不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

文字の大きさ
上 下
164 / 233
第六章 運命の一年間

146 悲鳴 リオンside

しおりを挟む
自分の悲鳴にリオンは、己の冷静さを取り戻した。
目の前の地盤が崩れラスティとマールが落ちた。
手を伸ばしても届かないのは、分かっていた。
だが、リオンは別の目的のために手を伸ばす。

「くそ!!届えぇぇ~!!!」

叫び声に近い気合と共に魔力を放つ。
引き上げるのは無理だとリオンは分かっていた。

「……発動しろ!!!」

リオンは一緒に落ちていく自分の荷物の中の魔石を発動させる。
感覚的に発動したのはわかった。
防御の魔石の発動と荷物の重さを軽くする魔法。
距離のある魔石に刻んだ魔法陣を発動させるためには通常より魔力が必要だった。
一気に魔力が奪われていくのをリオンは感じる。
過去の自分ならばやすやすとやったであろうことを今の自分は出来ないのだなと改めて感じる。
だが、とリオンは綺麗な眉を寄せた。

「く…ぅ…まだ…まだだ…」

もう一つと、辛うじてかけたのは落下速度が遅くなる魔法。
効果の範囲ギリギリだった。
リオン自身の魔力も限界だった。
目の前が一瞬暗くなりリオンは膝から崩れ落ちる。
穴から落ちないように辛うじて倒れ込む体の向きだけ変えた。
しぼりだした魔力の影響だなとリオンは苦く笑う。
過去の自分ならば、ラスティとマールを救いにこの穴に飛び込むこともできただろう。
失ったものをうらやんでも仕方がないとリオンは、考えつつも失ったのが過去の自分の
倒れ込んだリオンをトリスティが彼の体を支えた。

「すまん…私が…」

冷静になれなかった自分をトリスティは恥じていた。
力の入らない手でリオンは、自分を支えてくれているトリスティの頬を撫でる。

「どうした?」

トリスティは、気遣うような瞳でリオンを見つめた。

過去の、以前の生で自分を盲目的に愛していた、憎んでいたトリスティはここには居ない。
目の前のトリスティは姿かたちが同じで魂も同じだが、呪縛を解かれ唯一の人を見つけた友人だ。

それがリオンにはうれしかった。
彼が、呪縛を解かれ自分の意志で生きることができているのだから。

「少し…休憩したい…ちょっと動けない…」

自分の中の魔力を振り絞った結果だ。
けれど、これでかなりの高度から落下しても二人と荷物は守られるだろう。

「トリスティ様、彼を頼みます。」

ロイスが飛び降りようとする。

「気持ちはわかる…だが、ダメだ。」

トリスティが歯を食いしばりながら止めた。
マールのことを考えれば、トリスティ自身が飛び込みたいところだろう。
だが、トリスティは冷静に判断していた。

「おそらく、魔物がいるだろう…それも一人で立ち打ちできる強さではない。退路を確保できない状態で助けに向かったところでラスティ様とマールは…助けれない。」

深い結界の効果の無い場所には強い魔物が潜んでいるだろう。
落下から助かっても二人は危険なままだ。
だが、ロイスが底が見えない穴に飛び込んでも彼らを救えない。
騎士団を投入するか、複数人で隊列を組みなおして救出せねばならない。
彼らの救助のために自分たちが飛び込むことは愚策だと考えたのだ。
そもそも、出口がここだけだったらどうするのか。

「しかし…はやくしなければ…」

手持ちのロープは、短い。
まずは出口の確保だ。

「分かっている!!だから、冷静に対処しなければならないだろう!!」

ロイスにトリスティは叫ぶように言った。
ロイスは、唇を噛みしめて頷き、連絡用の魔石を彼が手に取った時だった。
魔法陣がトリスティに支えられたリオンの横に浮き上がった。

「な…」

トリスティとロイスが身構える。
彼らは見たことのない魔法陣だろう。
リオンは依然見たことのあるそれを見てため息をついた。
彼が、いや…彼らがラスティの危機に来ないはずはないのだ。

「転移の魔法陣だ…」

リオンの言葉にトリスティはリオンを支えて一歩下がった。
魔法陣から美しい光が放たれる
長身の男の姿が三人、その魔法陣から現れた。
ロイスが、目を丸くしてから慌てて跪いた。跪く。
トリスティは、リオンを支えながら頭をたれた。

国王ディオス陛下とジークハルト殿下、そしてバルハルト公。

外交先から飛んできたのだろう。
文字通り飛んで。
ディオスの応力ならば長距離転移も可能なのだなとリオンは、半分呆れたように彼らを見上げる。
疲れ切ってリオンの肩で息をしているリオンの頭をディオスが撫でてわずかに微笑んだ。

「魔法を使ってまもってくれたようだな。」

それからディオスは、穴を見て眉を寄せた。

「ラスティとマールが落ちたのか……聖者リオン…」

ジークハルトは、ぎろりとリオンをにらみつけるがディオスがそれを止める。

「落ち着きなさい。ジークハルト。聖者リオンは助けようとして魔法を使ったようだ。わかるだろう?防御魔法と…重量軽減か…いや落下速度軽減なだ。マールも落下速度軽減もかけたようだ。二人は無事に降りたようだが…落盤の原因の魔法は…ノーマの魔石…あっているか?」

リオンは、ディオスの眼の良さを感心しながらはいと返事を返す。
ロイスが、自分が付いていながらと陛下に頭を地面にこすりつける勢いで頭を下げた。

「不測の事態だ、ロイスに責任をどうこう言うつもりはない。ただ…それでは君の気がすまないだろう?この件が事故か故意であったかを調べるのは君とジーク、トリスティに任せるよ。」

そうディオスは苦笑するとゆっくりと穴の中の闇を睨んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...