかしげる。
あおいちょうちょ…とそこで何故か妙に色っぽい陛下にチューされている自分を思い出す。

「う…?????ううううーーーーーー!!!!」

それをきっかけになにやら、ちょっとっまってぇという記憶が流れ込んでくる。
陛下といちゃいちゃしている記憶だ。

これって以前じゃなくて今回っぽくない?そこまですごいことはしていない…けども、僕こんな記憶持ってないよ!!

ちょっとした戯れ程度のそれだが、僕には刺激が強かった。

いや、そんなこの程度…ちょっとちゅーしたり撫でられたり程度でこんなことになってたら僕どうしたらいいの?
何これ??
僕、色々ダメだ!!
『俺』が微妙な顔して引き受けてた記憶ってこんなのばっかりなの!!

顔を赤くしてベットに顔をうずめて何とか処理しようとする。

なになになに???コレコレコレぇ~。
え?僕なんでこんなにこの手の記憶に弱いわけ???
オカシイってナイナイ!!!こんなの全然平気でしょ!!
ゲームの記憶の方がひどいでしょ!!!
いい年でこんなチュー一つでキュンキュンしてるのおかしいって!!!

くすくすと笑う気配がするので顔を上げると綺麗な琥珀色の瞳が三日月になっている。

「しげきてき?」

アスがにやにやと笑っている。
僕は君にそんな顔を教えていませんよ!!アスちゃん!!

「もうひとりの…ラス…のきおく…もどった?」

アスの言葉に僕は動きを止める。
そうだ…陛下とのイチャイチャだけではない。
大事な記憶が、もっとある。

「ラスもどった?だめ?ごめ…ね?」

心配そうなアスの表情に慌てる。
たぶん、アスは自分の中あった『俺』の記憶を僕に返してくれたのだろう。
失敗したと思っているかもしれない。

「アスは、ラス…違う。『俺』…は、ラスなの。王はラスがすきなの。アス、違うの。」

ちょっとよくわからないけども…たぶんアスは、自分の記憶ではないと『俺』の記憶を返してくれたのだろう。
人格としての彼は感じないけども、たぶん、『俺』の記憶は僕の中に帰って来たのだと思う。
アスは、『俺』ではなくて『俺』の中で育った魂だから、ちがうものだと言っているのだと思う。
『俺』は元々人格は持たないとリオンは言っていたから、核にアスがいたからはっきりとした人格になっていたのかもしれないし…実はアスが器と核を区別したいから違うと言っているだけなのかもしれない。
僕としては、アスに『俺』を感じているから何とも言えないのだけれど。

「アスは、アスだね。」

アスが何か僕は正直分からないけども、アスはアスでいいのだと思う。
あとは、アスはたぶん陛下がそういうことで愛しているのは僕でアスではないと言いたいのだろう。
律儀な子だ。
僕としては、陛下が僕よりアスを選んでも、例えばどっちかが側室になっても平気ではないけど諦めはつく。
いや…たぶん、うじうじはするけど…陛下の幸せのためなら我慢する。
アスは、困った顔をしていたが首をかしげた。

「アスもおなじ、うけとったから。こんらんする。あんしんする。」

アスの言葉に僕は目を丸くした。

「え?この…陛下のセクハラ記憶をアスも持っているということかい?」

アスは目を丸くしてため息をつく。

「…そっちちがう…ませきのきおく…まえのきおく…ちょっとだけど…」

僕は、顔を引き締める。

「…あいのきおく、せくはらちがうでしょ?」

てれかくし?とアスは首を傾げた。

「アス~!!!!」

アスは、ぷうと頬をふくらました。

「ちゃんとかえした、そうおもったから」

真面目な顔でアスはいう。

「ラスのひとみ…てんのひとみ…あれのつみをきちんとみる。ラスのひとみは…てんのひとみ…ひとのあいをきちんとみる…てんはきっとあんしんする…おうはあいをみつけたと…つらいばかりでなかったと。」

にっこりとアスは笑った。

「…はぁ…やっぱりアスは神様なんだね。」

アスは少し考えて首を横に振った。
かみさまちがう、と。

「アスは…ラスとおうのこどもがいい。」

うぐっと僕の喉は変な音を出す。

「ずるい…」

やっぱりアスは、ずるくてかわいい…僕の大事な息子だと思うことにした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...