180 / 233
第六章 運命の一年間
162 疑問 ディオスside
しおりを挟む
ディオスは、アスのための魔術の構成を練るためにもう少し何かが足りないと竜を見つめる。
時間は…まだあるなとディオスは魔石を見て眉を寄せる。
ー時間はあるが…なぜ…竜はアスを危険に晒している?ー
竜は、アスを主と大切にしている。
別にラスティに入れたままでもディオスを今の状況まで持ってこれただろう。
アスをラスティから抜く必要はないとディオスは思う。
竜は、ディオスの考えを読んだのか、ラスティを見ると目を細めた。
「なぁ…竜…お前はラスティのために…アスを抜いたのか?」
竜は、少し考えてから主のためだとつぶやいた。
「…アスのためにはラスティは必要という事か?」
竜は頷く。
「王の番は、主と縁がある…我とも縁がある魂だ。本人は覚えてはいない。だが…その縁故に主は王の番がいなくなれば嘆く。我もそれは避けたい。主の骸が近くあるために主の存在が王の番の負荷が大きくなっていた。王の番と主では、今は主のほうが強い…王に断られても…天にかえることは主にとっては故郷に帰るという事だ。王の番を救う方が重要であろう。」
竜は、しゅんぼりとうなだれた。
「王が失敗しても主は故郷に帰るだけだ…気にするな…」
ディオスは、青筋を額に浮かべた。
失敗しないように聞いているのだが!!と思いながら竜を睨む。
竜はディオスを見て首を傾げた。
「難しいな…気を利かしたつもりだったのだが…」
バルハルト、竜にそれは煽ったというのだと教えている。
ディオスは、質問を考えるがどうもうまく形にならない。
竜に信用されていないのも多少イラついたが、それだけではない。
何か足りないのだ。
アスの本質が神の欠片と言う人の手に負えないものだということになる。
同じく神の欠片の魂を持つというディオスに竜が頼ってきたのはそういうことだろう。
ならば、神の欠片と言うものの力が必要なのだろうか。
ディオスはそう思い竜に問う。
「王の欠片が、転生したものが私だというなら私になにか欠片と言う奴の能力があるのか?」
竜は、ディオスを見ると首を横に振る。
「王の欠片は…名が無かったことが災いした。名で魂が縛られていなかった王の欠片は、欠片としての機能を失ったのだ。王の欠片は、欠片としての最後の力を振り絞って人に転生できるように己の運命を変化させた。己の魂にある試練を埋め込んでな。王族という一族は、王の欠片の最初の転生は記録をわずかに持っていた。試練のための土壌つくりとして、王の一族を作り上げたのだろう。試練を超えれば、王の魂は天の欠片の元に戻る。そうなれば天の欠片が、王の魂を欠片に戻すか、どうかを決めるであろう。」
ディオスが首をかしげる。
「なんだ?その試練とは。」
竜は首をかしげる。
「やはり、自分のことだろうにわからぬものなのだな…まぁ王の欠片の魂を持つと言っても、王は人の子、生まれ変われば記憶は白紙になり思い出したとしても、少し前の生の記録が見える程度になるのだったな。欠片の時は思い出せまい。ならば運命か、主の導きか…王の試練は…いや…決意と言うべきか…陰の欠片を開放すること。とは言っても陰の欠片そのものはもう戻らぬ。生まれ変わらせることというべきか?」
竜は、悲し気にうなだれた。
「主は元のままには戻らぬ…我も愚かよ…分かっておっても…主と主にあった時の姿を保存している。我の望みは…番を救わんとする王より愚かなもの。今、主が天に帰れば天の欠片があの愚かな陽の欠片を砕いてすべてを天の欠片が平らにして終わるであろう…骸に蓄積された記憶を持って天に帰れるからな…。だが…我は己の望みのために王に託す。王よ…主を…天に返すか地にとどめるか…王が決めよ。」
竜は、まっすぐにディオスを見つめる。
