不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

142 初めての冒険 -ようやく出発-

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ようやく、全員の準備が終わった。
一番時間がかかっていたのは、何故かリオンだ。
持っていく魔石のどれにしようか迷っていたようだが、回復魔法より野営用の結界魔法や敵から見えなくなる魔石を選んでいるのは謎だ。

「なんで野営用…」

そんなに危険があるのだろうかと僕は首をかしげた。
リオンは回復はまだ自力で出来る。
だから、補助的なものを持っていくのだと今回のクエストには関係なさそうなものを抱えていた。

「逆になんで皆もってないのさ。」

リオンの言葉にロイスが泊まる気が無いからだとため息をつく。

「ええ~やだ、泊まろうよ!!」

ダメだとトリスティは、頭を抱える。
ロイスが、トリスティの肩を叩いた。

「まぁ…リオン様だから。」

どういう意味だよとリオンは憤慨している。
皆、まぁいいいかと苦笑しつつ、立ち上がった。
リオンは、頬を膨らませながら僕の隣に立った。
なんとなく不安になった僕はリオンに声をかけた。

「何か見えたの?」

リオンは一応予知があると言われている。
本人は予知ではないとは言っているが。
その言葉にトリスティの眉が上がった。
ロイスもリオンの言葉を待ってる。
マールは、めんどくさそうにリオンをみた。
たぶん、マールが一番リオンを理解しているのだろう。
危険だとしたらリオンが隠す要素がない。
危険だからと騒いでいるはずだ。

「ううん、見えてないよ。僕っていつもこんな感じなんだよ。その…体質がトラブルメーカーだから…普通に必要なものは皆が持ってるでしょう。だから、起こりそうな可能性があることに対しての準備を持っていくようにしているだ。」

トラブルメーカーという自覚があるのもどうかと思うが。
リオンは主人公体質…いや…ヒロインたものなと僕は納得する。
僕は僕でトラブルメーカーの素質はあるのだろうけれど…いや…巻き込まれ体質というものだろうか。
確かに、あのゲームでは何かヒロインがトラブルでも起こさないと話は進まない。
そのトラブルの被害者が僕なのだが。
僕はなんとなく、出番が終わった感があるが、リオンにとってはこれからなのだ。

「転ばぬ先の杖っていうよね~」

この世界では言わないが、リオンは上機嫌でそんなことを言う。
失敗しないように、前もって十分な準備をしておくことは必要だろう。
僕は、何とも言えない顔でリオンを見る。

リオンは準備しているからと安心して失敗しそうなところも怖いが。

どうしてだろう。
リオンは準備した以上の何かを引き寄せそうな感覚がするのだ。
トラブルメーカーとはそういうものだろう。

「まぁ…あの洞窟は今のところは危険は無いと思うんだよね。」

今のところ?と僕は首をかしげたがリオンは、頷いただけで何も言わなかった。
リオンはその代わりにと、マールを見る。
僕も同じようにマールを見た。
リオンの言葉を受けてマールが何か始めたからだ。
微妙にマールがなにかもぞもぞして妙な動きをしている。
持っていたカバンから小さな革袋を出してベルトを外した。
マールはベルトに小さな袋を付け直していた。
予備の魔石を入れているのだという。

「ノルンとノーマもいくつかくれたんですけど…今回は使うことはないかなと思って奥に入れておいたのですけど。リオンが不安だから外に出します。」

そう言いながらマールは数を確認している。
ベルトを付け直したがベルトが下に下がってしまう。
魔石が重いのだろう。

「ううーん…そうだ…!!ラスティ様!!」

ノーマの作ってくれたという魔石を取り出して袋に分けるとマールは僕のベルトにつけた。
半分半分でちょうどいいい位置にベルトは固定された。

「すいません。ラスティ、でも…やっぱり…ノルンの魔石は僕のより質がいいです。ラスティ様、こちらを念のため持っていてください。ノルンの作った魔石は魔物除けや気配を消すものです。高レベルの魔物はいないと思いますが、かなり高位の魔物からも姿をくらませることができますから。」

攻撃用のものはないが、防除と逃げるためのものもあるとマールは説明してくれた。
一応聞かなくともわかるけれども僕は頷きつつそれを確認する。
マールの方は、ノーマが作ってくれたものらしい。

「ノーマのものは…少し荒いんですよね。大丈夫だとは思うのですが…あの子のものをラスティ様にはわたせません。リオン様が来るならどうしても役に立ちたいってこれを渡してきましたけど…そういうところが信用させないんだって言っても聞かないし。」

魔石のつくり方が荒いから、魔力が抜ける可能性もあるしとマールは顔をしかめる。
ノルンとマールは、ノーマと仲良くしているが微妙にわだかまりがのこったままのようだ。
まぁ、ノーマは王家の者より教会の者を大切にしている傾向はたしかにある。
今は、王家に教会の意見を伝える立場になっていることもあって教会側とみられているのもあるだろう。
ノルンとマールは、ノーマを僕の傍から離そうとしているようで、最近僕はノーマを見ていない。
あまり変わっていないようだけれど。
彼はジークハルトの側近として今は動いているから会うこともあまりないという理由もある。
まぁ…彼の場合はジークハルトのというよりはエスターよりだけれど。
僕の表情を読み取ったのだろう。
トリスティが苦笑した。

「まぁ…ノーマは主のジークハルトよりはエスターの傍に行きたがるからな。ノルンとマールの気持ちもわかるがほどほどにな。」

トリスティは、そう言いながらマールの頭を撫でた。
少し不満げにマールはトリスティを見上げたが、しかたないと頷く。
トリスティは苦く笑ってから僕を見た。
僕がへらりと笑うと少し遠慮がちにトリスティも笑った。

気にすることはない。

いつもの調子が戻ってきているトリスティに少し安心する。

「さぁ口ばかり動かさないで足も動かして。」

苦笑するロイスにはーいと返事をすると皆に笑われた。

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