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第六章 運命の一年間

152 六つの星 ディオスside

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ディオスともう一人のラスティは、マールとラスティが目を覚ますまで待とうと祭壇の奥に座っていた。
もう一人のラスティは、すぐ横に座らせている。

皆にはバルハルトが、使い魔を送ったので無事だという事は伝わっているだろう。
ラスティとマールが気絶しているので、意識が戻ったら帰るという伝言もした。

ジークハルト達は心配しているだろうなと思いながらもディオスはのんびりしていた。

「バルは、しばらくかかりそうだね。」

ぼんやりと国のことを考えず、愛玩動物のように、もう一人のラスティの頭を撫でる。
バルハルトが、帰ってくるのをただ待つ。

「まぁ…遅くなってもジークが仕事してくれるだろうなぁ。」

ジークハルト達には可哀そうだが、心配してもらっておこう。
自分がいなくなった後の予行演習だ。
すでにジークハルトは王になる教育は終わっている。
自分がいなくても問題ないとディオスは、肩の荷が下りたような感覚を感じていた。

「このまま、引退って言うのもいいかなぁ。」

目を丸くするもう一人のラスティに冗談だよと笑う。
実の所8割くらいは本気だったが。
国のことは心配ないとディオスは、何も考えず岩肌を眺める。

「なんだか…ひさしぶりなんだよねぇ」

王になってから、あまりこういう時間を過ごしたことがない。
いつも何かしら仕事があるのでなかなか、ぼんやりとただ待つ時間ということが無かったからだろう。

ラスティが傍にいるときものんびりしているが、自分を戒めるのに忙しい。

パートナーと決めた時から、ディオスはラスティの傍にいると落ち着かない気分を常に感じていた。
子供の時はそんなこともなかったが年頃になると、傍にいると襲いたくなる。
紋章を刻むということはそういうことだが結構強制力があるものだなとディオスは我慢をを強いられてはいた。
色々思考が危険になるのが、とても困るが、そこは禁欲生活も長いので仕方も無いだろうとあきらめていた。

だが…と自分の傍に座って大きな目で見上げているもう一人のラスティを見る。

ディオスにとって不思議なのは、もう一人のラスティは、一緒に居ても安心するだけだということだ。
情欲は感じない。
同じ顔で、同じ声、だが、もう一人のラスティには穏やかな愛情だけしか感じないのだ。
心地よく安心する存在。
ディオスは、ふと、死んだ弟を思い出す。
弟といるときはいつもこんな気分だったなと思い出したのだ。

「あ…もしかして、ちょっといいかい?胸の所の紋章見せてくれる?」

少し赤くなりつつもう一人のラスティは素直に、上着を脱いでシャツのボタンをはずして前を開いた。

あるはずの紋章が消えていた。
代わりに小さな星が六つある。

本人は気が付いていないものだが、ディオスはもう一人のラスティにわからないように眉を寄せた。
ラスティが聖者だと思っていたのだが、どうやら聖者の資格がこちらのラスティに移ったようだ。

いや、元々そうだったのかもしれない。
ディオスがラスティの胸に紋章を刻んだ理由がこの星だ。
繰り返しの世界の記録をディオスは持っているがその中でラスティにこの星は無かったと記録にある。
今回現れたこれを見た時にディオスは紋章で隠すしたのだ。

もう一人のラスティはおそらくこの世界が生み出した緊急処置。
最後の抵抗だとディオスは思う。

もう一人のラスティは、ラスティの分身のような存在になっている。
だが、元々は聖者リオンがラスティを生かすために生み出した世界のために殉じるための存在。
それは世界のために、生きねばならない聖者の在り方に似ている。
もう一人のラスティは紋章が無い事に目を丸くしていた。

「あれは…魂に刻まれてると言われているから…」

ディオスはそう言うともう一人のラスティの様子を見る。
もう一人のラスティは、考え込んでいる。

『今までは気にしていなかったですけど…消えていなかったようにも思うのですが…』

もう一人のラスティは、少し悲し気に眉を寄せる。

『…『俺』の記憶も少し曖昧な所が出てきているのです。はやく…『俺』をラスティから取り除いてもらわないと…『俺』という存在はラスティの負荷にしかならない…圧迫して色々欠けさせている…』

いっそラスティが眠っている今消してくれてもともう一人のラスティは思詰めたようにディオスを見た。
それはしないからとディオスはもう一人のラスティを止めると、うーんと首をかしげた。

「君と言う人格が、独立したのは最近なのかもしれないな。今までは一部として存在していたのだろうけど、自我がはっきりして単独で存在できるようになった…単独で…存在…ああ、そうだ…忘れてた…ディーを…」

ディオスは、ディーを呼び出す。
弱っているが、消えていなかったのだ、
ラスティが気絶して表に出ているのが魔力精製が出来ないもう一人のラスティだったため、最低限の維持分だけを拝借しつつ、ディーは休眠状態になっていたのだ。
ディオスは、手のひらにディーを置き手のひらに小さな魔法陣を浮かばせる。

「これでよし。」

辛うじて、消滅していなかったディーを手のひらに置いて魔力を与える。
もう一人のラスティが、目を丸くしてその様子を観察していた。

「興味があるかい?」

ディオスの言葉に、もう一人のラスティは少し恥ずかしそうに頷いた。

『『俺』には魔力がないので…魔法は不思議です。』

ディオスは、それは体が無いからだろうなと思いながらも、そうと微笑む。
報告では技術面はラスティ以上とのことらしいので新しい体を構築する際は、そこまで多くはなくとも魔力を持てる能力も付け加えたいがとディオスは眉を寄せる。

理屈は一応分かっているが実現するのは難しい。
実験的にリオンに施した処置を思い出し実現できるか頭の中でシミュレーションを繰り返す。

ー でも本気で考えないと…この子がこの世界を救う聖者になるんだから… ー

ディオスは眉を寄せる。
今まではラスティだと思っていた。
だが、違う。

ーこの子が…この世界から抜け落ちた…かけた部品だったんだ。ー

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