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第六章 運命の一年間
149 独白 ディオスside
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バルハルトと穴に飛び込んで、しばらく闇の中を落下する。
多少落ちる速度を遅くしているから、地面に足がつくのは数分かかるだろう。
本当は逆に速度を速めたいところだが、バルハルトが怒るのでしかたなく速度を落としていた。
闇が続く、闇の中へ落下していく。
恐怖を感じるのが普通だろうとディオスは眉を寄せた。
ラスティとマールはどんなに怖かっただろうとディオスは苦しく思う。
だが、ディオスの本人の感想としては、結構落ちるなと言う軽い感想だった。
ー着地失敗したらこれは死んじゃうなぁ~ー
薄く笑いながらそんなことを思う。
ラスティとマールは無事だろうかと眉を寄せるがバルハルトの言いつけは守らないとなとため息をつく。
どちらかと言うと速度を落とすより早めたいのだがとディオスは、先に落ちて行ったバルハルトのおせっかいめと口を尖らせた。
ー別に…俺はいいだろうに。ー
とはいっても、ディオスもバルハルトの心配の原因が自分だという事は理解している。
弟が死んでから、ディオスは自分の命を軽視するようになった。
ディオス自身、自覚はあるがそれを治すことをある時期はあきらめていた。
今は少しは改善しようとはしているが、その時の影響はひどく治ってはいない。
理由は分かっている。
最愛の弟が国のために死んだからだ。
家族に愛されていた弟。
確かに両親も愛していたはずなのに、国のためにと弟を帝国に差し出した。
殺されるとわかっていたのにだ。
助けるための方法は、確かにあった。
それに賭けていたという事も理解はしている。
そして、国王としての、父の苦悩を見ている。
だが、今でもディオスは納得ができていなかった。
その時は王位継承権はなかったディオスを差し出せばよかったではないかと。
自分ならば、よかったのにと今でも悔やむ。
王族に生まれた宿命だなどと口では言えても、心は納得できないままだ。
自分ならばと今でも悔やむ。
ー自分だったら…帝国のやつを殺して終わってやったのにー
暗い感情をディオスは飲み込む。
帝国のほうも当時から高い戦闘力を持つというディオスを警戒し、弟を指名したのは分かっている。
そんなことは、できなかったという事も。
だが、後悔はディオスの心を病ませていた。
ディオスの感情の大半は壊れてしまっているように彼は感じていた。
一番が、自分の命を軽視する考えになってしまったことだろう。
命は大切なもの。
言葉は知っているのに心が受け付けなくなったのだ。
国など、どうでもいい。
王など、くだらない。
別に、滅んでいい。
別に、死んだっていい。
ディオスは虚無の中で暮らしていた。
いつ死んでもいいと思うようになった。
ただ、バルハルトやジェンが泣くので生きていた。
辛うじて、二人がディオスの命を引き留めていた。
弟のために共に必死になって戦った仲間たちは、大切だという心だけは辛うじて残っていたからだ。
ーあいつらは…これ以上泣かしたくないー
弟が死んだときに泣けない自分の代わりに泣いてくれた親友たち。
ディオスの虚無を理解してそれでも彼を見捨てず傍で支え続けてくれた親友たち。
ー弟がいなくなって…心に穴が開いた。怒りに身を任せて殺しに殺した。ー
ディオスはその時に更に壊れている。
弟を亡くして悲しみに囚われて、敵を殺しに殺して自分と同じ家族を失った者を量産した。
それを理解し、ディオスは殺した者の大切なもの達からの憎しみをぶつけられて彼は更に心を壊した。
自分を憎むもの達に殺されても当然だと思うようになった。
それが、自分の死にざまだろうと己をあざ笑っていた。
ー結局、俺は、感情のまま悲劇を量産することしかできない獣だー
父王は息子を見殺しにした愚王として退位し、国を救った英雄としてディオスは王になった。
