不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

174 騎士王子奪還

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相性がいいのは分かっていたことだが、こんなことができるとは聞いていない。
僕は、座り込んでいたはずのアスが駆けだした後ろ姿を見つめてそう思う。
逆に僕が、ふにゃふにゃになった。
力は入らないし、あーとかうーとかしか声が出ない。

『主!!その手がありましたか!!外道ですな!!』

子竜の呆れたほうな感心したような声が耳に入る。
ノルンとマールが僕を支える。

「どうしたんですか!!」

混乱したノルンの言葉に僕は応えれない。

「ごめん!!ラスティの体を動かす能力を一時的に借りた。支えてあげて3分だけだから!!」

アスの言葉に、僕はなる程と思うがこれは困る。
早々にアスを鍛えるしかないが、こんなにふにゃふにゃだとどうやって鍛えればいいのだろう。
アスは、ジークの額に手を置いた。

「かなりきついと思うけど!!きっかけしか与えれないけど!!あとは自分たちで頑張るんだ!!!」

強烈な蒼い光がジークハルトの額から彼の中に流し込まれる。
ロイスの方にもその光は入っているようだ。
彼らの苦しむ声が響いた。

「あ…うあぁぁ…!!!!」

アスは、後ろに飛ぶように二人から離れて子竜の後ろに戻ってくる。
そしてそこでまたへにゃりと倒れた。
僕の体が自由になる。

「おえーん」

アスは申し訳ないという風に僕を見る。
僕は、首を横に振った。
たぶん、ごめーんと言っているのだろう。
生まれたばかりの体の制御が出来ないのだろうが何で僕が動けなくなったらアスの動けるのか…謎だ。
こういうのって貸し借りできるの?
僕の疑問はつきない。

とにもかくにも、どうしてこうなっているんだろう。
少し離れたところで、ジークハルトとロイスが苦しんでいる。

蒼い光がジークハルトにまとわりついている炎を押し返している。
だが、ロイスの方は拮抗していた。

どうしたらいい?
ノルンもマールも手を出すこともできずアスを支えている。
多分状態が分かっているのはアスだろうけどアスは、話せない。
さっきみたいに頭の中で会話できないかと思うけど、できるのならアスはやっているだろう。
本当に、偶然できただけということなのだ。

子竜は目を細める。
僕の困惑を読み取って、説明をし始めてくれた。

『元々…騎士王子は王の番とのほうの縁が深い…聖者と縁は表面だけの薄い関係だったようだな。騎士の方も薄いのだろうがそれでも一つの生では聖者の虜となっていた。そのため…あの炎を消すことは出来ぬようだ…だが…他のモノよりは薄まるはず…今は完全には取り戻せないが…王と合流してからならば、手はあるかもしれぬ。』

アスは、あーと言いながら二人に手を伸ばしている。
なんとか救おうと試行錯誤しているのだろう。
ふと、アスは僕たちを見た。

『主は応援してくれと言っている。』

僕は首を傾げた。

『今、彼らが何を大切にしているかを思い出すきっかけになるかもしれないから…と。』

よくわからないのが、とにかく僕らが傍にいるのだという事を分かってもらえたらいいらしい。

「ジーク!!ロイス!!負けるなーー!!!」

僕は声を張り上げた。
ジークハルトが、頷きロイスはわずかに反応をした。

「お二人とも陛下が来るまで頑張って!!!」

マールの声にジークハルトは頷くがロイスは反応がない。

「ロイス!!しっかりしなさい!!」

ノルンの声に、ロイスが顔を上げる。
一瞬ロイスの目に光が戻ったように思うのは、見間違いではないだろう。
ロイスは、ジークハルトを突き飛ばして、自分は窓から飛び出そうとした。
子竜がロイスの背に、衝撃波を吐く。
ロイスは背に子竜の攻撃を受けて窓の外に落ちる。

「ロイス!!!」

ノルンが悲鳴のように彼の名を呼び窓に駆け寄る。
僕はとっさにジークハルトの傍に駆け寄った。
ジークハルトは気絶しているようだ。
ノルンが窓から外の様子を確認している。

「…ロイス…」

僕も窓から外を覗くと少し先に言った庭でロイスは倒れていた。
生きてはいるようだけれど、ロイスの周りに血が見える。
ケガはしているようだ。

「僕が様子を見てきます!!」

マールはあわてて廊下に出ていく。
ノルンは、呆然と窓からロイスを見つめたままだ。

『従者め…一人で言ったら危なかろうに!!』

子竜が慌ててマールを追って外に出た。
僕は、一人座っているアスの所に戻る。
アスが、僕の服の袖を引っ張った。
僕はアスを抱えて気絶しているジークハルトの横に移動するとアスと一緒に座った。
アスは、ジークハルトをつついて意識を確信してから僕を見た。

「ん~」

頷いているから大丈夫という事だろう。
僕が首をかしげるとアスは僕の手を取って、自分の腰に僕の手を触らせる。
支えろという事だろうかと僕が彼を支えると満足そうにうなずいた。
アスはジークハルトの胸に手を置いてゆっくりと目を閉じた。
ふわりと蒼い光がジークハルトを包む。

「アス…治療してくれているの?」

ジークハルトの険しい顔が、安心したような表情へと変わっていく。
ノルンが、窓からマールの名前を呼んでいる。
窓の外から、少しケガをしているが気絶しているだけだという声が聞こえた。

怒涛のように起こったことに頭が付いていっていない。
ディーを送ったのに来ない陛下も気になる。


「…何が…起こっているのだろう…」

僕の言葉にアスが僕を見る。

「あー~」

大丈夫…そう言っているようだった。

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