ディオスは、魔石の方に目を向けて悲し気に眉を寄せた。
傍にいてほしい。
そう考えるのは、感じるのは自分の中にいるという三番目の子ども…王の欠片の感情なのだろうか。
あの子を愛しいと感じているのは、自分の感情ではないのだろうか。
「…神のなんちゃらの感情に振り回されているだけなのか?」
ディオスは、魔石を眺める。
足りないのは…これなのかとディオスは思う。
自分の感情が揺れているからだと。
失ったと泣いている感情が自分の心を蝕んでいる。
ー弟が死んだときの虚無が…思い出されているからか…ー
こんな寂しい場所で、アスの元だという陰の欠片は一度聖者リオンに殺されたのだと何かが泣いている。
馴染んだ感覚だった。
「…弟が…そうだ…弟は…今回…」
記録を探る。
繰り返しの生で、ディオスに弟と呼ばれる存在はいたが、あの子ではなかったと思う。
弟の記憶が、ディオスの頭の中で笑う。
ー兄さま…また…俺だって強いのです。兄さまに会いに帰ってきますから…そんな顔しないでください。ー
これは、どちらの記録だとディオスは思う。
兄弟で言うならば、兄たちも国から送り出した。
今も兄たちが行った国は戦いに明け暮れている。
それにはディオスは何も感情が浮かばない。
弟だったから。
守らないとならないと思っていたから。
弟は特別だったから。
「足りないのは…俺の覚悟か……」
そうかもなと竜は短くなったしっぽを軽く振った。
「足りぬものはないだろう。だが…我には王が足踏みしているように感じる。王は…弟を失うのが怖いのだろう。」
竜の言葉に嘘は感じない。
ディオスはどこかで納得し、悲しんでいた。
守れなかったのだという後悔を深いところで感じている。
自分と同じで同じではない心が泣いているのを感じる。
馴染んだ感覚だった。
そして、もういいだろうと囁く声を。
自由にしてやってくれという嘆きを感じる。
「……天に返すのが…あの子の幸せなのかもしれないな…」
時間は…まだあるなとディオスは魔石を見て眉を寄せる。
ー時間はあるが…なぜ…竜はアスを危険に晒している?ー
竜は、アスを主と大切にしている。
別にラスティに入れたままでもディオスを今の状況まで持ってこれただろう。
アスをラスティから抜く必要はないとディオスは思う。
竜は、ディオスの考えを読んだのか、ラスティを見ると目を細めた。
「なぁ…竜…お前はラスティのために…アスを抜いたのか?」
竜は、少し考えてから主のためだとつぶやいた。
「…アスのためにはラスティは必要という事か?」
竜は頷く。
「王の番は、主と縁がある…我とも縁がある魂だ。本人は覚えてはいない。だが…その縁故に主は王の番がいなくなれば嘆く。我もそれは避けたい。主の骸が近くあるために主の存在が王の番の負荷が大きくなっていた。王の番と主では、今は主のほうが強い…王に断られても…天にかえることは主にとっては故郷に帰るという事だ。王の番を救う方が重要であろう。」
竜は、しゅんぼりとうなだれた。
「王が失敗しても主は故郷に帰るだけだ…気にするな…」
ディオスは、青筋を額に浮かべた。
失敗しないように聞いているのだが!!と思いながら竜を睨む。
竜はディオスを見て首を傾げた。
「難しいな…気を利かしたつもりだったのだが…」
バルハルト、竜にそれは煽ったというのだと教えている。
ディオスは、質問を考えるがどうもうまく形にならない。
竜に信用されていないのも多少イラついたが、それだけではない。
何か足りないのだ。
アスの本質が神の欠片と言う人の手に負えないものだということになる。
同じく神の欠片の魂を持つというディオスに竜が頼ってきたのはそういうことだろう。
ならば、神の欠片と言うものの力が必要なのだろうか。
ディオスはそう思い竜に問う。
「王の欠片が、転生したものが私だというなら私になにか欠片と言う奴の能力があるのか?」