ディオスは表面上は穏やかな笑みを絶やさない名君といわれるようになった。
だが、その心の内は、虚無しかなかった。
自分をただのヒトゴロシだと罵っていた。
苦しみしかない生など、早々に終わらせたかった。
ーけど…バルハルトとジェンが、俺を大切だと言うから…ー
ディオスは二人を悲しませないというそれだけで生きることにしていた。
自分の価値などそれしかないとディオスは思っていた。
国王など…だれだって出来る。
別に国など、頭が誰になっても民がいれば別にいいだろう。
名前が変わるだけだと投げやりになっていた。
そんな日々を過ごしていた。
けれど…ディオスには大切だと思えるものが少しずつ増えて行った。
最初は、ジークハルトだ。
バルハルトとジェンの間に生まれたジークハルトを初めて見た時にディオスの心が少しだけ動いた。
小さな手に指をつかまれた時に、大きな瞳が自分を映していた時に。
そして、自分の子だと、嘘だと分かっていてたがエスターが生まれた時もそうだった。
己の子ではないと分かっていた。
けれど、彼はディオスを父と慕って甘えてきた。
どうしたらよいかわからず、エスターの教育は間違っていた部分も多いが。
か弱い彼らが平和に生きれる場所を守る。
彼らが大切だと思えるものを守る。
自分にも守るものが出来たのだと。
大切だと思えるものが増えたのだと。
そして、あの日。
弟と同じ色のラスティを見た時に、愛しいという感情を思い出した。
最初は、正直に言えば弟の代わりに幸せにしたいという思いだった。
けれど、ラスティと過ごすうちに弟とは違う意味で大切で、幸せにしたいと思えるようになった。
だが、自分のことはどうでもいいという考えは払しょくは出来ない。
ここで死んでも別にいいという投げやりな考えのまま、ディオスは今も心が壊れたままだ。
だから、いろいろな無茶を平気でしてしまう。
それでも、先ほどのジークハルトの悲し気な瞳は少し胸が痛んだ。
ー別に…いいのに。俺が死んだらラスティが自分のモノになると喜べば。ー
そんなことが出来ない優しいジークハルトにディオスはため息をつく。
「それを許してもらえないのが…俺の罪なんだろうな…」
多少落ちる速度を遅くしているから、地面に足がつくのは数分かかるだろう。
本当は逆に速度を速めたいところだが、バルハルトが怒るのでしかたなく速度を落としていた。
闇が続く、闇の中へ落下していく。
恐怖を感じるのが普通だろうとディオスは眉を寄せた。
ラスティとマールはどんなに怖かっただろうとディオスは苦しく思う。
だが、ディオスの本人の感想としては、結構落ちるなと言う軽い感想だった。
ー着地失敗したらこれは死んじゃうなぁ~ー
薄く笑いながらそんなことを思う。
ラスティとマールは無事だろうかと眉を寄せるがバルハルトの言いつけは守らないとなとため息をつく。
どちらかと言うと速度を落とすより早めたいのだがとディオスは、先に落ちて行ったバルハルトのおせっかいめと口を尖らせた。
ー別に…俺はいいだろうに。ー
とはいっても、ディオスもバルハルトの心配の原因が自分だという事は理解している。
弟が死んでから、ディオスは自分の命を軽視するようになった。
ディオス自身、自覚はあるがそれを治すことをある時期はあきらめていた。
今は少しは改善しようとはしているが、その時の影響はひどく治ってはいない。
理由は分かっている。
最愛の弟が国のために死んだからだ。
家族に愛されていた弟。
確かに両親も愛していたはずなのに、国のためにと弟を帝国に差し出した。
殺されるとわかっていたのにだ。
助けるための方法は、確かにあった。
それに賭けていたという事も理解はしている。
そして、国王としての、父の苦悩を見ている。
だが、今でもディオスは納得ができていなかった。
その時は王位継承権はなかったディオスを差し出せばよかったではないかと。
自分ならば、よかったのにと今でも悔やむ。
王族に生まれた宿命だなどと口では言えても、心は納得できないままだ。
自分ならばと今でも悔やむ。
ー自分だったら…帝国のやつを殺して終わってやったのにー
