不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

177 アスの中の『俺』 アスside

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眠りの中でアスは探し物をしていた。
元々はラスティの中にあった魂だ。
アスの魂の器になった、『俺』を探している。

一度目覚めた時に、陽の欠片の罠が発動していた。
あれは、ラスティが消えたと世界が判断した所為だろう。
だが、ラスティは存在している。
その矛盾が生まれた時に、聖者の縁があるものを操れるように、その異常を正すために動くように仕掛けていたということだろう。
推測が多大に入っているがとアスは眉を寄せる。

陰の欠片と呼ばれるものの知識が流れ込んでアスは現在自分と言う存在が制御できない状態だ。
少しずつ制御を取り戻しているが、元々持っていない肉体の扱いが良くわからない。
ラスティの中にいた時の感覚を取り戻そうとしているがうまく行かない。

おそらくは、今のアスは『俺』と呼ばれていた時の器が欠けている所為だろうと思っていた。

ラスティの中にいる人格…いや…魂はやはり三人いるのだ。
いや…三人というのはオカシイ。

アスと陰陽のラスティがいるのだ。

ラスティという魂は、彼は、稀人の魂だ。
天の欠片の目として送り込まれた存在。
天の欠片の目だ。
星の欠片の目ではない。
偽造されているので、陽の欠片は気が付いていないだろうがと、アスは思う。

「御伽噺や教会の話を適当に聞き流しているところが、陽の欠片の致命的な抜けなんだよなぁ。」

天の欠片は抜け目がない。
星の欠片と陽の欠片は、それ相当の罰を受けるだろう。
もう星の欠片は罰を受けている。
力を奪われ、この世界で奉仕している。

ラスティの傍で彼を守るために動いている。

天の欠片がよくやるお仕置きだ。
アスは、天の欠片のお仕置きを思い出してため息をついた。
星の欠片は力もないし記憶もない。
陽の欠片は気が付けないだろう。
自分のやったことを自分の目で見てこいと言う天の欠片の怒りを感じる。

「まぁ…きちんとしたパートナーを見つけそうだし…いいかな…?」

星の欠片のことは今回は関係ないけど、今後ラスティの支えにはなるだろう。
だから、しっかり見ておかないとなとアスは思いながら、自分の中で眠っているもう一人のラスティの気配を探す。
今はラスティの器は陽のラスティだけになっている。
アスの器に陰のラスティが移動している。

皆、アスと『俺』が同じように思っているが実は違う。
まぁ、自分もそう思っていた。
魔石に残っていた記録を受け取るまで。
陰の欠片としての記録。
それを受け取って処理ができていないけれど。
魔石を元に作られた体は、こかなり人に寄っている。
それはこの世界で暮らすには良いが、魔石に残っていた記録を受け止めるには弱いものだった。
この体を失って天に帰るときに、天の欠片にきちんと報告で来るように必要分を残して魂の奥に封じる。
その作業を行っている所為もあって、体の自由が利かない。
アスは、『俺』の器に守られていただけだ。
陰のラスティが作り出した、器に包まれて同じように経験して二人で『俺』になっていただけだ。

『俺』は今も居る。
と言うよりは、アスの体の主導権は『俺』にある。
『俺』が眠っているからアスの体も起きない。
アスに馴染まない。

「王も『俺』がもういないと思っているんだろうな…」

ディオスが、アスと『俺』への態度が違うのはその所為だ。
未だにラスティの調子が出ていないのも『俺』が欠けてしまっているからだ。
そう、今はラスティが欠けてしまっている。
ラスティが思い出せない稀人の記憶も、ディオスとの睦言を記憶しているのも『俺』だ。
アスと言う人格が生まれたので、『俺』の人工の器は役目を終えて消えたとディオスは思っている。

「王も複雑だろうけどね…『俺』はもう一人のラスティだ。僕の器ではあるから僕と同一ではあるけど…僕にアスと名をつけたことで僕は『俺』でなくなった。でも…『俺』はやっぱりもう一人のラスティで…どうあってもラスティなんだから…もとに戻さないとラスティが欠けたままで…王のパートナーとして掛けたままになってしまう。」

陛下の愛を受けたもう一人のラスティはやく返さないと、とアスは彼を探す。
アスとしても複雑だった。
『俺』はアス自身でもある。
けれども一体化していたラスティの陰の魂でもある。
相性がいいので陰の欠片である自分と名前を貰うまで融合していた。
同じだけれど、別の個体。
でも同じ。
アス自身もディオスを思う気持ちはあるがそれは親愛に変化はしている。
だが、彼を思うと切なくなる。
はやく、アスと言う個体になりたいとアスは、切なく痛む感情を飲み込む。

「はぁ…ラスティは過保護だよなぁ…」

『俺』はアスを守るためにアスに『俺』は、ついてきたのだろうが、それは無茶なことだ。
疲弊して起きれなくなっている。

アスがしっかりと定着すれば消えていいと思っているのだろう。
その手伝いが自分の仕事だと思っているのだろうが、そうはいかない。
たぶん、自分は人造の人格だからと思っているのだろうけれど、アスは消滅など許す気はなかった。

アスは結構イライラしていた。
確かにアスは、ラスティの育てた魂だ。

性質はラスティだろう。
ラスティに近いだろう。

だが、ラスティが育てたためにある人物にも似てしまっている。
アスにも自覚があった。

この人物に似るのは危険だと。

彼らが理想としている人物だから、彼らの記憶の中の彼女に寄ってしまった。
自覚はあった。
アスと名前が中途半端になってしまったのが拍車をかけた。

どちらかきちんと選ばれていたら、混ざることなくどちらかの性質になっていただろう。

だが、アスは混ざった。
ラスティの前世の彼に…いや…彼らが。

元々は似た魂の兄妹。
ただ、兄は妹を育てるために過保護に育てた。

『俺』は無意識にアスの魂を過保護に守っていた。
いるのかいないのかも分かっていないくせに。
彼は、無意識にアスの魂を過保護に守っていたのだ。

その過保護感が若干アスを、彼らの記憶の中の妹に寄せた。

多少歪んだ彼女は意地っ張りだが、優しく強く明るく前に進む魂となった。
やさしく、強く、そして暴走気味の彼の妹を、アスはその彼女を見本にしてしまったのだ。

「ラスティには、しっかり思い出してもらって陛下とラブコメしてもらうんだからな!!!」

アスは、『俺』の魂を見つけた。
がっちりと彼の魂を見つけるとにやりと笑う。

「戻る時だよ、ラスティ…まぁ羞恥にのたうち回るだろうけど…」

アスは、ふと真顔になる。

「可愛いだろうなとか…思ってるけど、思ってないよ。」

にこにこといい顔としながらアスは、『俺』をラスティの元に転移させる。
そして、少しだけ涙を流した。
寂しくて。

「これで…ラスティとの関係はなくなっちゃうんだけどね…性格も…もとに戻るわけだから…王やラスティの僕への見方が変わっちゃうかな…」

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