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第六章 運命の一年間

139 やはりある不安

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僕は、呆れたような『俺』の感情を感じつつ、再度4人をみる。

「これって大丈夫かなぁ。」

ゲームでは、4人で組んでいくのだが、人数の制約は実際は無い。
なので5人だって問題はない。
はずだ…。
普通の討伐任務だって騎士団で行く。
人数制限などない。
なのに少し不安になった。
それにゲームと違ってチュートリアルなどではない。
本当の冒険になるのだ。
魔物がいないわけではないのだ。

『真剣にいかないと死ぬぞ?』

その通りだと僕は、気を引き締めないと、と僕も準備をしたものを確認する。
ほとんど、薬だ。
僕は、今回は、戦闘面では役に立たない。
武器としてレイピアを持ってはいるが、剣術のレベルは普通だ。
頑張っているけれど、剣術は向いていないとジークハルトに呆れられた。
魔法攻撃は出来るが、威力が大きいから洞窟での戦闘には向かないな陛下に言われた。
魔力が多いのも善し悪しだなと思う。
コントロールは出来るのだが、初めての戦闘で焦って威力を間違えたら目も当てられない。
洞窟が崩落でもしたら、依頼どころではない。

弱い魔物だから僕の剣術でも大丈夫だろうと陛下は思っていたようだが。
が、ジークハルトは頑なに僕が戦うことを拒絶した。
一応、再度いう。
普通だ。
得意と言うわけではないが僕の剣術の腕は普通だ。
実戦をしていないとジークハルトは言うが、当たり前だろう。
今回は初の実戦なのだから。
ジークハルトは、僕が前線に出るのはせめて自分が一緒の時にしてくれと泣きそうな顔をして頼んできた。

過保護かな。
過保護だよな。

ロイスもこれには頭を抱えた。
今回の任務は、僕を戦闘に慣らさせる目的もあったはずだ。
王妃としての外交も考えられている。
この国以外では戦闘に巻き込まれることも多いという。
陛下とジークハルトが常に傍にいるとは限らない。
僕自身が戦えなければ、外交には行けないだろう。
この洞窟の魔物は出ても弱い。
素手でも行けるレベルだとロイスはジークハルトに言ってくれた。

あまりに過保護だろうと。

俺のことを信用してくれないのか?とロイスがジークハルトに言ったくらいだ。
ジークハルトは、信用していないわけではないが不安なのだとロイスに訴えた。

どうしても嫌だと。

ロイスは、ジークハルトの様子に折れた。
単純に、ジークハルトは僕を戦わせてくないらしい。
たぶん、一緒に行ったとしても前線で戦わせてくれないような気がする。

過保護だ。

僕はため息をついた。
陛下も、ロイスもトリスティも魔物が出たら一回くらいは僕に戦闘の経験をと思っていたはずだ。
ある意味ジークハルトに用事がある今回は良い機会だと思っていたらしい。
だが、陛下もロイスもジークハルトもは弱いのだ。
そして一度約束したことは守る人たちだった。

トリスティは呆れていたが、彼もまたジークハルトのお願いに弱い。
結局僕は、戦闘できる状態ではないのだ。

まぁ…ジークハルトが早々に国王になって王妃か王配としてロイスと一緒になったら僕は外交に行くことはない。
なんとなく、僕をだしにしての、告白か何何かかとスンとた気分になったのは内緒だ。
一瞬戦闘訓練がどうでもよくなったが、僕自身のためにジークハルトは何とかせねばならないだろう。

とりあえず今回は一回ひくが。
ジークハルトは、重いのではないだろうかとすこし思う。
今は、気に掛ける人間が多少分散させている。
陛下と僕とロイスの三人がジークハルトが気にかけているものだと思う。

けど、ロイス一人になった時少し二人の仲が心配になった。
ロイスは守られるだけでは我慢できないだろう。
今でもよくケンカじみたことはたまにしているのだ。

あのジークハルトの独占欲を一心にロイスが受けたとしたら大変だなと思う。
それには、『俺』も賛成の様だった。

『大変だよなぁ…ラスティは守られるのに慣れているからそこまで気にしないだろうけど…ロイスも守りたい派だろうからぶつかるだろうな。』

僕は、そうだと頷きながらふと思って『俺』に聞く。

「名前…何がいい?」

少し『俺』は考えていた。
彼を使い魔の体に移した後の名だ。
少し『俺』は考えていたが、間を開けてなんでもいいと言った。

「希望の名前…あるのでしょう?」

確信だった。
彼は何かあるのだ。
だが、それを意識する前に押し込めた。
僕に悟られないように。
けれども付き合いはもう長い。
彼が隠し事をするときの感覚も慣れたものだった。

『うん…あるけど…昔の名前…』

僕は首をかしげる。
昔の名前?と。
意味が分からなかった。

『お前の…前世の名前だと思う。意識の中に…意識の奥底にある名前だ…お前と『俺』が別なんだって気が付いてから見つけた名前だから自信はないけど…良い名だと思った。』

僕の昔…つまり前世の名。
思い出せないそれを『俺』は知っているのだ。

「…教えて?」

自分の名前なのに…教えてとは複雑だなと僕は思う。
もしかしたら聞いたら思い出すかもしれない。

『田中』

僕は眉を寄せる。

「それ苗字。わざと言っているだろう。あとなんだか違う気がする。」

田中と言う名は、なんとなく僕が呼んでいた名前の様な感触がする。
会社の後輩の苗字のような感触。
苦笑している『俺』は何も言わないから正解だろう。

『辛くないか?』

複雑そうな『俺』の感情が伝わる。
僕は『俺』のこの複雑な感情をかなり前から感じていた。
彼はどこかで自分が人造の人格だという事を否定したがっている。
ここまでしっかりした自我がある彼だ。
人に作られたと言われて、状況的に納得しても感情として受け入れ切れていない。

「遠慮しなくていいんだ。もう僕の覚えていない名前だ。もう一人の僕がそれを使ってくれるのはうれしいことだと思う。まぁ…自分で自分の名前を呼ぶって言うのは変な感じかもしれないけど…もう覚えていないものだから。」

僕の言葉に『俺』はそうだなと頷く。
僕としては、彼が人造だろうが天然ものだろうがもう一人の僕なのだという意識がある。
昔の名前を使ってくれていい。
そう思った。

『アスカ…あとアヤカ…その名前がお前の記憶の意識の中に沈んでいた。たぶん…お前とお前の妹の名前だろう?』

僕は、少し考えて頷いた。
はっきりとはわからない。
けれども…しっくりきたのだ。

「うん…」

失われた何かを…『俺』からもらった…そんな感覚を僕は感じていた。

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