竜は、ディオスを見ると首を横に振る。
「王の欠片は…名が無かったことが災いした。名で魂が縛られていなかった王の欠片は、欠片としての機能を失ったのだ。王の欠片は、欠片としての最後の力を振り絞って人に転生できるように己の運命を変化させた。己の魂にある試練を埋め込んでな。王族という一族は、王の欠片の最初の転生は記録をわずかに持っていた。試練のための土壌つくりとして、王の一族を作り上げたのだろう。試練を超えれば、王の魂は天の欠片の元に戻る。そうなれば天の欠片が、王の魂を欠片に戻すか、どうかを決めるであろう。」
ディオスが首をかしげる。
「なんだ?その試練とは。」
竜は首をかしげる。
「やはり、自分のことだろうにわからぬものなのだな…まぁ王の欠片の魂を持つと言っても、王は人の子、生まれ変われば記憶は白紙になり思い出したとしても、少し前の生の記録が見える程度になるのだったな。欠片の時は思い出せまい。ならば運命か、主の導きか…王の試練は…いや…決意と言うべきか…陰の欠片を開放すること。とは言っても陰の欠片そのものはもう戻らぬ。生まれ変わらせることというべきか?」
竜は、悲し気にうなだれた。
「主は元のままには戻らぬ…我も愚かよ…分かっておっても…主と主にあった時の姿を保存している。我の望みは…番を救わんとする王より愚かなもの。今、主が天に帰れば天の欠片があの愚かな陽の欠片を砕いてすべてを天の欠片が平らにして終わるであろう…骸に蓄積された記憶を持って天に帰れるからな…。だが…我は己の望みのために王に託す。王よ…主を…天に返すか地にとどめるか…王が決めよ。」
竜は、まっすぐにディオスを見つめる。
ディオスは、魔石の方に目を向けて悲し気に眉を寄せた。
傍にいてほしい。
そう考えるのは、感じるのは自分の中にいるという三番目の子ども…王の欠片の感情なのだろうか。
あの子を愛しいと感じているのは、自分の感情ではないのだろうか。
「…神のなんちゃらの感情に振り回されているだけなのか?」
ディオスは、魔石を眺める。
足りないのは…これなのかとディオスは思う。
自分の感情が揺れているからだと。
失ったと泣いている感情が自分の心を蝕んでいる。
ー弟が死んだときの虚無が…思い出されているからか…ー
こんな寂しい場所で、アスの元だという陰の欠片は一度聖者リオンに殺されたのだと何かが泣いている。
馴染んだ感覚だった。
「…弟が…そうだ…弟は…今回…」
記録を探る。
繰り返しの生で、ディオスに弟と呼ばれる存在はいたが、あの子ではなかったと思う。
弟の記憶が、ディオスの頭の中で笑う。
ー兄さま…また…俺だって強いのです。兄さまに会いに帰ってきますから…そんな顔しないでください。ー
これは、どちらの記録だとディオスは思う。
兄弟で言うならば、兄たちも国から送り出した。
今も兄たちが行った国は戦いに明け暮れている。
それにはディオスは何も感情が浮かばない。
弟だったから。
守らないとならないと思っていたから。
弟は特別だったから。
「足りないのは…俺の覚悟か……」
そうかもなと竜は短くなったしっぽを軽く振った。
「足りぬものはないだろう。だが…我には王が足踏みしているように感じる。王は…弟を失うのが怖いのだろう。」
竜の言葉に嘘は感じない。
ディオスはどこかで納得し、悲しんでいた。
守れなかったのだという後悔を深いところで感じている。
自分と同じで同じではない心が泣いているのを感じる。
馴染んだ感覚だった。
そして、もういいだろうと囁く声を。
自由にしてやってくれという嘆きを感じる。
「……天に返すのが…あの子の幸せなのかもしれないな…」
0
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる