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第六章 運命の一年間
164 不安 マールside
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自分の目の前で、しばらく戯れていた王と騎士団長は気が済んだのだろう。
陛下は、ラスティをバルハルトに再度あずけると、小型化した竜を抱き上げた。
そしてマールを見る。
少し考えてから、竜をマールに渡してくる。
「見張っていてくれ。おそらくは…大人しくはしていると思うけど…危険だと思ったら投げればいいからね?」
マールは、竜を受け取る。
しっとりとした温かい感触を感じながらマールは竜を見た。
竜は大人しくしている。
「うむ…お前もかなり消耗しているようだ。」
竜からマールに力が流れ込んでくる。
一瞬焦るが、ただ魔力を補充しているのだと気が付いて自然に力の入った肩から力を抜いた。
魔物の一種とされているが、竜は元々は神の一族とも言われている神聖なものともされている。
腕の中で今は小さくなっている竜は、魔物側ではなく守護竜と言われる神聖な竜だということはマールにも今は分かっている。
神聖な竜は、人に助言するような人に寄り添ってくれるという。
竜は信頼を向けたモノには嘘もつかず誠実だともいう。
自分はともかく、ディオスはこの竜から信頼を受けているであろう。
そのディオスがいる空間で竜が、嘘をついたり人を欺くことは無いだろう。
一瞬疑った自分をマールは恥じる。
竜はそんなマールに目を細めた。
「よいよい…当然の反応だ。むしろ王の反応の方が不安になる。」
竜は、術の準備をしているディオスに目を向ける。
「王は不安定だ。思考は虚ろに自身を蔑ろにしている。世界にも興味はなかろう。ただ…自身の周りの宝しか興味はない。王の宝は王の供からの献上もあるため多いようだが…一番の宝は王の番であろう。王の番がおらねば…王はとうに崩壊していた。主が傍に行けば王の番の負担も減ろうが…あれでは王の番が天に帰れば王は狂うであろうな。」
マールは、やはりそうかと眉を寄せる。
皆が、ラスティに過保護になるのはそこでもある。
ディオスは、今は朗らかな親しみやすい王ではある。
善政をしき、王国は反映している。
だが、先の戦を知っているものは口をそろえて言うのだ。
ディオスは危うい。
ディオスは脆い。
ラスティと共に居ないディオスを見ていないマールにはわからない。
だが、特にバルハルトやジェンがディオスの周りに彼が守ろうと思うような人物を配置したがるのは、そう言う事なのだろう。
ラスティをディオスから奪えばディオスは魔王となるだろう。
ディオスは守るべきものがいないと崩壊する。
そう、バルハルトやジェンは考えているのだろう。
反対しないところを考えれば王の周囲は皆その考えなのだ。
ディオスは、賢王にも魔王にもなる存在だ。
それだけの力がある。
先ほどの竜との争いもただの小手調べ程度。
竜は、ディオスが力を出す前に辞めたのだと思う。
これ以上王に力を出されたら、後ろに守る魔石が危険だとも考えたのだ。
「アスは…アス様は…陛下にとってラスティ様くらいの存在になるの?」
竜はそれはないという。
「王の番は唯一無二。何にもなれぬ。主は時間稼ぎにはあるであろうが崩壊は止めれぬ。」
マールは、自分に力を与える竜を抱きしめる。
不安になったからだ。
不穏を感じたからだ。
「ねぇ…俺より…私より…ラスティ様に力をあげてくれないですか?」
マールの言葉に竜は首を横に振った。
「王の番を癒せるのは主のみだ。主が王の番の中に封じられたのはお互いにとって幸いだった。王の番は陽の欠片から死の呪いがかけられていた。主が陽の欠片の呪いは解いている。だが、陽の欠片は賢者との約定と主の気配のために王の番にそこまで今までは手を出しては来ていない。だがこれからは違う。陽の欠片がこの世界を滅ぼすためには王を狂わさねばらならない。」
マールは、眉を寄せる。
「…陛下が…狂う事と言ったら…やっぱり、ラスティ様ですか?」
うむと竜は言う。
「王の番の命は奪わぬと陽の欠片は聖者と約定を結んでいるようだ。だが、陽の欠片は、王の番の死の呪いは解いていなかった。陰の欠片である主が聖者の放棄により王の番の中に封印されていたからその呪い自体は主の力で消えているが…呪いだけでなく、王の番は運命にも死を組み込まれている存在。」王と騎士がどれだけ守ろうとも王の番は隙を見せれば運命に食われるであろう。」
竜の言葉にマールは青くなる。
ディオスとバルハルトの手が止まっている。
「陽の欠片には陰の欠片である主が対抗するしかないが…主は記録もなくそもそも戦いには向かぬ。この世界は星の欠片が捨てた時点で陽の欠片が神となった世界。主も王の欠片も帰還すべき欠片出この世界では陽の欠片ほどの出力は出来ない。不利でしかないが…今だ地下は陰の欠片たる主の世界。陽の世界は己の所業ゆえに分身しか地上には出れず、本体は安全な地下で眠るしかなくなっている。主が目覚めれば、更なる弱体化は可能であろう。陽の欠片を対し、天に返せば、王か主がこの世界を統べる欠片として再設定すればこの世界は保てるであろうが…」
竜はため息をつく。
「王も主も陽の欠片が天に帰れば、この世界から解放される。どちらも欠片としての記憶が無い。中々に再設定も難しいであろうが…主が元の骸を使って復活すればいくばくかの記録は残っているやもしれぬが…残念ながら我にはこれ以上はわからぬ。」
竜はふむと頷く。
「お前は中々に敏いようだ…」
マールを見て竜はそう言うと、考え込んでしまったのだった。
陛下は、ラスティをバルハルトに再度あずけると、小型化した竜を抱き上げた。
そしてマールを見る。
少し考えてから、竜をマールに渡してくる。
「見張っていてくれ。おそらくは…大人しくはしていると思うけど…危険だと思ったら投げればいいからね?」
マールは、竜を受け取る。
しっとりとした温かい感触を感じながらマールは竜を見た。
竜は大人しくしている。
「うむ…お前もかなり消耗しているようだ。」
竜からマールに力が流れ込んでくる。
一瞬焦るが、ただ魔力を補充しているのだと気が付いて自然に力の入った肩から力を抜いた。
魔物の一種とされているが、竜は元々は神の一族とも言われている神聖なものともされている。
腕の中で今は小さくなっている竜は、魔物側ではなく守護竜と言われる神聖な竜だということはマールにも今は分かっている。
神聖な竜は、人に助言するような人に寄り添ってくれるという。
竜は信頼を向けたモノには嘘もつかず誠実だともいう。
自分はともかく、ディオスはこの竜から信頼を受けているであろう。
そのディオスがいる空間で竜が、嘘をついたり人を欺くことは無いだろう。
一瞬疑った自分をマールは恥じる。
竜はそんなマールに目を細めた。
「よいよい…当然の反応だ。むしろ王の反応の方が不安になる。」
竜は、術の準備をしているディオスに目を向ける。
「王は不安定だ。思考は虚ろに自身を蔑ろにしている。世界にも興味はなかろう。ただ…自身の周りの宝しか興味はない。王の宝は王の供からの献上もあるため多いようだが…一番の宝は王の番であろう。王の番がおらねば…王はとうに崩壊していた。主が傍に行けば王の番の負担も減ろうが…あれでは王の番が天に帰れば王は狂うであろうな。」
マールは、やはりそうかと眉を寄せる。
皆が、ラスティに過保護になるのはそこでもある。
ディオスは、今は朗らかな親しみやすい王ではある。
善政をしき、王国は反映している。
だが、先の戦を知っているものは口をそろえて言うのだ。
ディオスは危うい。
ディオスは脆い。
ラスティと共に居ないディオスを見ていないマールにはわからない。
だが、特にバルハルトやジェンがディオスの周りに彼が守ろうと思うような人物を配置したがるのは、そう言う事なのだろう。
ラスティをディオスから奪えばディオスは魔王となるだろう。
ディオスは守るべきものがいないと崩壊する。
そう、バルハルトやジェンは考えているのだろう。
反対しないところを考えれば王の周囲は皆その考えなのだ。
ディオスは、賢王にも魔王にもなる存在だ。
それだけの力がある。
先ほどの竜との争いもただの小手調べ程度。
竜は、ディオスが力を出す前に辞めたのだと思う。
これ以上王に力を出されたら、後ろに守る魔石が危険だとも考えたのだ。
「アスは…アス様は…陛下にとってラスティ様くらいの存在になるの?」
竜はそれはないという。
「王の番は唯一無二。何にもなれぬ。主は時間稼ぎにはあるであろうが崩壊は止めれぬ。」
マールは、自分に力を与える竜を抱きしめる。
不安になったからだ。
不穏を感じたからだ。
「ねぇ…俺より…私より…ラスティ様に力をあげてくれないですか?」
マールの言葉に竜は首を横に振った。
「王の番を癒せるのは主のみだ。主が王の番の中に封じられたのはお互いにとって幸いだった。王の番は陽の欠片から死の呪いがかけられていた。主が陽の欠片の呪いは解いている。だが、陽の欠片は賢者との約定と主の気配のために王の番にそこまで今までは手を出しては来ていない。だがこれからは違う。陽の欠片がこの世界を滅ぼすためには王を狂わさねばらならない。」
マールは、眉を寄せる。
「…陛下が…狂う事と言ったら…やっぱり、ラスティ様ですか?」
うむと竜は言う。
「王の番の命は奪わぬと陽の欠片は聖者と約定を結んでいるようだ。だが、陽の欠片は、王の番の死の呪いは解いていなかった。陰の欠片である主が聖者の放棄により王の番の中に封印されていたからその呪い自体は主の力で消えているが…呪いだけでなく、王の番は運命にも死を組み込まれている存在。」王と騎士がどれだけ守ろうとも王の番は隙を見せれば運命に食われるであろう。」
竜の言葉にマールは青くなる。
ディオスとバルハルトの手が止まっている。
「陽の欠片には陰の欠片である主が対抗するしかないが…主は記録もなくそもそも戦いには向かぬ。この世界は星の欠片が捨てた時点で陽の欠片が神となった世界。主も王の欠片も帰還すべき欠片出この世界では陽の欠片ほどの出力は出来ない。不利でしかないが…今だ地下は陰の欠片たる主の世界。陽の世界は己の所業ゆえに分身しか地上には出れず、本体は安全な地下で眠るしかなくなっている。主が目覚めれば、更なる弱体化は可能であろう。陽の欠片を対し、天に返せば、王か主がこの世界を統べる欠片として再設定すればこの世界は保てるであろうが…」
竜はため息をつく。
「王も主も陽の欠片が天に帰れば、この世界から解放される。どちらも欠片としての記憶が無い。中々に再設定も難しいであろうが…主が元の骸を使って復活すればいくばくかの記録は残っているやもしれぬが…残念ながら我にはこれ以上はわからぬ。」
竜はふむと頷く。
「お前は中々に敏いようだ…」
マールを見て竜はそう言うと、考え込んでしまったのだった。
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