暗い感情をディオスは飲み込む。
帝国のほうも当時から高い戦闘力を持つというディオスを警戒し、弟を指名したのは分かっている。
そんなことは、できなかったという事も。
だが、後悔はディオスの心を病ませていた。
ディオスの感情の大半は壊れてしまっているように彼は感じていた。
一番が、自分の命を軽視する考えになってしまったことだろう。
命は大切なもの。
言葉は知っているのに心が受け付けなくなったのだ。
国など、どうでもいい。
王など、くだらない。
別に、滅んでいい。
別に、死んだっていい。
ディオスは虚無の中で暮らしていた。
いつ死んでもいいと思うようになった。
ただ、バルハルトやジェンが泣くので生きていた。
辛うじて、二人がディオスの命を引き留めていた。
弟のために共に必死になって戦った仲間たちは、大切だという心だけは辛うじて残っていたからだ。
ーあいつらは…これ以上泣かしたくないー
弟が死んだときに泣けない自分の代わりに泣いてくれた親友たち。
ディオスの虚無を理解してそれでも彼を見捨てず傍で支え続けてくれた親友たち。
ー弟がいなくなって…心に穴が開いた。怒りに身を任せて殺しに殺した。ー
ディオスはその時に更に壊れている。
弟を亡くして悲しみに囚われて、敵を殺しに殺して自分と同じ家族を失った者を量産した。
それを理解し、ディオスは殺した者の大切なもの達からの憎しみをぶつけられて彼は更に心を壊した。
自分を憎むもの達に殺されても当然だと思うようになった。
それが、自分の死にざまだろうと己をあざ笑っていた。
ー結局、俺は、感情のまま悲劇を量産することしかできない獣だー
父王は息子を見殺しにした愚王として退位し、国を救った英雄としてディオスは王になった。
ディオスは表面上は穏やかな笑みを絶やさない名君といわれるようになった。
だが、その心の内は、虚無しかなかった。
自分をただのヒトゴロシだと罵っていた。
苦しみしかない生など、早々に終わらせたかった。
ーけど…バルハルトとジェンが、俺を大切だと言うから…ー
ディオスは二人を悲しませないというそれだけで生きることにしていた。
自分の価値などそれしかないとディオスは思っていた。
国王など…だれだって出来る。
別に国など、頭が誰になっても民がいれば別にいいだろう。
名前が変わるだけだと投げやりになっていた。
そんな日々を過ごしていた。
けれど…ディオスには大切だと思えるものが少しずつ増えて行った。
最初は、ジークハルトだ。
バルハルトとジェンの間に生まれたジークハルトを初めて見た時にディオスの心が少しだけ動いた。
小さな手に指をつかまれた時に、大きな瞳が自分を映していた時に。
そして、自分の子だと、嘘だと分かっていてたがエスターが生まれた時もそうだった。
己の子ではないと分かっていた。
けれど、彼はディオスを父と慕って甘えてきた。
どうしたらよいかわからず、エスターの教育は間違っていた部分も多いが。
か弱い彼らが平和に生きれる場所を守る。
彼らが大切だと思えるものを守る。
自分にも守るものが出来たのだと。
大切だと思えるものが増えたのだと。
そして、あの日。
弟と同じ色のラスティを見た時に、愛しいという感情を思い出した。
最初は、正直に言えば弟の代わりに幸せにしたいという思いだった。
けれど、ラスティと過ごすうちに弟とは違う意味で大切で、幸せにしたいと思えるようになった。
だが、自分のことはどうでもいいという考えは払しょくは出来ない。
ここで死んでも別にいいという投げやりな考えのまま、ディオスは今も心が壊れたままだ。
だから、いろいろな無茶を平気でしてしまう。
それでも、先ほどのジークハルトの悲し気な瞳は少し胸が痛んだ。
ー別に…いいのに。俺が死んだらラスティが自分のモノになると喜べば。ー
そんなことが出来ない優しいジークハルトにディオスはため息をつく。
「それを許してもらえないのが…俺の罪なんだろうな…」
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