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第六章 運命の一年間
146 悲鳴 リオンside
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自分の悲鳴にリオンは、己の冷静さを取り戻した。
目の前の地盤が崩れラスティとマールが落ちた。
手を伸ばしても届かないのは、分かっていた。
だが、リオンは別の目的のために手を伸ばす。
「くそ!!届えぇぇ~!!!」
叫び声に近い気合と共に魔力を放つ。
引き上げるのは無理だとリオンは分かっていた。
「……発動しろ!!!」
リオンは一緒に落ちていく自分の荷物の中の魔石を発動させる。
感覚的に発動したのはわかった。
防御の魔石の発動と荷物の重さを軽くする魔法。
距離のある魔石に刻んだ魔法陣を発動させるためには通常より魔力が必要だった。
一気に魔力が奪われていくのをリオンは感じる。
過去の自分ならばやすやすとやったであろうことを今の自分は出来ないのだなと改めて感じる。
だが、とリオンは綺麗な眉を寄せた。
「く…ぅ…まだ…まだだ…」
もう一つと、辛うじてかけたのは落下速度が遅くなる魔法。
効果の範囲ギリギリだった。
リオン自身の魔力も限界だった。
目の前が一瞬暗くなりリオンは膝から崩れ落ちる。
穴から落ちないように辛うじて倒れ込む体の向きだけ変えた。
しぼりだした魔力の影響だなとリオンは苦く笑う。
過去の自分ならば、ラスティとマールを救いにこの穴に飛び込むこともできただろう。
失ったものをうらやんでも仕方がないとリオンは、考えつつも失ったのが過去の自分の
倒れ込んだリオンをトリスティが彼の体を支えた。
「すまん…私が…」
冷静になれなかった自分をトリスティは恥じていた。
力の入らない手でリオンは、自分を支えてくれているトリスティの頬を撫でる。
「どうした?」
トリスティは、気遣うような瞳でリオンを見つめた。
過去の、以前の生で自分を盲目的に愛していた、憎んでいたトリスティはここには居ない。
目の前のトリスティは姿かたちが同じで魂も同じだが、呪縛を解かれ唯一の人を見つけた友人だ。
それがリオンにはうれしかった。
彼が、呪縛を解かれ自分の意志で生きることができているのだから。
「少し…休憩したい…ちょっと動けない…」
自分の中の魔力を振り絞った結果だ。
けれど、これでかなりの高度から落下しても二人と荷物は守られるだろう。
「トリスティ様、彼を頼みます。」
ロイスが飛び降りようとする。
「気持ちはわかる…だが、ダメだ。」
トリスティが歯を食いしばりながら止めた。
マールのことを考えれば、トリスティ自身が飛び込みたいところだろう。
だが、トリスティは冷静に判断していた。
「おそらく、魔物がいるだろう…それも一人で立ち打ちできる強さではない。退路を確保できない状態で助けに向かったところでラスティ様とマールは…助けれない。」
深い結界の効果の無い場所には強い魔物が潜んでいるだろう。
落下から助かっても二人は危険なままだ。
だが、ロイスが底が見えない穴に飛び込んでも彼らを救えない。
騎士団を投入するか、複数人で隊列を組みなおして救出せねばならない。
彼らの救助のために自分たちが飛び込むことは愚策だと考えたのだ。
そもそも、出口がここだけだったらどうするのか。
「しかし…はやくしなければ…」
手持ちのロープは、短い。
まずは出口の確保だ。
「分かっている!!だから、冷静に対処しなければならないだろう!!」
ロイスにトリスティは叫ぶように言った。
ロイスは、唇を噛みしめて頷き、連絡用の魔石を彼が手に取った時だった。
魔法陣がトリスティに支えられたリオンの横に浮き上がった。
「な…」
トリスティとロイスが身構える。
彼らは見たことのない魔法陣だろう。
リオンは依然見たことのあるそれを見てため息をついた。
彼が、いや…彼らがラスティの危機に来ないはずはないのだ。
「転移の魔法陣だ…」
リオンの言葉にトリスティはリオンを支えて一歩下がった。
魔法陣から美しい光が放たれる
長身の男の姿が三人、その魔法陣から現れた。
ロイスが、目を丸くしてから慌てて跪いた。跪く。
トリスティは、リオンを支えながら頭をたれた。
国王ディオス陛下とジークハルト殿下、そしてバルハルト公。
外交先から飛んできたのだろう。
文字通り飛んで。
ディオスの応力ならば長距離転移も可能なのだなとリオンは、半分呆れたように彼らを見上げる。
疲れ切ってリオンの肩で息をしているリオンの頭をディオスが撫でてわずかに微笑んだ。
「魔法を使ってまもってくれたようだな。」
それからディオスは、穴を見て眉を寄せた。
「ラスティとマールが落ちたのか……聖者リオン…」
ジークハルトは、ぎろりとリオンをにらみつけるがディオスがそれを止める。
「落ち着きなさい。ジークハルト。聖者リオンは助けようとして魔法を使ったようだ。わかるだろう?防御魔法と…重量軽減か…いや落下速度軽減なだ。マールも落下速度軽減もかけたようだ。二人は無事に降りたようだが…落盤の原因の魔法は…ノーマの魔石…あっているか?」
リオンは、ディオスの眼の良さを感心しながらはいと返事を返す。
ロイスが、自分が付いていながらと陛下に頭を地面にこすりつける勢いで頭を下げた。
「不測の事態だ、ロイスに責任をどうこう言うつもりはない。ただ…それでは君の気がすまないだろう?この件が事故か故意であったかを調べるのは君とジーク、トリスティに任せるよ。」
そうディオスは苦笑するとゆっくりと穴の中の闇を睨んだ。
目の前の地盤が崩れラスティとマールが落ちた。
手を伸ばしても届かないのは、分かっていた。
だが、リオンは別の目的のために手を伸ばす。
「くそ!!届えぇぇ~!!!」
叫び声に近い気合と共に魔力を放つ。
引き上げるのは無理だとリオンは分かっていた。
「……発動しろ!!!」
リオンは一緒に落ちていく自分の荷物の中の魔石を発動させる。
感覚的に発動したのはわかった。
防御の魔石の発動と荷物の重さを軽くする魔法。
距離のある魔石に刻んだ魔法陣を発動させるためには通常より魔力が必要だった。
一気に魔力が奪われていくのをリオンは感じる。
過去の自分ならばやすやすとやったであろうことを今の自分は出来ないのだなと改めて感じる。
だが、とリオンは綺麗な眉を寄せた。
「く…ぅ…まだ…まだだ…」
もう一つと、辛うじてかけたのは落下速度が遅くなる魔法。
効果の範囲ギリギリだった。
リオン自身の魔力も限界だった。
目の前が一瞬暗くなりリオンは膝から崩れ落ちる。
穴から落ちないように辛うじて倒れ込む体の向きだけ変えた。
しぼりだした魔力の影響だなとリオンは苦く笑う。
過去の自分ならば、ラスティとマールを救いにこの穴に飛び込むこともできただろう。
失ったものをうらやんでも仕方がないとリオンは、考えつつも失ったのが過去の自分の
倒れ込んだリオンをトリスティが彼の体を支えた。
「すまん…私が…」
冷静になれなかった自分をトリスティは恥じていた。
力の入らない手でリオンは、自分を支えてくれているトリスティの頬を撫でる。
「どうした?」
トリスティは、気遣うような瞳でリオンを見つめた。
過去の、以前の生で自分を盲目的に愛していた、憎んでいたトリスティはここには居ない。
目の前のトリスティは姿かたちが同じで魂も同じだが、呪縛を解かれ唯一の人を見つけた友人だ。
それがリオンにはうれしかった。
彼が、呪縛を解かれ自分の意志で生きることができているのだから。
「少し…休憩したい…ちょっと動けない…」
自分の中の魔力を振り絞った結果だ。
けれど、これでかなりの高度から落下しても二人と荷物は守られるだろう。
「トリスティ様、彼を頼みます。」
ロイスが飛び降りようとする。
「気持ちはわかる…だが、ダメだ。」
トリスティが歯を食いしばりながら止めた。
マールのことを考えれば、トリスティ自身が飛び込みたいところだろう。
だが、トリスティは冷静に判断していた。
「おそらく、魔物がいるだろう…それも一人で立ち打ちできる強さではない。退路を確保できない状態で助けに向かったところでラスティ様とマールは…助けれない。」
深い結界の効果の無い場所には強い魔物が潜んでいるだろう。
落下から助かっても二人は危険なままだ。
だが、ロイスが底が見えない穴に飛び込んでも彼らを救えない。
騎士団を投入するか、複数人で隊列を組みなおして救出せねばならない。
彼らの救助のために自分たちが飛び込むことは愚策だと考えたのだ。
そもそも、出口がここだけだったらどうするのか。
「しかし…はやくしなければ…」
手持ちのロープは、短い。
まずは出口の確保だ。
「分かっている!!だから、冷静に対処しなければならないだろう!!」
ロイスにトリスティは叫ぶように言った。
ロイスは、唇を噛みしめて頷き、連絡用の魔石を彼が手に取った時だった。
魔法陣がトリスティに支えられたリオンの横に浮き上がった。
「な…」
トリスティとロイスが身構える。
彼らは見たことのない魔法陣だろう。
リオンは依然見たことのあるそれを見てため息をついた。
彼が、いや…彼らがラスティの危機に来ないはずはないのだ。
「転移の魔法陣だ…」
リオンの言葉にトリスティはリオンを支えて一歩下がった。
魔法陣から美しい光が放たれる
長身の男の姿が三人、その魔法陣から現れた。
ロイスが、目を丸くしてから慌てて跪いた。跪く。
トリスティは、リオンを支えながら頭をたれた。
国王ディオス陛下とジークハルト殿下、そしてバルハルト公。
外交先から飛んできたのだろう。
文字通り飛んで。
ディオスの応力ならば長距離転移も可能なのだなとリオンは、半分呆れたように彼らを見上げる。
疲れ切ってリオンの肩で息をしているリオンの頭をディオスが撫でてわずかに微笑んだ。
「魔法を使ってまもってくれたようだな。」
それからディオスは、穴を見て眉を寄せた。
「ラスティとマールが落ちたのか……聖者リオン…」
ジークハルトは、ぎろりとリオンをにらみつけるがディオスがそれを止める。
「落ち着きなさい。ジークハルト。聖者リオンは助けようとして魔法を使ったようだ。わかるだろう?防御魔法と…重量軽減か…いや落下速度軽減なだ。マールも落下速度軽減もかけたようだ。二人は無事に降りたようだが…落盤の原因の魔法は…ノーマの魔石…あっているか?」
リオンは、ディオスの眼の良さを感心しながらはいと返事を返す。
ロイスが、自分が付いていながらと陛下に頭を地面にこすりつける勢いで頭を下げた。
「不測の事態だ、ロイスに責任をどうこう言うつもりはない。ただ…それでは君の気がすまないだろう?この件が事故か故意であったかを調べるのは君とジーク、トリスティに任せるよ。」
そうディオスは苦笑するとゆっくりと穴の中の闇を睨んだ。
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